【万博開催の懸念】大雨・地震で2つだけの橋・トンネルに通行止めの恐れ…開催中に会場“孤立”の危惧 具体的な防災計画は今も検討中
来年4月開幕の大阪・関西万博まで1年を切る中、「建設費・運営費の上振れ」「海外パビリオンの建設の遅れ」など、万博開催への不安や批判の声が相次いでいますが、2024年に入り国内外で大きな地震が相次ぐ中、人工島「夢洲」での開催に“孤立状態”にならないか懸念が指摘されています。万博協会は昨年末に防災基本計画を発表しましたが、具体策は今もなお検討中で、来場者が安心して訪れることができるのか、課題は山積しています。
■去年の大雨でトンネル冠水 橋も風速20メートル以上で通行止めを検討
会場となるのは、大阪湾に浮かぶ人工島・夢洲ですが、夢洲につながっている道路は北側の夢舞大橋と、東側の夢咲トンネルの2つだけ。鉄道で会場のある夢洲に入ることができるのは、夢咲トンネルの車線と並走する形で延伸工事が進められている大阪メトロ中央線の1路線のみです。
去年6月には、夢咲トンネルが大雨により冠水したため、一時通行止めとなりました。さらに、夢舞トンネルについても、風速が20メートルを超えると通行止めが検討されることになります。大阪メトロも冠水や一定の風速を超えた場合は運転見合わせになることから、仮に2つのルートが通行止めになった場合、夢洲からは外に出られず“孤立状態”となります。
記憶に新しいのは2018年9月、近畿地方に甚大な被害をもたらした台風21号です。関西空港では最大瞬間風速58メートルを記録し、連絡橋にはタンカーが衝突。道路も鉄道も寸断され、空港島に約8000人が取り残されました。
万博の開催期間中には1日で最大23万人近くが訪れると想定される中、会場となる夢洲や北側の舞洲には病院などもありません。会場内にはパビリオンや飲食施設はあるものの、パビリオン建設の遅れとともに計画は変更を余儀なくされる中、多数の来場者にどこまで対応できるのかは未知数です。
■南海トラフ地震で対岸エリアは津波で浸水・液状化のおそれ…避難は可能?
“孤立”の危険性があるのは、大雨や台風だけではありません。
南海トラフ巨大地震が発生した場合、最大震度は6弱、津波の高さは5.4メートルと想定されています。夢洲は海面から11メートル前後の高さまでかさ上げされているため、津波による被害は限定的とされていますが、橋やトンネルにがれきが漂着することが想定されるほか、対岸となる此花区や港区の多くが浸水エリアとなっていて、大雨の場合と同様、来場者が夢洲からいつ脱出できるかは不透明です。
津波がなかった場合でも、地震により沿岸部の液状化の懸念が残っています。夢洲については液状化しにくい粘土質の土砂のため、被害は軽微とされていますが、橋やトンネルの先にある人工島の舞洲や咲州は液状化が起こる可能性が高く、すぐに島外に避難できるかは分かりません。
このほか、地震による落下物や停電、火災が発生する可能性もあるほか、1月の能登地震で起きたように通信設備が損壊し、携帯電話をはじめとした機器が使えなくなる懸念もあります。
■具体的な備蓄・避難計画は検討中 吉村知事「夏までに計画立てる」
万博協会は去年12月、こうした災害による被害想定をまとめた「防災基本計画(初稿)」を公表しました。
この計画の中には、会場内に自衛の消防体制を置くことや、医療救護施設に医療従事者を常駐させ、備蓄倉庫や非常電源などを整備することが盛り込まれています。
ただ、具体的な備蓄や来場者の避難計画は検討中の段階です。開幕まで1年を切る中、大阪府の吉村洋文知事は「今年の夏までに具体的な計画を立てる」と説明しています。
来場者が安心して万博に来場できるようにするために…残された時間は決して多くはありません。