映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

プレシャス

2010年05月03日 | 映画(は行)
これぞ「生きる力」



             * * * * * * * *

私たちは、まずこの物語の主人公の少女プレシャスのこの上ない悲惨な状況に、
ひるんでしまうでしょう。
ニューヨークのハーレムに住む16歳の黒人の少女。
異様なほどに太っていて、読み書きもほとんどまともに出来ない。
実の父親にレイプされ二人目の子供を妊娠している。
母親と同居しているけれども、その母親からも虐待を受けている。
さらに妊娠が学校に知れて、退学になってしまう。


そんな彼女に一筋の光を投げかけるのが、代替学校(フリースクール)の教師、レイン先生。
その先生のおかげで、
たぶん似たような状況で一般の社会からはみ出したクラスの子供たちとともに、
プレシャスは真剣に学び始めます。

今日本にいるとさほど感じないですが、
読み書きという基本的なことが出来さえすれば、すべてに自信が出来てくるのでしょうね。
ちょっと、ヒラリー・スワンクの「フリーダム・ライターズ」という映画を思い出しましたよ。
あれも、読み書きもまともに出来ない高校生たちに学ぶ楽しさを教え、
自信をつけさせるストーリーでした。
給料さえもらえればいい・・・というような、使命感のない教師に出来る技ではありません。
教えることが好きで、子供たちに愛情があって、教育への熱意がなければ・・・。

そんなおかげで少しずつ自信を取り戻し、子供を出産したプレシャス。
彼女はレイン先生が光を投げかけたというのですが、
不思議と次第に彼女自身が光を帯びてくるように感じられるのです。
二人の子供を楽々抱き上げ、いとおしむ彼女。
そこには彼女自身が決して得られなかった母親の愛情に満ちていて、
たくましい母性を感じさせます。
周りの大人たちの援助もあり、独り立ちを始めた彼女は、
今度は周りの人たちの気持ちをも癒し始めたような・・・。
最後には彼女の母親の気持ちをも理解するプレシャス。


どんな悲惨な状況をも、前向きな気持ちで乗り越えていく。
そういう力はやはり一人きりではわいてきませんね。
理解してくれる人の存在は大きい。
そしてやっぱり若さかな?
踏まれても伸びていく力。
私くらいの年になるとそれはもう難しいゾ・・・。

こういうことに比べると、
今身の回りの多くの子供たちはうんと恵まれた学習環境にあるのだけれど
・・・勉強しませんねえ。
学ぶのは生活のためとか、楽しいからではなくて、受験のため?

・・・あ、主題からはそれました。

なんて悲惨なのか・・・というところで始まりながらも、
希望が感じられる、見応えたっぷりの作品です。

2009年/アメリカ/109分
監督:リー・ダニエルズ
出演:ガボレイ・シディベ、モニーク、ポーラ・パットン、マライア・キャリー