映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

必死剣鳥刺し

2010年08月01日 | 映画(は行)
自分らしく生き、死のうとする武士の生き様



           * * * * * * * *

藤沢周平 隠し剣シリーズの中のひとつ。

冒頭、桜の舞い散る能舞台。
非常に美しいのですが、なにやら妙に緊迫感。
なんとその直後、主人公三左エ門(豊川悦司)が、
自分の主君の愛妾を刺し殺してしまうのです。
どうしてそんなことになってしまったのか、というのも問題なのですが、
ここで本当は三左エ門は死ぬつもりだったのですね。
切腹かもしくは打ち首の罪になるだろう・・・と。
しかし、何故か思いの外処分は軽く、
一年の蟄居の後、またお役に付くことを許される。
これは情が厚く面倒見の良い中老(岸部一徳)のおかげ・・・?
の様に見せかけておいて、実は大変な罠であったのです。




これ以上言うとネタバレなので止めておきますが、非常に、キタナイ!!
無能な藩主と、
しかし、その藩主の元で藩をもり立てていかなければならないという制約の中で、
仕組まれた悲劇。
そんな中で、自分らしく生き、死のうとする武士の生き様をえぐり出すように描いています。
非常に言葉少な。
武士。
男。
そういう渋い、かつての時代劇のイメージたっぷりです。



ラストのどしゃ降りの中の殺陣のシーンは壮絶でした。
あえて、踊るように流暢な殺陣にはしなかったと言います。
泥臭いですね。
斬りかかる方も、傷つきながらも受ける方も。
人と人が切り合うというのは本当にこんな風なのかも、と思わせます。

そして、「その秘剣が抜かれるとき、遣い手は半ば死んでいる」
という三左エ門の「鳥刺し」。
まさに必死剣なのでした。


三左エ門にそっと心を寄せる里尾(池脇千鶴)の存在がわずかな心の救いでしたー。
それがなければ、あまりにもしんどい。



苦み走ったいい男、帯屋隼人は藩主の命を狙う三左エ門の敵。
でも、こんなばかな藩主になど従えないというところでは
実は一番近いところにいるのではないでしょうかね。
なのに、敵対しなければならないというのも、この時代のかなわぬところ・・・。


2010年/日本/114分
監督:平山秀幸
出演:豊川悦司、池脇千鶴、吉川晃司、戸田菜穂、関めぐみ