「エーゲ海の頂に立つ」 真保裕一 集英社文庫
あの、ミステリ作家、真保裕一が自ら体験したクレタ島トレッキング記。
クレタ島といえば、エーゲ海に浮かぶ、ギリシャ文明の遺跡の宝庫。
しかし、著者は、古代遺跡には心を残しながらも、エーゲ海の最高峰、イーディー山の頂をめざす。
そもそもは、NHKの衛星放送の企画で、島のトレッキングコースを回るという番組の出演を誘われ、それを受けたということです。
著者は、私も大好きな「ホワイトアウト」で、多くのファンをつかんだのですが、
ご本人は、登山をするわけでもないのに、その本によって、さも登山に詳しいと思われてしまうことに、後ろめたさを感じていたそう。
それで、若干でもこの企画でその後ろめたさを払拭したい、という気になったそうな。
いやいや、登山でなく、トレッキングだとしても、
普段運動不足の作家が、この企画を引き受けるのはやはり、相等の覚悟が必要だったのでは、と思います。
でも、いいですね。
エーゲ海は、私にも憧れの地でありますので。
真っ青な海と空。
切り立つ岩肌、
白い家並み、
そんなイメージでしょうか。
だから、そもそも、このエッセイよりは、元のNHKの番組の映像を見たいです・・・。
この本では、著者自ら撮影した写真がちょっぴり紹介されています。
トレッキングの傍ら、この島の歴史に思いを馳せる。
緑が少ないのは、その昔、人々が家を建てたり船を作ったりするために木を切りつくしたから・・とか、
とんでもない渓谷を通り抜けた辺鄙な場所に村があったりするのは、
海岸沿いでは海賊に襲撃される恐れがあったから・・・とか、
ギリシャ神話の時代から続く人々の営みは、いろいろな痕跡を島に刻み続けている、ということですね。
しかし、たぶん、イーディー山の頂上からの眺めは、数千年前も今と変わらないのではないか・・・。
私も、実際にその場に立って、そんな感慨を味わってみたい気がします。
でも、そう気軽に行ける場所ではないですねえ・・・。
体力にはまったく自信ありませんし。
そんな島に住んでいれば、生活も確かにおおらかになるでしょう。
午後は、シェスタというお昼寝の時間がたっぷりあって、
夕食は9時ぐらいから街に出て、深夜までみんなでにぎやかに盛り上がるという、
そんな生活もちょっといいなあ。
たまには、こんなふうに、遠いエーゲ海に思いを飛ばして、ボーっとするのもよし、と。
満足度★★★★