当地、今日は、1日中、「曇時々雨」で、出掛けるにも億劫だったが、
予てから声が掛かっていた飲み会に出席し、先程帰ってきたところだ。
新型コロナウイルス感染拡大が始まった頃から、これまで、
外食、外飲み等、一切、自粛してきた爺さんであるが、
ようやく、長いトンネルの出口が見え始めた昨今、
そろそろ、いいかな?・・と、
出席を決めたもので、3年半振り?の外飲みと相成った。
飲み会は、これまで現役を続けていた、同年輩の仕事仲間のN氏が、
今年3月末をもって、完全勇退したことを受けて、
彼と縁の有る、現役同僚、後輩、OB、総勢18名が集まっての歓送会だった。
女性も6名、約2時間余り、和気藹々、大いに盛り上がったが、
夜の外出等、本当に何年ぶりのこと、
高齢者とて、アルコールは控え目にし、
とりあえず、往復、バス、しっかりした足取りで無事帰還出来た。
やれ、やれ・・である。
図書館から借りていた、諸田玲子著、「しのぶ恋・浮世七景」(文藝春秋)を、読み終えた。なんの予備知識も無く、一般書架でふっと目に止まり手を伸ばした書だったが、著者が、江戸時代の趣の異なる七人の浮世絵師、安藤広重、歌川国政、歌川国貞、鈴木春信、葛飾北斎、喜多川歌麿、東洲斎写楽の傑作、名作に丹念に向き合い、それぞれの絵から、自由闊達な着想で描き出した7篇の短編、「太鼓橋雪景色」「暫の闇」「夜雨」「縁先物語」「さらやしき」「深く忍恋」「梅川忠兵衛」が収録された書だった。短編でありながら、いずれも味わい深く、まるで、それぞれの浮世絵傑作、名作が挿絵としてぴったりのような物語に仕上がっている。しっとりしたもの、涙するもの、ぞっとするもの、笑ってしまうもの、等々、変化に富んだ短編集で、一気に読破出来た。
「太鼓橋雪景色」
安藤広重「目黒太鼓橋夕日の岡」
▢主な登場人物
倉橋瀬左衛門、ひわ、澄江、弥助、神谷鉄次郎、吉井源八、
▢あらまし
摂津国三田藩九鬼家物見役倉橋瀬左衛門の妻女ひわは、その日夫から、桜田御門外で井伊大老が襲われ、襲ったのが水戸藩士かも知れないと聞き、自分が、婚礼間近の16才の娘澄江と同じくらいの年頃で、やはり婚礼間近だったある日、ひょんなきっかけで出会い、お互い思い合う間柄となり、太鼓橋で待ち合わせ駆け落ちの約束までした神谷鉄次郎のことを思い出す。雪がしんしんと降り続く太鼓橋で待ったひわ。怨み、失望、怒り・・・。下僕弥助の涙ながら打ち明けた。「どうかご勘弁を・・・、手前はどうしてもお伝え出来ず・・・」。20年の歳月が流れ、今、ひわ、澄江、母娘が太鼓橋で語らう。二人の背後で、夕日を浴びた太鼓橋が銀色に輝いていた。
「暫の闇」
歌川国政「五代目市川團十郎の暫」
▢主な登場人物
甚助(国政)、半道、おせい、鰕蔵(五代目團十郎、七左衛門、白猿)、
▢あらすじ
絵師の甚助は、芝居が好きで役者絵ばかり描いていたが、そんな甚助も呆れるほど芝居に入れ込んでいる半道と呼ばれる与太者と知り合う。芝居を見たいがために、使い走りのような仕事をしてその日その日を暮らす半道は、やがて日頃の行いのせいもあり、濡れ衣で捕縛される。どうしようもない奴と思いながらも見捨てきれず、半道の幼馴染おせいの懸命さに打たれ、甚助も、半道の命を助けるために駆け回る。鰕蔵の尽力もあって死罪は免れ八丈島に流刑となるが、その経緯の中で、甚助は自らの生き方まで変えていくという物語だ。
ノミをつかう甚助の眼裏に、遠い島の子供たちに囲まれて、「しばらく、しばらくーう」と見得を切る与太者の姿が浮かんでいた。
「夜雨」
歌川国貞「集女八景 粛湘夜雨」
▢主な登場人物
おしお、市蔵、滝瀬八六郎、弥助、
▢あらすじ
