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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

バティニョールおじさん

2010年08月13日 | 映画(は行)
勇気ある愛すべきお節介

バティニョールおじさん [DVD]
ジェラール・ジュニョー
パンド



           * * * * * * * *

舞台はナチス占領下パリ。
肉屋のバティニョール(ジェラール・ジュニョ)の隣にユダヤ人一家が住んでいるのですが、
彼の娘婿の密告により、ナチスに連行されてしまいました。
バティニョールにはそんなつもりはなかったのですが・・・。
3日ほど後、そこの息子シモンが途中で逃げ出し、1人で戻ってきました。
家も家具もすべてナチスに没収されて、もう住む場所もありません。
不憫に思ったバティニョールはシモンを匿うことになってしまいました。

フランスにとってドイツは元々敵。
国がドイツの占領下になったとしても、
そう簡単にドイツに忠誠を示すことなんかできるわけがありません。
だからたいていの人は、我が物顔のドイツ軍を忌々しく思っていたに違いないのです。
でも、それは心の奥にしまっておかなければならないこと。
しかしこの作品中の娘婿(正確にはまだ結婚していません!)のように、
中にはあからさまにドイツ軍に取り入って
うまい汁を吸おうというものもいたということか・・・。

この時代、こんな風な様々な人間模様があったのでしょうねえ。
しかし、人間性がはっきりと出てしまいますね。


バティニョールは特別正義感に燃えた人物ではありません。
ごく平凡な肉屋のおじさん。
帰ってきたシモンを見たときも、
本当はやっかいごとに巻き込まれるのはごめんだと思ったのですね。
でも、このような子供をナチスに引き渡すことはもちろん、
外にほおり出すこともさすがにできない。
そういう普通の優しさを持ったヒトなわけです。
何とかシモンを他の人に押しつけてしまいたいバティニョールは、
シモンの心当たりを訪ねてみるのですが、
なんとそこにも取り残されたユダヤ人の少女が今度は2人!
ほんのお情けのつもりが次第にのめりこんでお節介の域に入り込んでいくのですが、
勇気ある愛すべきお節介です。
そのため自らもずいぶん危ない目に遭うわけですが、
3人の子供とおじさんの旅は、微笑ましくもあるのでした。
それぞれ好き勝手にぶつぶつ文句を言いながらスイスをめざす。

最後の方で、バティニョールがシモンの父親に成り代わって
警察に答弁するシーンがあります。
もうそこでは、ほとんど彼らがユダヤ人であることがばれているのですが。
自分自身がユダヤ人になったつもりで話しているうちに、
ユダヤ人であるというだけでどんなに彼らの生活が制約され、
そして生命が脅かされているのか、
本当に理解するのです。

しかし根が正直者のおじさんは、全くウソが下手ですね。
結局、これまでの自分の平和でそこそこ豊かな生活もかなぐりすてて、
3人の子供たちを守ることになる。
そういうことをこれ見よがしの正義感を振りかざすことなく、
ほんのり温かく描かれていて、何だか幸せな気持ちになります。
聡明だけれども、子供らしくすねてしまうところもあるシモン少年にも好感が持てました。

この作品は主演のジェラール・ジュニョの制作・監督・脚本となっています。
この丸っこいおじさんは、何だか見ているだけで癒される感じです・・・。

2002年/フランス/103分
制作・監督・脚本:ジェラール・ジュニョ
出演:ジェラール・ジュニョ、ジュール・シトリュック、ミシェル・ガルシア、ジャン=ポール・ルーブ