2006年に刊行された東野圭吾の推理小説で、
刑事・加賀恭一郎が練馬署にいた頃の話。
さもありなんと言う、家族の関係を描いたものだが、
親子の愛は屈折して間違った方向に進んでしまう。
何処にでもいるようなサラリーマン前原昭夫は、
妻の八重子と一人息子で中学3年生の直巳と、
母親の政恵と四人暮らしである。
ある金曜日、残業をしていると八重子から電話が入る。
なんでもいいから早く帰って来いと・・・。
ただならぬ様子に昭夫が帰宅すると、
自宅の庭でビニール袋をかけられた幼女の死体を発見する。
昭夫は驚くがすぐに直巳がやった事だと気づき、
八重子と相談して遺体を公園のトイレに遺棄する事にする。
昭夫は仕事にかまけて母親を八重子に押し付けた事と
情緒不安定な直巳の教育やしつけから目を背けた事に
負い目を感じているため、直巳を溺愛する八重子が、
犯行を隠蔽しようと言うと、押し切られてしまう。
深夜に遺体を遺棄しに行った昭夫は、
八重子と犯行を隠すためにシナリオを考える。
捜査にあたる加賀は従弟の松宮刑事と組む事になるが、
新米の松宮に独自の推理や捜査方法を教える。
上司たちも松宮を育てるために加賀のやり方を支持する。
加賀は最初の段階から前原家に疑いを持ち、
前原家を調べ始める。
遺体の遺棄が昭夫だと裏づけられると、
昭夫は母親の政恵が認知症である事を利用し、
直巳の犯行を政恵がやった事にする。
ところが加賀は政恵が認知症の演技をしている事を見抜き、
昭夫の妹の春美に協力を求め、昭夫が真実を白状するように
仕向けて行く。
初めから犯人が誰だか判っていた加賀が、
昭夫と八重子に、親子の愛とは何かを気づかせる。
犯行を暴くというより人間の心に訴えて行くくだりが、
この世知辛い世の中に沁みて行く。
昭夫と八重子の直巳に対するねじ曲がった愛と、
政恵の昭夫に対する、間違った事を戒めようとする気持ち、
そして背景となっている加賀と加賀の父親との関係が、
3つ巴となって押し寄せてくるのだった。
2011年に阿部寛主演でドラマ化されているが、
けっこう、はまり役の様だ。