物価高騰が建設費押し上げ

 大阪モノレール延伸事業の費用がほぼ倍増し、工期も4年程度延びることがわかった。大阪府民の一部から「計画がずさんだったのではないか」と疑問の声が上がっている。

 工事用足場に囲まれたT字型のコンクリートの塊が列を組んで並ぶ。遠くから眺めると、巨大な恐竜の背骨のよう。大阪市鶴見区茨田(まった)大宮の大阪モノレール本線延伸工事現場では、モノレールの高架を乗せる支柱が建設されている。事業を進める府鉄道推進課は

「基礎工事の場所も含めれば、ほぼ全線で工事に入っている」

という。

 鶴見区の現場から南へ約5km、東大阪市瓜生堂(うりゅうどう)では支柱や車両基地の基礎工事が始まっている。延伸区間の終点となる瓜生堂駅(仮称)の建設場所でもあるが、ここで思わぬ問題が待ち受けていた。地盤が予想以上に軟弱で、駅舎の工法変更を余儀なくされたことだ。2029年の完成予定が4年程度遅れる見通しとなった。

しかも、昨今の物価高騰などで786億円の工費に

「約650億円」

を追加せざるを得ない状態。吉村洋文府知事は記者会見で「他の公共工事や民間工事も物価高騰の影響を受けている」とやむを得ない事情であることを強調したが、府民には唐突な工費の

「ほぼ倍増」

に見える。事業継続の妥当性は5月14日の府建設事業評価審議会で審議される予定だ。

東大阪市の瓜生堂駅(仮称)建設予定地(画像:高田泰)

新設駅は五つ

 大阪モノレール本線は大阪空港駅(豊中市)から府北部を東へ進み、南茨木駅(茨木市)で南へ方向転換して門真市駅(門真市)へ至る21.2km。府の第三セクター「大阪モノレール」が運行している。延伸計画では門真市駅から8.9km南の瓜生堂駅までを新たに整備する。

 ルートには大阪市鶴見区と大東市も入るが、駅が新設されるのは門真、東大阪の両市。

・松生町駅(門真市)
・門真南駅(同)
・鴻池新田駅(東大阪市)
・荒本駅(同)
・瓜生堂駅(同)

の計5駅となる(駅名はいずれも仮称)。

 瓜生堂駅に近鉄が奈良線の新駅を建設するなどし、大阪市中心部から放射線状に郊外へ延びる

・大阪メトロ長堀鶴見緑地線
・JR学研都市線
・近鉄けいはんな線
・近鉄奈良線

の計4路線と接続される。整備費は沿線の地方自治体も負担するが、吉村知事は沿線自治体に追加負担を求めず、国と府で増額分を対応する考えを明らかにした。

大阪市鶴見区で進む支柱の建設工事(画像:高田泰)

交流乏しい門真市と東大阪市

 大阪モノレールの構想自体は古くからあり、1960年代に豊中市、吹田市など府北部を東西に、門真市、東大阪市など府東部を南北に走る外環状鉄道として発案されたのが始まり。当時の将来構想では南は堺市、西は兵庫県西宮市まで伸ばし、大阪都市圏を囲むように運行することを想定していた。

 その後、輸送方式にモノレールが採用され、1990(平成2)年に千里中央(豊中市)〜南茨木(茨木市)間が開通したのを皮切りに本線が延びていく。現在の大阪空港〜門真市間21.2kmが開通したのは1997年のことだ。

 延伸区間は2013年、当時の松井一郎府知事が府の黒字経営を府民に還元するとして事業化を関係部局に指示、府の公共交通戦略4路線の中に組み入れて計画が動きだした。しかし、需要については疑問の声が少なくない。現在の本線も1997年の大阪空港駅開業まで赤字が続き、累積赤字が一時

「約200億円」

に上っていた。

 延伸区間の門真市にはパナソニックの本社があり、東大阪市は町工場の集積地として知られるが、相互の交流は活発といいにくい。東大阪市が国勢調査データを基に他市との人の流れを調べたところ、市外で働く市民約10万人のうち、ほぼ半数が大阪市へ向かい、門真市へ行く人は

「約1400人」(1.4%。71人にひとり)

しかいなかった。門真市から働きに来る人も同様に少数だ。

 結局は空港アクセスの役割に期待するしかなさそうだが、東大阪市からだと大阪市の難波へ出て空港行きのバスに乗り継ぐのと大して所要時間が変わらない。瓜生堂駅予定地に近い近鉄八戸ノ里駅前で話を聞いた70代の男性は

「東大阪市から大阪市へ30年以上通勤したが、門真市へ行く機会はほとんどなかった。1400億円以上もつぎ込んでやることなのか。ずさんやね」

と話す。東大阪市交通戦略室は「市内を南北に走る鉄道がない。モノレールができれば利便性が増す」とメリットを説明したが、門真市地域整備課は

「事業者の府が必要な路線といっているのだから、必要なのでないか」

と人ごとのような回答を寄せた。

延伸の起点となる門真市駅(画像:高田泰)

過去に相次いだ府内の「負の遺産」

 大阪市此花区の人工島・夢洲(ゆめしま)で2025年に開催される大阪・関西万博の会場建設費は、当初の1250億円が2度にわたって上振れし、

「最大2350億円」

まで膨れ上がった。同じ夢洲で開業予定の統合型リゾート(IR)を含めると、夢洲のインフラ整備費は当初の約3400億円が約7500億円に倍増している。

 これらの負担増は公金投入という形で府民の肩にのしかかる。世界的なエネルギー価格の上昇や建設資材の高騰など自治体の責任を問いにくい要素が大きいが、当初の費用算定に甘さがなかったのだろうか。

 府内ではバブル経済の崩壊後、阿倍野再開発(大阪市阿倍野区)、アジア太平洋トレードセンター(大阪市住之江区)、大阪シティエアターミナル(大阪市浪速区)、クリスタ長堀(大阪市中央区)など、甘い需要予測が招いた

「負の遺産」

が相次いだ。

 走りだしたら止めらない無駄な公共事業は、自治体財政に深い傷跡を残した。阿倍野再開発のように赤字の穴埋めが2023年度までかかった例もある。大阪維新の会は府政を握って以来、負の遺産解消を目標のひとつに掲げてきたが、府民の一部は大阪モノレール延伸計画に負の遺産となる気配を感じているようだ。