おしおの亭主市蔵は、腕の良い擬宝珠職人だったが、橋の欄干から落ちて足を痛めてから、版木彫りの貰い仕事で糊口をしのいでいる。仕事一筋の夫に、ありがたいと思いながらも少々物足りないおしおは、ある日長屋に引っ越してきた若い傘張り浪人にのぼせてしまい、駆け落ちの夢想までしてしまうが、近辺で辻斬りが続き、八五郎も疑いの目で見られるようになる。おしおが、義妹、義母の家からの帰りに、辻斬りと遭遇、下手人の正体見たり・・・、なんと、弥助が・・、危機一髪、おしお、市蔵夫婦は・・・。
おしおが行燈に火を入れる。市蔵は顔を上げはしなかった。が、はっきりとこう返した。「あとでおめえにもんでもらうサ」。夫婦とは、こういうもの・・と思わせる、ほのぼのした作品だ。
「縁先物語」
鈴木春信「縁先物語」「お百度参り」「丑の時参り」
▢主な登場人物
若林角之助、美千代、加津代、坂口英左衛門、お初、お民、
▢あらすじ
隠居してから年齢以上に老け込んでいる元御先手御弓組与力だった若林角之助を、馴染みの坂口英左衛門が訪ねてきて、愚痴話から始まり、40年前の話に及んだ。美少年だった角之助、向島の大店の寮で暮らしていた少女お初と乳母のお民と深い仲になり、三角関係の末起きた事件、その真相は、失火ではなく火付け?・・・、「行ってみるか」、背筋にざわっと悪寒が走った。
2つの墓石・・・、角之助は息を呑んだ。かって若気に至りで無分別と薄情から罪を撒き散らした角之助、今は昔日の面影等一片もない老人に、女達が笑いさざめいて手招きしているように見えた。
「さらやしき」
葛飾北斎「百物語 さらやしき」
▢主な登場人物
鉄蔵(北斎)、お栄、お菊、せん(千)、永寿堂西村屋与八、庄助、長右衛門、
▢あらまし
永寿堂から売り出した「富嶽三十六景」が出足好調の絵師の鉄蔵(北斎)が、次の絵を、怪談物「江戸百物語」を題材にしようと考えている時、鉄蔵の前に現れた童女?・・、大家の長右衛門は、目を泳がせ、深々とため息をついた。「やっぱり、出たか・・と」、「妙ですな、なぜ、絵師の先生にとりついたのか・・・」、
お菊の魂がのりうつる。一気呵成、鉄蔵は、「さらやしき」を描きあげた。ちょっとぞくっとする話仕立ての物語である。
「深く忍恋」
喜多川歌麿「深く忍恋」
▢主な登場人物
おりき(おさい→おとよ→おらん→おりき)、ふみ、里村麻之助、冨次、冨太郎、薩摩屋徳兵衛、
▢あらすじ
「吉祥天女の再来」「高尾太夫の生まれ変わり」等と男共に騒がれる船宿の女将おりきには、胸にしまいこんでいる若い頃の想い人がいた。一方で、手籠めにしようとした与太者冨太郎とその弟冨次との関わりが有り、おさいという自分を死んだことにし、運命に流されるまま、名前を変え、転々と性悪な女で生きてきたが・・・。
10年の歳月が流れ、想い人里村麻之助と巡り会う。麻之助はどこまで知っているのか。変わらぬものと変わってしまったものの重さを量って・・・。船宿をたたんで見知らぬ地へゆき、おさいでもおりきでも、おとよでもおらんでもない女になる。秘めた恋は、後生大事に胸の奥にしまっておこう。さびしくなったらとりだして、思い出にひたればいい。これまでずっとそうしてきたように。おりきの選択、決断は、ものの見事、「忍恋」である。
「梅川忠兵衛」
東洲斎写楽「二世市川高麗蔵の亀屋忠兵衛と中山富三郎の梅川」
▢主な登場人物
小梅、菖蒲、萬右衛門、
▢あらすじ
近松門左衛門の人形浄瑠璃「冥途の飛脚」(飛脚宿亀屋の養子忠兵衛と大阪の遊女梅川の駆け落ち物、方や死罪、方や生き残り)で有名になり大人気という遊女梅川の話を聞いた、可愛らしくも大食いの端女郎小梅、パッとしない自分も同じようにすれば売れっ子になれんじゃないかと、西国屋の倅萬右衛門をそそのかし、駆け落ちするものの・・・・。なにをやってもちぐはぐ、・・、こんなはずではなかった・・・。
「うちはやっぱしアホやなあ。萬はん。あんたの間の抜けた顔、もいっぺん見られたら、うち、もうなんにもいらんのやけど・・・」・・・・。そのころ。萬右衛門は、急ぎ足で大和街道を下っていた。なんとも、ほっこり、ユーモラスな物語である。