映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「それからはスープのことばかり考えて暮らした」 吉田篤弘

2010年05月14日 | 本(その他)
ダンディなお婆さんになりたい

それからはスープのことばかり考えて暮らした (中公文庫)
吉田 篤弘
中央公論新社


             * * * * * * * * 

えーと、この文庫は2009年9月に出たものでした。
このたび書店店頭で、「つむじ風食堂の夜」と並べてあったので目につきました。
実際これは「つむじ風食堂の夜」の姉妹編なのだそうで、
前者が文句なく私のお気に入りとなりましたので、この本も大変楽しく読みました。
こういう風に関連本をきちんと並べてくれる本屋さんは、うれしいですね。
文庫本は新刊コーナーのチェックが主になるので、
少し前の発行のモノだったりすると見逃しがちです。
こういうちょっとした工夫が書店の個性というものですよね。
・・・というより、この書店の店員さんに大の吉田篤弘ファンが居ることは間違いないですね。


さて、この本の主人公は大里青年。
月舟町という小さな町に住み始めた彼は、大家さんからは「オーリィ君」と呼ばれます。
彼は映画が大好きで、特に古い邦画を好んでみる。
・・・いえ、読み進む内にわかるのですが、
好きなのは映画自体ではなく、そこに登場する若い女優さん。
彼女にに一目惚れして以来、その女優が出演する映画に何度も通っている、
ということなのでした。
しかしその彼女は主演でも準主演でもなく、
ほんの端役で、登場するシーンもほんのわずか。
彼はそのほんのわずかなシーンをみるために、
彼女の出演するまれな映画館を探して通うということを続けていたのでした。
古い邦画なので、小さな映画館なのはもちろんですが、それにしてもいつも空いている。
ある時彼は、同じ映画を見に来ている一人の初老の婦人に気がつきます。

ある年齢に達した女性だけが持ち得るチャーミングさと、
どこかすずしげな目もとが、
女性なのに「ダンディ」と言いたくなる雰囲気をかもしだしていた。


と、こんな風に描写されています。
青年はこの婦人と何度も同じ映画館で会うのです。
その婦人の正体は・・・って、こんな風に書いてしまったら、バレバレかな?
しかし、私も年をとったらこんな風になりたいという理想像だなあ・・・と、
つくづく思ってしまったのですね。
私もいつも一人で映画を見に出かけるのでなおさら・・・。
でも、アレですよね。
これはたぶん若い頃はかなりの美人だったという雰囲気がありますね。
となると私は難しいかな・・・。
どう見ても、どこにもいそうなただのおばちゃんかも。


さて、話を戻しまして、
このオーリィくんが勤めることになるサンドイッチ屋さんのご主人とその息子、
大家さん等、彼を取り巻く人々との交流が描かれます。
メルヘンではないのに、どこかメルヘンのようなにおいがする。
日常を描いていて、生活感はあるのに生活臭がない。
一人一人が温かみと胸の奥にちょっとした哀しみを抱いていて、誰にも好感が持ててしまう。
こんな全体の雰囲気はやはり、つむじ風食堂と同じです。
この感覚、やっぱり好きだなあ・・・と再認識しました。

最後に、「名なしのスープ」のレシピもありますよ。
役に立つかどうかは・・・謎。

満足度★★★★★