中公文庫 1974年(文庫版初版)
千倉磊吉(らいきち)という作家の元に来た女中たちの
物語。
米粒のような文字にも慣れてきたころに、読み終わって
しまった。久しぶりに文学の神髄に触れたような感覚。
ぼくは、あまり美人には興味がないんだが、磊吉は美人
が好きなようで、「銀」などを連れ回し、銀座などで遊
んでいる姿が描かれる。この銀はタクシー運転手光雄と
相愛になると、夢中になり、化粧などで鏡にばかり向かって
いるような女なのだ。
癲癇になる女中がいたり、ゲーッと吐くのが癖の女中がい
たり、女優のお付きになって、威張り散らす女中がいたり、
とその筆致は一様にねちっこい。丹念に描いていて、コンコンと
湧き出る泉のようだ。それが、同じようなことを書いている
ようで、違っていて、女中という生きものを描く上で必要な
手法なのだ、と納得できた。
(読了日 2022年10・25 21:55)