集英社文庫 1974年
深い狂気をともなった戦中、爛熟した廃退の漂う戦後を
背景に、青く爛れた青春の日々を描いた作品だ。
そこには、汚わいと、唾や痰の飛ぶ薬草があったり、どこか
卑猥で臆病な悲鳴が響いているが、どこか純潔で純血な
ところがあり、爽やかさとは隔絶された孤独がある。
響いてくるのは、いつも祈りに近い鳴き声であり、空腹の
混沌がないまぜになり、詩を生み出す。
そこに開高文学の萌芽があり、前期の青春時代の終わりを
炙り出し、パリパリとする狂乱の時代も終焉を迎える。
喧騒の中の静寂が文学それ自体を包んでいて、読者を圧倒
する。そんな、力強い文学の抵抗を感じた。
(読了日 2022年11・8 11:34)