出会うはずのない二人が出会う、歴史ロマン
* * * * * * * *
この秋公開の映画となっているこの作品、一足先に読みました。
時代物ですが、これはいつもの宇江佐作品とはやや趣が異なっていまして、
数奇な運命の女性を軸とした歴史ロマンとなっています。
江戸から三日を要する山間の瀬田村。
そこで生まれて間もない庄屋の一人娘、遊が何物かにさらわれてしまう。
手を尽くして探しても見つからず、でも、あきらめられない父母、2人の兄。
そしてなんと15年後に遊が狼少女となって帰還。
いえ、ご心配なく。
何も狼に育てられて、口もきけないケモノのようになってしまったというのではありません。
実は遊は、彼女をさらった男に育てられていたのです。
その辺はまたこの村を取り巻く複雑な事情も絡んでいたのですが。
山の中でろくにかまわれもせず育ったため、
身なりも言葉使いも少年のよう。
全くの野生児でたくましい。
それを口さがない村人たちが「狼少女」と称したのです。
さて一方そのころ、遊の次兄助次郎は、
江戸の御三卿、清水家に中間として仕えています。
若き当主斉道(なりみち)は、心の病を抱えていました。
この斉道は実在の人物で、当時の将軍家斉の17男(!)にあたります。
斉道は静養のため、助次郎の故郷である瀬田村へ行きます。
助次郎の生家で、初めて邂逅するふたり。
そのときの会話はこんな風です。
「そちは誰だ」
「ぬしは礼儀知らずだの。
おれが誰かと問う前に、ぬしから名を名乗れ。
おれが応えるのはその後だ。」
「予はのどが渇いた。水など汲め。早く汲め!」
「ぬしは手が不自由であるのか?・・・
そうではないらしい。
ならば自分で釣瓶を落として水を汲め。
おれが湯飲みを持ってきてやる」
毒気を抜かれた斉道が不器用な手つきで井戸から水を汲んでいると、
そこへ慌てて兄助次郎がとんでくる、という一幕。
誰からもちやほやとしかされたことがない斉道には、
この礼儀も何もない率直な娘が新鮮でならなかったのですね。
実は助次郎から、こういう妹がいるとは聞いていたのです。
そんな出会いから、次第に2人の心が接近していきます。
しかし、それは全く身分違いの恋。
たった一度体を合わせただけで、
お互い心の奥で、生涯愛する人はこの人ただ1人、と決めて、別れ行く・・・。
実はこの2人の出会いは、この本の3分の2ほども進んだところにあります。
そこまでは兄、助次郎と斉道との関わりなどがきめ細かく描かれている。
そこも非常に読み応えがあり、満足感があります。
我が儘でかんしゃく持ちの斉道なのですが、
時に無邪気で心もとなげで、つい周囲ではかばってあげたくなる、
そういうところも見えて、憎めません。
「雷桜」とは遊が育った山の中にある、桜の古木です。
それが不思議なことに根元が銀杏で、そこから桜が伸びている。
身分違いの2人がひとつになる、そういうことを暗示しているわけです。
物語のラストはそれから25年もの後です。
時の無常とそして人の絆の不思議さに胸が打ち震える気がします。
なんとドラマチック。
映画の主演は岡田将生と蒼井優。
う~ん、楽しみですね!
満足度★★★★★
![]() | 雷桜 (角川文庫) |
宇江佐 真理 | |
角川書店 |
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この秋公開の映画となっているこの作品、一足先に読みました。
時代物ですが、これはいつもの宇江佐作品とはやや趣が異なっていまして、
数奇な運命の女性を軸とした歴史ロマンとなっています。
江戸から三日を要する山間の瀬田村。
そこで生まれて間もない庄屋の一人娘、遊が何物かにさらわれてしまう。
手を尽くして探しても見つからず、でも、あきらめられない父母、2人の兄。
そしてなんと15年後に遊が狼少女となって帰還。
いえ、ご心配なく。
何も狼に育てられて、口もきけないケモノのようになってしまったというのではありません。
実は遊は、彼女をさらった男に育てられていたのです。
その辺はまたこの村を取り巻く複雑な事情も絡んでいたのですが。
山の中でろくにかまわれもせず育ったため、
身なりも言葉使いも少年のよう。
全くの野生児でたくましい。
それを口さがない村人たちが「狼少女」と称したのです。
さて一方そのころ、遊の次兄助次郎は、
江戸の御三卿、清水家に中間として仕えています。
若き当主斉道(なりみち)は、心の病を抱えていました。
この斉道は実在の人物で、当時の将軍家斉の17男(!)にあたります。
斉道は静養のため、助次郎の故郷である瀬田村へ行きます。
助次郎の生家で、初めて邂逅するふたり。
そのときの会話はこんな風です。
「そちは誰だ」
「ぬしは礼儀知らずだの。
おれが誰かと問う前に、ぬしから名を名乗れ。
おれが応えるのはその後だ。」
「予はのどが渇いた。水など汲め。早く汲め!」
「ぬしは手が不自由であるのか?・・・
そうではないらしい。
ならば自分で釣瓶を落として水を汲め。
おれが湯飲みを持ってきてやる」
毒気を抜かれた斉道が不器用な手つきで井戸から水を汲んでいると、
そこへ慌てて兄助次郎がとんでくる、という一幕。
誰からもちやほやとしかされたことがない斉道には、
この礼儀も何もない率直な娘が新鮮でならなかったのですね。
実は助次郎から、こういう妹がいるとは聞いていたのです。
そんな出会いから、次第に2人の心が接近していきます。
しかし、それは全く身分違いの恋。
たった一度体を合わせただけで、
お互い心の奥で、生涯愛する人はこの人ただ1人、と決めて、別れ行く・・・。
実はこの2人の出会いは、この本の3分の2ほども進んだところにあります。
そこまでは兄、助次郎と斉道との関わりなどがきめ細かく描かれている。
そこも非常に読み応えがあり、満足感があります。
我が儘でかんしゃく持ちの斉道なのですが、
時に無邪気で心もとなげで、つい周囲ではかばってあげたくなる、
そういうところも見えて、憎めません。
「雷桜」とは遊が育った山の中にある、桜の古木です。
それが不思議なことに根元が銀杏で、そこから桜が伸びている。
身分違いの2人がひとつになる、そういうことを暗示しているわけです。
物語のラストはそれから25年もの後です。
時の無常とそして人の絆の不思議さに胸が打ち震える気がします。
なんとドラマチック。
映画の主演は岡田将生と蒼井優。
う~ん、楽しみですね!
満足度★★★★★