“限界集落”目前? 大阪・南港ポートタウン「高齢化率49%」の現実! 理想のニュータウンはなぜ時代に取り残されたのか?
Merkmal12/11(水)5:41
ポートタウン東駅へ入ってきたニュートラム(画像:高田泰)
都会の限界集落
車両通行禁止を掲げて街開きした大阪市のニュータウン・南港ポートタウンが、人口減少と高齢化に苦しんでいる。理想の暮らしを追い求めた街はどうなるのだろうか。
緑に囲まれた街区に10階建て以上の集合住宅が整然と並ぶ。その間を走るのは、広い歩道とニュートラム(大阪メトロ南港ポートタウン線)。大阪市の人工島・咲洲にある南港ポートタウン(住之江区南港中)は1977(昭和52)年、大阪市が街開きした。
広さは東京ドーム21個分に当たる約100haで、うち公園と緑地が16%を占める。地域内に
・緑のまち
・海のまち
・太陽のまち
・花のまち
の4街区があり、市営住宅や都市再生機構、民間の集合住宅を集めた。小中高校から大学、ショッピングセンター、飲食街、病院、高齢者施設まで完備している。
街開きした1970年代は公害と交通事故の多発が社会問題となっていた。大阪市が許可車両だけがなかへ入ることができる車両通行禁止を打ち出したのは、排ガスと交通事故から住民を守るためだ。コンクリートの殺風景な港湾区域に生まれた緑豊かなポートタウンは、別天地に見える。
集合住宅のダストシュートから投げ入れた家庭ごみを空気の流れで高速輸送するシステムを導入するなど、当時の先端技術も取り入れた。そんな理想を詰め込んだ街も街開きから50年近くがたち、厳しい現実に直面している。12月上旬に訪れたポートタウンで見えたのは、人口減少と高齢化が進んだ“都会の限界集落”ともいえる姿だ。
緑のまちの高齢化率は49%
整備された住宅は集合住宅ばかりの約1万戸。1981年にニュートラムが開通したことで人気が高まり、1990年に約3万2000人まで人口が増えた。
しかし、その後は減少する一方。2024年9月の大阪市推計人口では、約1万8000人に落ち込んでいる。空室は珍しくない。
全人口の42%を65歳以上の高齢者が占める。大阪市全体の高齢化率25%を大きく上回る数字だ。特にポートタウン東駅周辺の緑のまちは、人口約3700人の
「49%」
が高齢者。人口の50%以上が高齢者の地域を限界集落と呼ぶが、限界集落到達が目前に迫っている。ポートタウン西北にある花のまちで、連合振興町会会長を務める川邊勇さんは
「私は80歳。それなのに、高齢者ばかりで跡を継ぐ若い役員がいない。ポートタウンの将来が不安だ」
と打ち明けた。
再生へ住民、行政が活発な動き
大阪市住之江区は課題解決に向けて地域住民らと意見交換し、2015年に再生計画の「咲洲ウェルネスタウン計画」をまとめた。趣旨に賛同した住民らがプロジェクトチームを結成、体験型イベントの開催やユーチューブ動画の公開で住環境の魅力を発信し、若い世代の転入を呼び掛けた。
住民の駐車場はポートタウン外にある。高齢化で駐車場から自室まで重い買い物袋をさげて歩くのがつらい人が増えたのを受け、2016年に高齢者や幼児が乗った車、タクシー、荷物運搬車を規制対象から外した。車両通行禁止の趣旨を曲げない範囲で規制緩和せざるを得ないほど高齢化が進んだわけだ。
ウェルネスタウン計画はポートタウンの魅力発信を中心とした2015年から3年間のフェーズ1前半を終え、2018年からフェーズ1後半に入っている。児童数の減った小学校を統合した小中一貫校、国際バカロレア教育を進める公設民営の中高一貫校が登場したのをはじめ、地上14階、55戸の分譲マンションが整備されるなど地域の変革が次第に動きだした。
早ければ2030年からスタートする予定のフェーズ2では、インフラ更新など抜本的な対策に乗り出す計画。住之江区協働まちづくり課は
「住民と行政が力を合わせ、若い世代が済みたいと思える魅力的な街に変えていきたい」
と意欲を示している。
昭和の香り漂う街の現実
だが、課題は山積している。ウェルネスタウン計画スタート時に進めた街のPRはほとんど効果がなかった。太陽のまち連合振興町会の吉水広文会長は
「単なるイベントでは、若い世代の心をつかめなかった」
と振り返る。しかも、ポートタウン内に一戸建て住宅はない。集合住宅の土地は公有か共有。このため、他の住宅街のような民間主導の街の更新が起きにくく、事業者参入の動きも活発といいにくい。
ポートタウン自体が港湾区域に囲まれていることから、ポートタウン東駅と西駅に集中する商業施設の売り上げは住民に限られ、人口減少で悪化を続けている。営業している店舗も街開きした昭和の雰囲気が強く、若い世代に魅力的な場所ではない。
ごみ高速輸送システムは悪臭を抑え、ごみ置き場が不要という利点があるが、大量消費、大量廃棄を前提にした高度成長期の発想でリサイクル時代に合わない。維持費も年約2億円と収集車で回収する方式の2倍かかっていた。大阪市は廃止する方針だったが、住民の反対を受け、ダストシュートから捨てたごみを地下タンクにためて収集する方式に切り替えた。
理想の暮らしを再構築へ
車両通行禁止は「事故の不安なしに子育てができる」として住民の間で賛同の声が強い。しかし、大阪府豊中市と吹田市にまたがる千里ニュータウンでは、
「共同住宅の専用駐車場を増やす」
ことで若い世代の呼び込みに成功した事例がある。子どもの頃からマイカーが当たり前の世代は、駐車場まで遠いことを不便に感じているのだろう。
若い世代を招き入れるしかポートタウンが生き残るすべはない。そのためには時代の変化に対応することが必要だ。昭和の雰囲気は高齢者にとって慣れ親しんだ景色だが、若い世代にとって時代遅れで魅力的な場所に見えないこともある。
集合住宅の約8割は1979(昭和54)年から1984年に整備された。築40年を超えた建物は近い将来、一斉に建て替え時期を迎える。若い世代の声に耳を傾けなければ、再生に向けた最後のチャンスを失うことになるが、そこへ古くても良いものをどう残していくのか、知恵の絞りどころが待ち構えている。
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