映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「スペース」 加納朋子

2009年06月16日 | 本(ミステリ)
スペース (創元推理文庫)
加納 朋子
東京創元社

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さてと、ようやく文庫のリアルタイム発行に追いつきました。
駒子シリーズの第3作。
前作、クリスマスイブの活躍のおかげ(?)で、
風邪を引き、寝込んで、その後の大晦日。
駒子はある手紙を瀬尾さんに託します。

それは"はるか"という人へ宛てた手紙。
一見、駒子がいつもの調子で、
友人の”はるか”へあてて書いたように思えるのですが・・・。
読んでいくうちに若干の違和感。
さて、これは本当は誰が書いたものなのか。
瀬尾さんがこれをどう読み解くかが見所です。

さて、前2作は、著者が駒子を主人公に据えて書いた物語でした。
だからまあ、当然といえば当然ですが、
駒子についてはずいぶん好感が持てる書き方をしていますね。
やや、おっとりしていて、しかし、
彼女なりのしっかりした価値観をもちつつ、
子どもから大人への変身の渦中。
その悩みどころには共感も覚え・・・。

ところが、今回のストーリーのこの手紙は、駒子が書いたものではない。
すると、手紙の書き手から第三者へあてた文中に登場する駒子の描写が、
なかなかシビアだったりするのです。
そうなのか。
見る人の目が違えば駒子はこんな風・・・。
それは必ずしも、いいところ尽くしではないんですね。
ちょっと著者の冷淡な視線を感じたりもして、なんだか意外です。

スペースは宇宙であり、また、空白でもある。
瀬尾さんは言う。
「僕らの間にはまだたくさんのスペースがある。
でも、こんな風に一緒にいてたくさん話をすれば、
だんだん埋まっていくんじゃないかな。
・・・きっと、近いうちに。」
うむ。
なかなかの殺し文句です。
今時ありえないほどに清いお付き合いですが、
まあ、こういうのも良いでしょう。
それと、この巻で、初めて瀬尾さんのフルネームがわかるんですよ。
そして、彼の落ち込んでいる切ない過去も。
そんな点では貴重な一冊ですが・・・。
やや、構成に懲りすぎという気がしなくもない。
シンプルに楽しめた前作の方が、
おススメかもしてません。

満足度★★★☆☆