図書館から借りていた 平岩弓枝著 長編時代小説 御宿かわせみシリーズ第29弾目の作品 「初春弁才船」(文春文庫)を 読み終えた。
読んでも読んでも そのそばから忘れてしまう爺さん、読んだことの有る本を うっかりまた借りてきてしまうような失態を繰り返さないためにも その都度、備忘録として ブログに書き留め置くことにしている。
平岩弓枝著 御宿かわせみ(二十九) 「初春弁才船」
本書には 表題の「初春弁才船」の他、「宮戸川の夕景」、「辰巳屋おしゅん」、「丑の刻まいり」、「桃の花咲く寺」、「メキシコ銀貨」、「猫一匹」、の連作短編7篇が収録されている。
「宮戸川の夕景」
大川(隅田川)が 宮戸川と呼ばれるあたりに女の水死体が流れ着いた。一方で 東吾の軍艦操練所の同僚の一人武石敬太郎を名乗る男と細川家奥女中を名乗る女が現われる。武石敬太郎は?、女房お国は?、妹澄江は?、お国の実家佐久間元太夫と女房が焼死、養子新三郎は?、元若党島三郎は?、次々起きる殺人、焼死、心中、事件。聞き逃し出来ない性分の東吾は 源三郎、長助と共に 真相究明、探索、謎解きに奔走するが・・・、
浅茅ケ原で男女が心中・・・この篇は 冒頭から最後まで死体オンパレード、
東吾は もうかかわり合う気がなくて・・・、渡船場から猪牙に乗った。宮戸川は夕映えの中にあった。
「初春弁才船」(表題作)
本所の麻生宗太郎が 祖父も父親も船乗りだという航吉という若者を連れて「かわせみ」にやってきた。父親岩吉が船頭の鹿島屋の新酒番船(その年の一番に早造りされた新酒を上方から江戸に運ぶ番船)が遭難したかも知れないという。
「気休めなんぞ聞きに来たんじゃねえです」「・・・いろいろ教えてもらいてえと思ったから・・・」、
軍艦操練所で西洋式操船技術、知識の有る東吾は 母親共々に懇願され、「かわせみ」で教えることになり・・・。父親岩吉の無事の報が届き、航吉が品川から上方に向かう。宗太郎も、「かわせみ」の面々も落ち着かない日日が続き、大晦日、品川の初日の出を拝みに行った長助が 元日、航吉を伴って 「かわせみ」に戻ってきた。よかった、よかった、目出た、目出たの一話である。
「鹿島屋一番船、今暁、無事 品川に到着致しましたんで・・・」、「よかった、おめでとう」、東吾が航吉の手を掴んだ。・・・、東吾、「まずは屠蘇だ。それから 今年一番の酒を酌み交わそう」・・・「かわせみ」の庭に 正月の陽がいっぱい降りこぼれている・
「辰巳屋おしゅん」
洲崎の水茶屋の話が出る。東吾がつい・・・・。「まあ 随分よくおくわしいことでございますね」、るいに色っぽい目で睨まれる。水茶屋辰巳屋で一番の売れっ子はおしゅんだというが・・・。そのおしゅんには 金太、おりん、二人の子供が。庄七とは?、荘吉とは?、
「旦那、ご厄介をおかけ申します」、揃えてさし出した両手は まだ血に濡れていた。
子が親の敵を討つのは良いが 親が子の敵を討つのは御法度の時代、東吾は 黙ってうなずいた。
「丑の刻まいり」
旅籠「かわせみ」には 女中頭のお吉の他に お石、お里、およね、3人の女中が奉公している。ある時、お石と同じ村から江戸へ出て、小間物屋田毎屋に女中奉公し、若旦那弥之助と結婚しているおうのが「かわせみ」を訪ねてきた。田毎屋の女隠居強欲婆おとよに 丑刻まいりしていると誤解されピンチ、嫁姑の問題の相談。丑刻まいりとは 藁人形に五寸釘を打って呪うもの。そのおとよが殺される。下手人は?、一方で 扇問屋駿河屋新兵衛は男前で、女房清元延加津は 若作り?、
東吾、「八つ年上か。それで若作りしてたんだな」・・・、源三郎が腰を浮かせ、同時に仙五郎も立った。二人の逃げ足は風のように早い。東吾がはっと気がついた時には お吉も嘉助もさり気なく部屋から消える。・・・、「人は見かけによらねえな・・・」、呟いたとたんに るいが言った。「仕方がございませんね。女房が年上ですから・・・」・・・、るいの機嫌が悪くなる。千春が東吾に注意。るいは袂のかげでそっと笑い出す。
「桃の花咲く寺」
「かわせみ」を定宿としている横浜の岡田屋吉右衛門は、青山の安鎮坂の叔母をを訪ねて行き、桃の花が見事な春光寺の話をして 横浜へ帰って行ったが、3日後 東吾は 畝源三郎から、春光寺の住職、弟子良念、寺男権三が殺され、五百両が奪われた事件が発生したことを聞かされる。生き残ったのは小僧の光念だけ。放っておけない東吾は 源三郎、長助と共に、真相解明、探索開始。吉井栄三郎と名乗る男は?、檀家のお浜は?、深谷仙之助とは?、下手人の芝居を見抜く。
「メキシコ銀貨」
初夏、高橋の上で江戸湾に浮かんでいる幕府の軍艦、蟠竜丸を飽きもせず眺めていた神林麻太郎と畝源太郎が 大男が風呂敷包をひったくりの場面を目撃、犯人の男を追いかけ、途中で東吾と出会う。3人に追い詰められた男は 風呂敷包を投げ捨て逃げ去ったが、中味は 小判と洋銀、ひったくられた大男も行方不明になる。東吾は 兄神林通之進から 洋銀に詳しい高山仙蔵を紹介され、麻太郎、源太郎を伴って訪ねる。外国から洋銀を持ち込んで、一分銀に替え、それを小判にして外国へ持ち出す闇の組織が現われ始めた時代。幕末、日本から流出した金貨は 2000万両とも1万両とも言われているようで、正しい数字は明らかにされていないのだそうだ。東吾や源三郎が 小判商人という闇の組織を相手に 正面から戦いを挑むことになるのは まだまだ先の話になる。
「猫一匹」
旅籠「かわせみ」の出入業者薪炭問屋遠州屋の女隠居おことの飼い猫おとらが 孔雀の囲いに侵入し 孔雀に突っつかれて殺された。遠州屋当主東兵衛の女房おすみも大怪我する事件発生、4羽の孔雀は殺され、香具師の玄三は江戸おかまいになったが・・・。東兵衛が殺された。下手人は?、後日譚が紹介されている。幕府瓦解後、越後の寺を舞台にした詐欺事件が有り、捉えられた妙心と名乗った男の罪状の中に 遠州屋に関わる件が含まれていたという。
おこと婆さんは 相変わらず強情で口やかまし屋と言われ それでもめげずに江戸の町を歩き廻っていた。
(つづく)