走ることは生きること
* * * * * * * *
高校一年、碧李(あおい)。
とにかく走ることが好き・・・、とこれまでは思っていた。
しかし、一度レースで惨敗を記した彼は、走ることが恐怖となってしまっていたのです。
この物語は、碧李が走ることに向けた思いを描く青春ストーリーではありますが、
もう一つ大事なのは家族の物語でもあることです。
それも、温かい家族の支えで彼が再生しました・・なんて生やさしいものではない。
なかなか複雑な家庭の事情があるのです。
彼の母は、小さな頃からしっかりしているといわれ、
芯が強くて、自立した考えを持つ頼りになる人・・・と周りからは思われているのです。
彼女自身もその役割を演じてきたというか・・・。
ある日突然夫に恋人ができて離婚。
完璧な妻、完璧な母をこなしていたはずなのに、と納得できないでいたのでしょう。
さらにこの家にはもう1人、今一年生になろうとしている杏樹がいます。
この子は夫の兄夫婦の子供なのですが、
兄夫婦は事故で亡くなり、この家に引き取ったのです。
いかにもかわいらしく、守ってあげたくなる女の子。
しかし、母の離婚についての行き所のない気持ちが、
この子に向かっていくことになる・・・。
碧李くんは、高校生とはとても思えないくらい、大人でけなげです。
母がどうしてこうなってしまったのか、わかっている。
妹を守ろうとするその姿は、下手な父親よりずっと上。
しかし、すべてのうまくいかない事柄を自分一人で抱え込もうとするのは、痛々しい。
そこにさしのべようとする手があるのに。
彼は母のために、人にはすがれないのです。
このような複雑な事情の中で、なおも走ろうとする彼。
なにやら、碧李にとって走るというのはもう"スポーツ"などというモノではないのです。
それは"生きる"ことと同じ。
こんな描写があります。
身体が温まってくる。
走り始めると、身体を取り巻くもの一つ一つがそれぞれの存在を際立たせてくる。
血の流れとか、心臓の鼓動とか、気道をすべっていく空気とか、
大地の感触とか風とかグラウンドの湿り気とか匂いとか、
みんな競うように鮮明になり、存在感をましてくる。
そして、吸い込まれていくのだ。
走ることから逃れるのに、家庭の事情を理由にしていたのではないか・・・。
逃げてばかりでは前に進めない・・・。
一途で純粋で、生きて、走っている碧李くんに
ひたすらエールを送りたくなります。
彼は必死で一人で立とうとしているけれども、
周りの人たちが、手をさしのべようとしてくれているのもいい。
時には甘えることも必要なのだけれど・・・生硬な彼は自分を許さない。
こういうあたりが若さだなあ・・・と思ったりもしますね。
満足度★★★★☆
![]() | ランナー (幻冬舎文庫) |
あさの あつこ | |
幻冬舎 |
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高校一年、碧李(あおい)。
とにかく走ることが好き・・・、とこれまでは思っていた。
しかし、一度レースで惨敗を記した彼は、走ることが恐怖となってしまっていたのです。
この物語は、碧李が走ることに向けた思いを描く青春ストーリーではありますが、
もう一つ大事なのは家族の物語でもあることです。
それも、温かい家族の支えで彼が再生しました・・なんて生やさしいものではない。
なかなか複雑な家庭の事情があるのです。
彼の母は、小さな頃からしっかりしているといわれ、
芯が強くて、自立した考えを持つ頼りになる人・・・と周りからは思われているのです。
彼女自身もその役割を演じてきたというか・・・。
ある日突然夫に恋人ができて離婚。
完璧な妻、完璧な母をこなしていたはずなのに、と納得できないでいたのでしょう。
さらにこの家にはもう1人、今一年生になろうとしている杏樹がいます。
この子は夫の兄夫婦の子供なのですが、
兄夫婦は事故で亡くなり、この家に引き取ったのです。
いかにもかわいらしく、守ってあげたくなる女の子。
しかし、母の離婚についての行き所のない気持ちが、
この子に向かっていくことになる・・・。
碧李くんは、高校生とはとても思えないくらい、大人でけなげです。
母がどうしてこうなってしまったのか、わかっている。
妹を守ろうとするその姿は、下手な父親よりずっと上。
しかし、すべてのうまくいかない事柄を自分一人で抱え込もうとするのは、痛々しい。
そこにさしのべようとする手があるのに。
彼は母のために、人にはすがれないのです。
このような複雑な事情の中で、なおも走ろうとする彼。
なにやら、碧李にとって走るというのはもう"スポーツ"などというモノではないのです。
それは"生きる"ことと同じ。
こんな描写があります。
身体が温まってくる。
走り始めると、身体を取り巻くもの一つ一つがそれぞれの存在を際立たせてくる。
血の流れとか、心臓の鼓動とか、気道をすべっていく空気とか、
大地の感触とか風とかグラウンドの湿り気とか匂いとか、
みんな競うように鮮明になり、存在感をましてくる。
そして、吸い込まれていくのだ。
走ることから逃れるのに、家庭の事情を理由にしていたのではないか・・・。
逃げてばかりでは前に進めない・・・。
一途で純粋で、生きて、走っている碧李くんに
ひたすらエールを送りたくなります。
彼は必死で一人で立とうとしているけれども、
周りの人たちが、手をさしのべようとしてくれているのもいい。
時には甘えることも必要なのだけれど・・・生硬な彼は自分を許さない。
こういうあたりが若さだなあ・・・と思ったりもしますね。
満足度★★★★☆