図書館から借りていた 葉室麟著 「いのちなりけり」(文藝春秋)を読み終えた。本書は、葉室麟の「雨宮蔵人シリーズ」第1作目の作品で、続編に、「花や散るらん」、「影ぞ恋しき」が有り、三部作のひとつになる。
読書初心者の爺さん、葉室麟の著作を読むのも、今回が初めてのことであるが、なんとなく、好みの作家の一人になりそうな気がする。
元禄7年(1694年)、第五代将軍綱吉の時代、江戸小石川の水戸屋敷で、徳川光圀が、忠臣の中老藤井紋太夫をお手討ちにするという騒動から始まり、光圀が、小城藩藩主鍋島元武宛に一通の書状、「この際、御家の禍根を断つべし」を届けさせ、38歳になる奥女中咲弥の想い人を呼び寄せようとするところから、始まっている。その真意は?
実際の物語は、その騒動の18年前、延宝4年(1676年)、小城藩の馬乗士の家の部屋済みに過ぎなかった雨宮蔵人(あまみやくらんど)が、小城藩の重臣天源寺刑部の娘咲弥(さくや)と結婚、入婿となるところから描かれている。前夫と死別したばかりの咲弥だったが、嫡男、次男が病死し、世継ぎのいない刑部は、丈夫で武術に優れる蔵人を身分違いながら婿に選び、再婚させたのだ。亡き夫、家老多久善右衛門の四男多門が忘れられない咲弥は、婚礼の夜、蔵人に、「前の夫は、好きな歌を私に披露してくれました。歌によって人の心映えがわかるもの、あなたはどういう歌がすきですか?」と問う。応えることが出来ない蔵人に、「これぞという思い出されるまで寝所はともにしません」と、部屋を出ていってしまうのだった。
その後、「鐙揃え」の行事の際に起こった事件の真相が明らかになり、上意により蔵人の義父、咲弥の父、天源寺刑部は殺害され、蔵人は、出奔、咲弥、深町右京が後を追うが、お家は断絶となり、咲弥は、水戸徳川家に預けられ、光圀の奥女中となる。別れ別れになった蔵人と咲弥だが、離縁した分けではなく・・・、。
幕府内の権力抗争、幕府と朝廷の確執、将軍と光圀の対立、島原の乱の遺恨、敵味方混沌する中、隠密、刺客に襲われながら、咲弥に再会したい一心の蔵人は、生死をかけて江戸に向かい・・・、
「春ごとに花のさかりはありなめどあひ見むことはいのちなりけり」
崩れ落ちるように倒れた。
あの時、桜の下で出会った少年は一体誰だったのか。因縁がひと組の夫婦を数奇な運命へと導く。一つの和歌をめぐって、命をかけて再会を期す、主人公雨宮蔵人(天源寺蔵人)の生き様が描かれ、純愛小説とも言えるような気がする。
深町右京(清厳)、徳川光圀、藤井紋太夫、徳川綱吉、酒井忠清、柳沢保明、堀田正俊、吉良上野介義央、巴十太夫、黒滝五郎兵衛、小八兵衛、鍋島光茂、お初、中院通茂、村越三之丞、山本権之丞(神右衛門→山本常朝)、等々、多彩な登場人物、それぞれ、著者が描くキャラクターとして面白いが、中でも、水戸藩の「大日本史」編纂に携わる学者としてたびたび登場する武士、佐々介三郎宗淳(十竹)、安積覚兵衛(澹白)が、映画やドラマの「水戸黄門」に登場する「助さん、格さん」という風に描かれていて、まるでイメージが合わないが、「へー!、そうなの?」で、面白い。
「忍ぶ恋こそ至極の恋と存じ候」
で終わっている。
さて、「雨宮蔵人シリーズ」第2作目の作品で、「花や散るらん」では、どんな展開が待っているのだろうか。
(つづく)