大阪の“南北格差”はさらに広がる? 北大阪急行「延伸」で府南部から漏れる、「大阪市&北摂はズルい」のホンネ
大阪の新たな動線

大阪府北部の北摂地方を走る北大阪急行が箕面市へ延伸した。関西の住民に人気の北摂はますます便利になりそうだが、このままでは大阪の南北格差拡大が避けられそうにない。
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千里丘陵の地下を走る北大阪急行の列車が箕面市の箕面船場阪大前駅を過ぎ、地上に出ると、車窓から閑静な住宅街が見える。住宅街として人気がある箕面市の街並みだ。列車は間もなく終点の箕面萱野駅に到着する。春の気配が濃くなってきた3月末の週末、ホームではお出かけの家族連れらが列車の到着を待っていた。
吹田市の江坂駅から豊中市の千里中央駅~箕面萱野駅を結ぶ北大阪急行が3月、北の箕面市へ延伸した。延伸区間はわずか2.5kmだが、北大阪急行は大阪メトロ御堂筋線と相互乗り入れしている。
このため、箕面市民は乗り換えなしで梅田や難波へ行けるようになった。移動時間は大阪メトロの梅田駅まで25分、なんば駅なら34分だ。
箕面市への経済効果は年614億円

人口約14万人の箕面市は市外へ通勤する市民の約半数が大阪市で働いている。箕面市まちづくり政策室は
「北大阪急行の延伸は市民の悲願。利便性が大きく増し、地域のブランド力も上がる」
と目を細めた。
箕面船場阪大前駅の近くでは、地上30階以上のタワーマンション3棟が建設されている。総戸数は計1100戸以上。販売価格3億円を超す高額物件もある。箕面萱野(かやの)駅では駅直結の商業施設で新棟がオープンした。箕面市は延伸で
・人口:約4500人
・事業所:約480か所
が増え、年間614億円の経済波及効果があると見込んでいる。国土交通省の地価公示では、箕面市船場西が前年より8.7%、箕面市今宮が8.6%上がり、大阪府の住宅地地価上昇率で1、2位を占めた。
北大阪急行の延伸は大阪府が2014(平成26)年、整備推進を決めた「公共交通戦略4路線」のひとつ。残りは
・大阪モノレールの延伸
・なにわ筋線の新設
・西梅田十三新大阪連絡線の整備
で、大型鉄道事業は大阪市以北に集中し、堺市以南にない。
北摂は人口増、泉州・南河内は人口減

大阪府の現状を表す言葉に、
「南北格差」
がある。発展する北摂や大阪市北部と沈滞する堺市以南の南部に見られる格差を意味している。北摂とは旧摂津国北部のことで、大阪府の区分では箕面市、吹田市、豊中市など10市町を指す。
これに対し、南部は泉州(旧和泉国)地方9市4町、松原市以南の南河内(旧河内国南部)地方6市3町村が入る。堺市や岸和田市、富田林市などで、戦前、戦後の基幹産業だった繊維の低迷などから、北部との格差が各種データに表れている。
2020年の国勢調査人口を5年前と比較すると、北摂は豊能、能勢の両町を除く8市町が増加を示した。大阪市企画振興部は
「子育て世帯が大阪市から北摂へ流出している」
という。ところが、南部は大阪狭山市、田尻町以外の14市6町村が減少した。
ひとり当たりの府民所得は2021年度、北摂が314~324万円なのに対し、南部は256~286万円にとどまる。泉佐野市と泉南市、田尻町にまたがる関西空港の対岸に
「副都心」
を設ける大阪府の構想がバブル崩壊で実現せず、それに代わる官民連携の大規模プロジェクトが生まれなかったことも、地域経済が浮揚しなかった一因に挙げられる。
南部の閉塞感と経済凋落

関西空港は訪日外国人観光客で活気を呈しているが、南部は関西空港がある立地を生かせていない。関西空港に降りた訪日客の大半が南部を素通りし、大阪市へ向かう。コロナ禍前の2019年、南部に30分以上滞在した訪日客は
「5%以下」
しかいなかった。
南海電鉄が岬町で運営していたレジャー施設のみさき公園は2020年で閉園した。北摂の豊中、吹田両市にまたがる千里ニュータウンは人口減少に歯止めが掛かったが、泉州の堺、和泉両市にある泉北ニュータウンは人口流出が止まらない。南部を取り巻く環境は厳しさを増す一方だ。
泉大津市の泉大津中央商店街は、南海電鉄泉大津駅の近くにあるが、半数近い店舗がシャッターを閉じていた。駅へ向かう主婦(65歳)に話を聞くと
「大きな事業は大阪市か北摂ばかりだから、泉州はこのありさま。ずるいよ」
と不満をぶつけた。
南部の活性化を模索する動きも

こうした現状を打開しようと大阪商工会議所は「グレーターミナミ構想」を推進している。大阪市南部の難波、天王寺、新今宮地区と泉州、南河内を一体化して地域振興に取り組む事業で、地元で生まれた新事業を支援し、SNSなどを通じてPRしている。
構想の柱は自然を生かした観光振興や外国人材の定住促進、脱炭素技術の集積。大阪商工会議所地域振興部は
「大阪南部の良さをアピールし、観光やビジネスで南部が存在感を発揮するのを助けたい」
と力を込めた。
みさき公園の跡地は、岬町が公募型プロポーザル方式(地方自治体などが応募者のなかから最適な民間事業者を選定する手法のひとつ)で事業者を募り、不動産開発のカレイドジャパンを代表とする新会社のアークルと2022年に事業契約を結んだ。アークルは動物園や自然と戯れる場所を備えた子どもの遊び場などを整備し、2027年から順次開業する方針。
岬町産業観光促進課は
「大阪の南北格差が広がるのは、人の流れが北へ向いているからだろうが、南にももっと目を向けてほしい。みさき公園の後継施設がそのきっかけになれば」
と期待を語った。
新幹線が通る北部に比べ、国土軸から少しずれた南部は地理的なハンディを持つ。相次ぐ大規模事業で北部の利便性がさらに高まれば、南北格差の拡大は避けられそうもない。現状打開には知恵と工夫で名案を生むしかない。