狂気にも近い、圧倒的な“女”の意志
* * * * * * * *
東京島とは・・・。
どことも知れない南洋の孤島であります。
清子46歳は夫とのクルーズの最中、暴風雨によってこの無人島に流れ着きました。
その後、日本の若者、謎めいた中国人が流れ着き、
この孤島に31人の男とたった1人の女という状況になってしまった。
さて。
東京島は彼らが勝手につけたこの島の名前です。
島の各所もブクロ、ジュク、オダイバ、コウキョ、トーカイムラなど、
好き勝手な名前をつけて呼んでいる。
これは決して無人島のサバイバルの物語ではありません。
木の実や果実が豊富で、魚やちょっとした野生生物もいて、
食べるのにはさほど困らない。
この女一人という状況がくせ者なのですが、
夫は真っ先に謎の(?)死を遂げ、確かに彼女が女王の状況にはなりました。
しかしそれもつかの間、くるくると状況が変化していきます。
一般社会から隔絶された世界。
こういうところでは、学歴や知識は何の役に立ちません。
では体力さえあればいいかというと、そういうものでもない。
このストーリーではリーダーシップも、そのときの状況によって変わって行きます。
皆が何を望むか。
それを率先して行うものがリーダー的地位を得ます。
でもそれもかなり場当たり的。
うーん、どこぞの国の政権のようだ・・・。
こういう状況、なんだか「蠅の王」を思い出すのですが。
でもこの本の方が、みな大人で肉体関係やら国籍も絡んできて、
もっと複雑かつ猥雑なストーリーになっていますね。
あちらはもっと寓話的。
こちらはもっとリアル。
一時代前なら、日本人はきっと全員がひとかたまりでおとなしく
集団生活をしたのではないでしょうか。
しかし、これは現代のお話。
しかもほとんどが若者です。
彼らは気に入った者同士、てんでんバラバラに生活をします。
時には男性同士のカップルも。
また、時にはつまはじきにされてやむなく一人暮らし。
または二重人格と思われる人物は、突如鍾乳洞で僧侶のような生活を始めたりする。
また、中国人たちは強烈な生活力でもって、どんどん前向きに生活の質を高めていく。
この個性豊かさ、好き勝手さ。
でも、確かにそうなるだろうなあ・・・と、
楽しくもあり、リアルでもあり、納得させられるのです。
そして、とにかくこの清子がたくましいですよ。
たぶん、普段はごく普通に夫に随う主婦だったはず。
それがこの島に来て、夫がなんの役にも立たないことに気づき、
まず夫婦間のリーダーシップは彼女が握るようになる。
まあ、この辺まではそうだろうなあ、と思いますね。
夫を亡くしてからは、
他の男たちが自分に恋い焦がれることにたまらない優越感を感じたりもするのですが、
ある事件の後、見向きもされなくなってしまうのです。
しかし、彼女はめげない。
まず生き抜くこと。
そしてなんとかこの島から脱出すること。
彼女はちょっとのチャンスも逃がさない。
人のことなどお構いなし。
とにかく自分だけ助かりたい。
そういう生存本能丸出し。
でもこの島で道徳心がなんの役に立つでしょう。
この明け透けな真の意味での自己保身は、小気味よいです。
この辺の心理。
ふと現実に帰って冷めた目で見ればほとんど狂気に近い。
けれどその狂気が当たり前に見えるのめり込み方というのが、
この著者の真骨頂なんですよね。
中年女性の底知れないパワー。
底知れなさ過ぎて、暗黒の縁に誘われかけるほどの・・・。
ラストの章では、あ然とさせられますよ。
しかしなるほど、この清子ならこれはアリか・・・
と、妙に納得するのです。
皆様、このラストを是非読んでお楽しみください・・・。
満足度★★★★☆
東京島 (新潮文庫) | |
桐野 夏生 | |
新潮社 |
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東京島とは・・・。
どことも知れない南洋の孤島であります。
清子46歳は夫とのクルーズの最中、暴風雨によってこの無人島に流れ着きました。
その後、日本の若者、謎めいた中国人が流れ着き、
この孤島に31人の男とたった1人の女という状況になってしまった。
さて。
東京島は彼らが勝手につけたこの島の名前です。
島の各所もブクロ、ジュク、オダイバ、コウキョ、トーカイムラなど、
好き勝手な名前をつけて呼んでいる。
これは決して無人島のサバイバルの物語ではありません。
木の実や果実が豊富で、魚やちょっとした野生生物もいて、
食べるのにはさほど困らない。
この女一人という状況がくせ者なのですが、
夫は真っ先に謎の(?)死を遂げ、確かに彼女が女王の状況にはなりました。
しかしそれもつかの間、くるくると状況が変化していきます。
一般社会から隔絶された世界。
こういうところでは、学歴や知識は何の役に立ちません。
では体力さえあればいいかというと、そういうものでもない。
このストーリーではリーダーシップも、そのときの状況によって変わって行きます。
皆が何を望むか。
それを率先して行うものがリーダー的地位を得ます。
でもそれもかなり場当たり的。
うーん、どこぞの国の政権のようだ・・・。
こういう状況、なんだか「蠅の王」を思い出すのですが。
でもこの本の方が、みな大人で肉体関係やら国籍も絡んできて、
もっと複雑かつ猥雑なストーリーになっていますね。
あちらはもっと寓話的。
こちらはもっとリアル。
一時代前なら、日本人はきっと全員がひとかたまりでおとなしく
集団生活をしたのではないでしょうか。
しかし、これは現代のお話。
しかもほとんどが若者です。
彼らは気に入った者同士、てんでんバラバラに生活をします。
時には男性同士のカップルも。
また、時にはつまはじきにされてやむなく一人暮らし。
または二重人格と思われる人物は、突如鍾乳洞で僧侶のような生活を始めたりする。
また、中国人たちは強烈な生活力でもって、どんどん前向きに生活の質を高めていく。
この個性豊かさ、好き勝手さ。
でも、確かにそうなるだろうなあ・・・と、
楽しくもあり、リアルでもあり、納得させられるのです。
そして、とにかくこの清子がたくましいですよ。
たぶん、普段はごく普通に夫に随う主婦だったはず。
それがこの島に来て、夫がなんの役にも立たないことに気づき、
まず夫婦間のリーダーシップは彼女が握るようになる。
まあ、この辺まではそうだろうなあ、と思いますね。
夫を亡くしてからは、
他の男たちが自分に恋い焦がれることにたまらない優越感を感じたりもするのですが、
ある事件の後、見向きもされなくなってしまうのです。
しかし、彼女はめげない。
まず生き抜くこと。
そしてなんとかこの島から脱出すること。
彼女はちょっとのチャンスも逃がさない。
人のことなどお構いなし。
とにかく自分だけ助かりたい。
そういう生存本能丸出し。
でもこの島で道徳心がなんの役に立つでしょう。
この明け透けな真の意味での自己保身は、小気味よいです。
この辺の心理。
ふと現実に帰って冷めた目で見ればほとんど狂気に近い。
けれどその狂気が当たり前に見えるのめり込み方というのが、
この著者の真骨頂なんですよね。
中年女性の底知れないパワー。
底知れなさ過ぎて、暗黒の縁に誘われかけるほどの・・・。
ラストの章では、あ然とさせられますよ。
しかしなるほど、この清子ならこれはアリか・・・
と、妙に納得するのです。
皆様、このラストを是非読んでお楽しみください・・・。
満足度★★★★☆