後ろ手で手錠をかけられたまま、ピアノを弾く女性のすがた。
そんなチラシに心ひかれて、見てみたのです。
子供の頃神童といわれた天才的ピアノの才能を持つジェニーですが、
その生い立ちは不幸で、生活はすさみ、受刑者として刑務所にいるのです。
刑務所でピアノ講師をしている老婦人、クリューガーは、
彼女の才能を信じ、ピアノコンクールに向けて、彼女の特別講師を申し出ます。
ジェニーは強い個性の持ち主。
他の人と親しく交わるなどということがなく、荒々しく、いつもとがっている。
ただ、音楽に対しての情熱だけは失っておらず、
不承不承ながらもクリューガーに教えを請う。
反発しながらも次第にジェニーはクリューガーに心を開いていきます。
コンクールも順調に勝ち進み、いよいよ決勝大会の前、事件が発生。
刑務所はジェニーの大会出場を禁止してしまうのです。
しかし、あきらめきれない二人。
ついに、ジェニーを脱走させることになってしまう。
行く先はもちろん決勝会場ドイツ・オペラ座。
これは刑務所側にも、明らかなこと。
いよいよジェニーの番で舞台のピアノの前に立ったとき、警官が押し寄せる。
4分間だけ待って、と、クリューガーは言う。
その4分間の演奏が・・・、感動でした。
ジェニーはともすると、好き勝手に力強い彼女自身の音楽を奏でるのです。
クリューガーは、クラシック以外音楽ではないと思っている。
正統の音楽を、常に要求していたクリューガーでしたが・・・。
舞台で彼女が弾いたのは、彼女自身の音楽。
誰も聞いたことがない、彼女だけの。
これこそはまさに、ジェニー自身の魂の叫びなのでした。
自分ができるすべてを尽くして、自分自身を表現。
そしてそれが皆に受け入れられ、満場の拍手。
感動とは、こうして生まれるものなんだなあ・・・。
理屈抜きで、泣けてしまいました。
ドイツ映画には、なかなかやられます。
ちょっと端折ってしまいましたが、
クリューガー自身の若い頃の情熱と、その後の喪失感、それゆえ、音楽一筋で独身のまま、老いてしまったこと、
・・・この話も同時進行であり、奥行き深いものになっています。
SFやアクションも楽しいけれど、このように心揺さぶる作品もやっぱりいい。
ジェニー役のハンナー・ヘルツシュプリングは、1200人のオーディションから選ばれたそうです。
TV出演などはあったけれど、ほとんど無名の新人。
あらぶる魂とでも言いましょうか、切れやすくて、扱いにくい、
けれど孤高の強い魂を持つ、
そんな難しい役どころを見事に演じていたと思います。
「目力」、まさにこれですね。
2006年/ドイツ/115分
監督:クリス・クラウス
出演:ハンナー・ヘルツシュプリング、モニカ・ブライブトロイ、スヴェン・ピッピッヒ、リッキー・ミューラー
「4分間のピアニスト」公式サイト