先輩の家へ預かりものを届けに行ったら、奥さんに「油を売っていきねー。」と、コーヒーを勧められ、工場の事務所で少し話をした。H先輩は鉄工所の社長で、弓道の先輩で、坂網猟で鴨をとる名人だ。加賀の坂網猟は元禄年間の大聖寺藩士が考案したそうである。
その、H先輩が見せてくれた村松友視著の「金沢の不思議」という本は、H先輩あてに本の裏表紙に村松氏のサインがあった。そして、金沢の紹介が満載のこの本の最後に「闇が降るー大聖寺・坂網猟の神秘」という章に、H先輩の名前が載っていた。村松氏の取材に応じて坂網猟を披露したそうだ。
坂網を闇の中へ跳ね上げるタイミングは、猟師が獲物を狙うというより、獣が獣を狙う目だと書いていた。新幹線で金沢ブームに乗り皆が目を向けているが、加賀の紹介をしてあるところが嬉しかった。坂網猟は紹介するに足る伝統の猟である。
さて、その名人級のH先輩は、若いころ国体に何回も出場し、弓道においても名人級である。特に、離れの鋭さは県下の誰よりすごいと思う。現在は、弓道より仕事と猟のほうが力が入っているが、時折道場で見せてくれる鋭い離れは現役バリバリだ。
H氏の離れが鋭い理由が、この本で分かった。坂網を跳ね上げる瞬間の命のやりとりを再現しているのではなかろうか。
前から「Hばなれ」あるいは、「イーグルばなれ」と、称して私たち後輩は、その離れが出来るようあこがれるのである。「金沢の不思議」から「離れの不思議」に至ってしまった。自慢の先輩である。自慢の先輩や仲間は多いのに、わたしときたら・・・。