日本は「世界一のパワハラ地獄」、消えない6大理由 根絶できない「日本独特の深い背景」
一部上場企業の社長・企業幹部、政治家など「トップエリートの話し方」を1000人以上変えてきた岡本純子氏。
たった2時間の指導で「棒読み・棒立ち」を「会場を総立ちにさせるほどの堂々とした話し方」に変える「劇的な改善ぶりと実績」から「伝説の家庭教師」と呼ばれている。
その岡本氏が、全メソッドを公開し15万部のベストセラーとなった『世界最高の話し方』に続き、このたび『世界最高の雑談力―― 「人生最強の武器」を手に入れる! 「伝説の家庭教師」がこっそり教える一生、会話に困らない超簡単50のルール』を上梓した。同書は発売3日で3万部を突破するなど、話題を呼んでいる。
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コミュニケーション戦略研究家でもある岡本氏が「『パワハラ地獄』が日本から根絶できない6つの深い訳」について解説する。
■「世界一のパワハラ大国」である日本
日本は「世界一のパワハラ大国」です。というのも、そもそも「パワハラ」は和製英語であり、海外にはその言葉がないから。
英語では、「Workplace bullying (いじめ)」「harassment」などと言われますが、海外で職場でのいじめが、日本ほど取り沙汰されることはあまりありません。
埼玉県にある准看護師学校で、理事長が生徒にパワハラし、生徒の半分以上が辞める事態になっていることがつい最近、「文春砲」によって明らかになりました。
理事長は、生徒が少し答えに窮すると、「なんでわからないの」と長々と説教をしたり、「カス」「アホ」「認知症」などの暴言を吐いたりすることもあったといいます。
なぜ、日本ではここまでパワハラが跋扈し、なかなか根絶できないのか。その根源に迫っていきましょう。
富山のある村では、10年以上にわたり、職員の3分の1がパワハラを受けていた事態が発覚しました。
自治体から警察、学校、企業まで、パワハラのニュースを聞かない日はありません。まさに、「パワハラ地獄、日本」といった様相です。
■10年で2倍以上も増えた「パワハラ」
「パワハラ」とは、「強い立場の者が、その力を利用して、より低い立場の者に嫌がらせやいじめを行うハラスメントや職場のいじめ」を意味しますが、都道府県の相談コーナーに寄せられた相談件数は、2019年に8万7570件。
この10年で2倍以上に増加しています。厚生労働省の調査では、31.4パーセント、実に回答者の3分の1が「パワハラを受けたことがある」という驚きの結果でした。
2019年5月、「改正労働施策総合推進法」(通称「パワハラ防止法」)が成立し、企業(事業主)が職場におけるパワーハラスメント防止のために、雇用管理上必要な措置を講じることが義務付けられました。
大企業では2020年6月、中小企業では2022年4月から「パワハラ防止法」が施行されていますが、まだまだ根絶には程遠い状況です。
そもそも、この国で、なぜ、パワハラがはびこるのでしょうか。その背景には、日本独特の「労働文化」「コミュニケーション文化」があります。
【1】「成長は『苦行』の後にしか得られない」という日本人固有の超マゾ体質
「今日の仕事は、楽しみですか」という広告が炎上したことがありましたが、日本には、「仕事や勉強は『苦行』であり、つらさや痛みに耐え、乗り越えてこそ、成長できる、目的が達成できる」という、極めてスポコン的な価値観が根強くあります。
「ほめるのは甘やかすことであり、パワハラはある意味、苦しみを与え、成長させるために必要な指導である」ととらえる上司やトップが生まれやすい素地があるのです。
「威厳を持ち、多少の反対も恐れずに、独断専行で実行する人こそが、強いリーダー」。こうした「父権的カリスマ」リーダーが、日本においてはもてはやされる傾向がありました。
【2】「非情で強い『ドS型』カリスマリーダー」信仰
