図書館から借りていた、葉室麟著 「花や散るらん」(文春文庫)を、読み終えた。本書は、先日読み終えた、「いのちなりけり」に続く、葉室麟の「雨宮蔵人シリーズ」第2作目の作品である。さらに、続編に、「影ぞ恋しき」が有り、「雨宮蔵人シリーズ」三部作のひとつ。
読書初心者の爺さん、葉室麟の著作を読むのも、2作目に過ぎないが、なんとなく、作風に惹かれてしまい、次の作品も読みたくなっているところだ。
▢主な登場人物
雨宮蔵人(あまみやくらんど、主人公)、咲弥(さくや、蔵人の妻)、
香也(かや、蔵人と咲弥の娘、実は・・?)
清厳(深町右京)、おくら、
貫井伝三郎(牢人、元吉良家家臣)、みつ(伝三郎の妻)
羽倉斎(はぐらいつき)、中院通茂、
徳川綱吉(五代将軍)、柳沢保明(柳沢吉保、綱吉の側用人)
桂昌院(綱吉の生母)、信子(綱吉の正室)、お伝(綱吉の側室)、
右衛門佐(大奥総取締)
公辧法親王(寛永寺貫主)、
町子(柳沢保明の側室、正親町権大納言実豊の娘辧子(なかこ))
正親町公通(町子の兄)
塚田五郎兵衛(柳沢家用人)
近衛基煕(関白)、進藤長之(近衛基煕の家司)
吉良上野介義央(高家肝煎)、富子(上野介の正室、上杉家二代藩主定勝の四女)
梶川与惣兵衛(大奥留守居役)、
神尾与右衛門(吉良上野介の家臣、元上杉家家臣)
尾形光琳(絵師)、中村内蔵助(銀座役人)
浅野内匠頭長矩(播州赤穂藩藩主)、大石内蔵助(赤穂藩国家老)
堀部安兵衛(赤穂藩藩士馬廻役)
大石三平、
松平紀伊守(京都所司代)
お初(神田の飛脚問屋亀屋の女主人)
▢あらすじ
前作「いのちなりけり」で、江戸から京へ上った雨宮蔵人と咲弥は、鞍馬の山裾の村に居を
構え、静かに暮らしていたが、斬殺された貫井伝三郎とみつから託された香也を養女にして
育てているところから、物語が始まっている。
二人は、将軍綱吉の生母桂昌院に、「従一位」の叙位のために、上京し工作をする吉良上野介と
関わりを持ち、次第に、幕府と朝廷の暗闘に巻き込まれることになるのだった。
さらに、大奥の勢力争い、側用人柳沢吉明、吉良上野介、綱吉、諸々が絡み合って発生した、
浅野内匠頭の松ノ廊下の刃傷事件から、二人は、思わぬ展開に引き摺り込まれる。
まずは、咲弥が大奥へ送り込まれ、京に戻ってこないことから、大石内蔵助に同行を求められた
蔵人は、香也と、良き相棒である片腕の僧清厳と共に、江戸へ下り、さらには、赤穂浪士の
吉良邸討入りに立ち合うことにもなると言う筋立てになっている。
九州鍋島藩の内紛から始まった、前作「いのちなりけり」からは、全く想像出来ない展開に
なっており、本書は、葉室麟版「忠臣蔵外伝」とも言え、葉室麟による、大胆な解釈、発想、
展開に引き摺り込まされてしまう。
主人公は、雨宮蔵人であることに間違いないが、咲弥、町子、桂昌院、信子、右衛門佐、お初、
富子等々、それぞれ、強かな女性が描かれており、本書では、香也も、重要な存在だったことに
なる。
蔵人の腕に抱かれた香也が空を見上げた。
「お父上、雪が・・・」
蔵人がつぶやいた。
「いのちの花が散っているのだ」
花と聞くは誰もさこそはうれしけれ思ひ静めぬわが心かな
風に散る花の行方は知らねども惜しむ心は身にとまりけり
今ぞ知る思ひ出でよと契りしは忘れんとてのなさけなりけり
誰を待つ心の花の色ならむ立ち枝ゆかしき軒の梅が枝
いかにせん都の春も惜しけれど馴れし東の花や散るらむ
散るとみればまた咲く花のにほひにも後れ先立つためしありけり
(つづく)