映画と本の『たんぽぽ館』

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「ななつのこ」加納朋子

2009年06月14日 | 本(ミステリ)
ななつのこ (創元推理文庫)
加納 朋子
東京創元社

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え~、先ごろ加納朋子さんの「スペース」という文庫新刊を読みました。
ところがこれは、
「ななつのこ」、「魔法飛行」に続くシリーズだったのですね。
いや、それは確か読んだはずなんだけど・・・、
記憶にないなあ・・・、
とふと本棚に目をやれば、そこにちゃんとある。
「ななつのこ」の文庫はなんと1999年に出たものでした。
10年も前では、覚えてなくても仕方ない、と思ってください・・・。
私にとって、物置ではなくて、部屋の本棚にちゃんとある、というのは、
かなりのお気に入り作品という意味なのです。
(忘れてるようでは意味がないですけどね・・・。)
で、先に「スペース」は読んだのですが、
この際、始めの「ななつのこ」からもう一度読んでみることにしました。


連作短編集です。
主人公は女子短大生、入江駒子。
彼女は<ななつのこ>という童話集がとても気に入り、
その作者である佐伯綾乃に向けてファンレターを書き綴ります。
ところがそれは、ファンレターというよりも、
彼女の身の回りのことを書いたとても長い手紙。
駒子は、身辺でおこったちょっと不思議なことをつい、
こまごまと書いてしまうのです。
・・・そうすると、その手紙の返事に、
その不思議な出来事への解答が書かれてくる、という趣向です。


このストーリーは一応ミステリなのですが、
殺人事件は一つもない。
「日常の謎」を解く、ミステリです。

この本の面白いところは、この謎解きが二重構造になっているところ。
駒子の愛読書<ななつのこ>は、
はやてという少年が
身の回りの不思議なできことを
サナトリウムで療養中の"あやめさん"に相談に行き、
"あやめさん"が、するするとその謎を解いてしまう、
そういう七つのお話の載った本なのです。

この「ななつのこ」の本も短篇が七つ。
この一篇一篇に<ななつのこ>のストーリーが
一つずつ紹介されているということで、
説くべき謎は全部で14! 
惜しげもなくネタを使った大変贅沢な一冊と言えます。

しかし、私が気に入ったのは、更に、
ここに登場する"瀬尾さん"。
さわやか系の好青年です。
彼の登場で、このストーリーが一気に活気付いてくる。
(・・・と、思うのは私だけか?)
彼も、駒子の謎解きに一役買うことになるのですが・・・。

デパート屋上にあったビニールの巨大恐竜が、
翌朝30キロ離れた保育園で発見された・・・という話があります。
私は、ここで、しっかり記憶がよみがえりました。
すごく印象深い話だったのですね。
"瀬尾さん"はこのデパート屋上のプラネタリウムで
解説のアルバイトをしていたのです。
この『一万二千年後のヴェガ』は、
悠久の時を感じるロマンチックな一篇でした。

そうして、この本全体に仕掛けられた謎もあるんですよ。
最後にはすっかりこの謎に振り回されたことが心地よくなっており、
読後感の素晴らしくよい本です。

満足度★★★★★