映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

パコと魔法の絵本

2010年08月28日 | 映画(は行)
カエル王子は奇跡を起こせるか



            * * * * * * * *

なにやら賑々しく、怪しげで、ど派手のこの画面が問題です。
良い作品だと聞いてはいるものの、
どうもこの雰囲気に苦手感があって、今まで見損ねていたのですが・・・。
でもやはりきちんと見てみるものですね。
食わず嫌いは行けません、という見本の様な作品。


元々は、後藤ひろと原作の舞台「MIDSUMMER CAROL ガマ王子対ザリガニ魔神」。
それなので、舞台はなにやら怪しげな病院内だけで、
演劇的雰囲気がたっぷりです。
とにかく登場人物が皆濃いのですが、
極めつきは偏屈な大富豪の老人、大貫氏(役所広司)。
「ミッドサマーキャロル」なので、この人物は
クリスマスキャロルのスクルージを意識しているわけです。
彼はこれまで自分の会社を大きくすることだけを考えてきたので、
人と親しく心を交わすなんてとんでもないと思っている。
周りの人のやることなすこと、すべて気に入らない。
ところがそんな彼が唯一気になる女の子がいて、それがパコ。

この子は、交通事故で両親を亡くし、自らは記憶が一日しか持続しない。
つまり、毎日毎日が初めての日。
パコにとっては、毎日がお誕生日で、
いつも読んでいる絵本が、いつも初めて読むお話。
そして毎日会っている大貫老人がいつも初めてあう人。
何の懸念もなく大貫に話しかけてくるパコに、
大貫は次第に心を許していくのです。


パコが毎日読む絵本は「ガマ王子対ザリガニ魔神」。
ここには、人のいやがることばかりするわがままなカエル王子が登場しますが、
これもまた、わがままいっぱいの大貫老人を重ねてあるわけです。

大貫老人は、パコのために、この絵本を元にした劇を上演しようと提案します。
渋っていた他の入院患者や病院スタッフも次第に気持ちが一つになって・・・。

この劇のシーンに、カエルやザリガニ、タニシにメダカ・・・CGも挿入されていて、
思い切り楽しめます。

またそれとは別に、大貫氏はたびたび心臓発作を起こし、
こんなに一生懸命だけれど、最後まで劇を続けられるのか・・・? 
そんなことも気がかりなのですが・・・。
ちょっとショックな“だまし”もあるので、ご用心を。


この作品、おかしいのやら悲しいのやら、
自分でもよくわからない涙があふれます。
こんなに濃い人たちばかりなのだけれど、
結局、心温まる物語・・・と言うのも不思議ですねえ。
また、確かに画面はど派手なのですが、
光と影のアクセントが付いた極彩色の世界、
この作品は、この色調でなければダメなんです。
いたずらに派手なわけではない。
おもちゃ箱をひっくり返したように、何でもあり、どんな色もあり。
役所広司のカエル王子のコスチュームは、
ダイワマンどころじゃなく、ハズカシイですけどねえ・・・。
昔、子役で売れたきり落ち目の青年役、妻夫木聡もナイスでした!!
(始め妻夫木くんとは、わからなかったです・・・。)
そして、このパコちゃんがなんてかわいい!!
時にはこのようにファンタジックな極彩色世界に遊ぶのも悪くありません。

2008年/日本/105分
監督:中島哲也
出演:役所広司、アヤカ・ウィルソン、妻夫木聡、土屋アンナ、阿部サダヲ、加瀬亮