「強権型」「トップダウン型」のリーダーであれば、下の人たちは、ただ、その意向に従えばいいだけ、自ら考え、行動しなくてもいいのですから、ある意味、ラクなものです。
「鬼教官」「軍曹」のようなリーダーに、それに疑いもせず従う役員や社員という「共存関係」が築かれやすい企業文化が存在しているわけです。
■「日本人の我慢強さ」が問題を見えにくくする
【3】ガチガチの「上意下達」「タテ社会」の弊害
日本のように長幼の序を重んじる国では、「目上の者は、目下の者に指令し、下の人は上の人に敬語を使い、従う」という「上下関係」でコミュニケーションが規定されてしまいます。
こうした身分の固定化によって、年齢や序列が上の人が、ぞんざいで横柄な言葉遣いになりやすいという弊害が生まれやすくなります。
【4】ちょっとのことは忍耐で乗り越える「我慢至上主義」
日本人のギネス級の「我慢強さ」が、パワハラ問題を見えにくくしている部分はあるでしょう。
実際、私にも新聞記者時代、壮絶なパワハラ上司がいました。1時間おきに電話をしてきたり、ポケベルを鳴らされて行動をチェックされたり、ネチネチと嫌味を言われ、説教をされました。
職場の隣の席には、延々と、堂々と、ポルノ動画を見続ける上司もいました。
しかし、「事を荒立てないほうがいいだろう、私さえ我慢すれば」と口をつぐんでいました。「告げ口をして仕返しをされたくもない、ちょっとの忍耐で済むなら」とあきらめていたのです。
そういった我慢強さが「パワハラ野郎」をのさばらせる結果につながってしまった部分もあるでしょう。
これが海外であれば、声を上げるか、もしくは、嫌な上司なら、さっさと辞めるというオプションもあるでしょう。
【5】なかなか会社を辞められない「雇用流動性の欠如」
アメリカのある調査では、6割を超える人が「仕事を辞めたい理由」として「上司が嫌いだから」と答えています。
仕事を辞める理由は、「仕事そのもの」ではなく、「上司が嫌だから」というのが最も多いのだそうです。
つまり、「嫌な上司であれば、さっさと辞める」。これが世界の常識なわけですが、雇用流動性の低い日本ではそうもいきません。「パワハラに耐え続けるしかない」とあきらめてしまう人も少なくないわけです。
また、そんなパワハラ上司でも、解雇は難しく、なかなか企業からは排除しにくいという事情もあります。
【6】日本全体が「叱る依存」に陥っている
臨床心理士の村中直人さんは著書『〈叱る依存〉がとまらない』(紀伊國屋書店)の中で、私たち現代人に「叱ることに依存している人」が増えていると指摘しています。
「叱ること」「一方的な説教」は基本、何の効果も生まないにもかかわらず、人は叱りたがるものです。それは、ルール違反を犯した相手に罰を与える体験をすると、脳の報酬系回路が活性化し、強い満足感や快感を得られるからだそうです。
「叱る」という行為で得られる「自分の行為には影響力がある」「自分が行動することで何かよいことが起きる」といった感覚に依存してしまいがちになる。
まさに、「パワーハラスメント」とは、職場における〈叱る依存〉の一形態、もしくはその延長線上であると指摘しています。
■パワハラ根絶は「話し方」を刷新することから
とくに現代は、自分にはまったく関係のない芸能人の不倫やスキャンダルに青筋を立て、制裁を加えようと躍起になる人が大勢存在するような「行きすぎた処罰感情」が暴走している時代です。
「叱るは正義」と考える人たちがいまだに多く存在するこの国に、「パワハラの萌芽は無数にある」ということなのです。
「パワハラ根絶」は、法制度を整えるだけで済む話ではありません。「上下関係に縛られないフラットな関係性」と「円滑なコミュニケーション」はパワハラを抑止するばかりではなく、イノベーションや企業変革にも大きな効果を発揮します。
日本企業の風土改革は、まずは一人ひとりが「話し方」をはじめとする「コミュニケーションスタイル」を刷新していくところから始める必要があるでしょう。