崩壊した地上に新たに灯される火

* * * * * * * *
文明が崩壊した近未来。
ほとんどモノクロに近い映像で、荒涼とした世界が広がります。
わずかに父親が夢の中で過去の妻との生活を思い浮かべるシーンにのみ
セピアがかった色調がよみがえります。
あくまでも現実はモノクロ。
そんな中を父と幼い一人息子がひたすら南を目指して旅をします。

寒冷化し、草木もほとんどなくなってしまった地球。
食料がなくて、人々はわずかに残った過去の食料品を奪い合い、
時には殺し合ってその人肉を食べたりしながらほそぼそと命をつないでいる。
10年ほど前のその異変以前にはインテリであっただろうその父親は、
力で奪い合うこの殺伐とした世界はいかにも生きづらい。
現に妻の方はこの世界に適応できずに消え去ってしまった。
でも、彼をしゃにむに生かしているのは、この子の存在なのです。
この子は文明崩壊後に生まれました。
あふれるようにもののあった文明世界を知らない。
だからこそといいますか、ひどく純粋でまるで天使のようなのです。
盗みも殺人も当たり前、
人肉食も珍しくないというこの世界で
“善きもの”であり続けようとする父子。
彼らは火(=胸に宿る火)を運び続ける。
そこには何か新しい宗教観が見えるような気がします。
たぶんこの子は、もう何年か後に、
生き残った人々を導く役割を勤めることになるに違いない。
そのような予感を覚えるのです。

そしてこれはまた普遍的な父と息子の物語でもありますね。
父親は命がけで幼い息子を守り育て、自ら生きる規範を示さなければならない。
けれども、時期が来れば
子は父親を乗り越えて独立しなければならない・・・と。

さて、このモノクロの殺伐とした文明の終焉の光景。
どうしても少し前に見た「ザ・ウォーカー」を思い出してしまいます。
スーパーのカートに荷物を積んで押して歩いたり、
壊れずに残っている高速道路を歩いてみたり、その世界観はほとんど同一。
きっとこの物語はあのストーリーと地続きで、
同じ大地をひたすら西へ歩んでいる者があるに違いない。
そういえば、こちらに目の悪いイーライという老人が登場するんですよ。
その意味深長な名前も同じなのです。
思うに、「ザ・ウォーカー」の発想自体がこの原作本にあるのかも知れません。
そう思った方が納得がいきます。
ちなみにこのストーリーの原作はコーマック・マッカーシー。
あの「ノーカントリー」の原作者でもあります。
人肉食というショッキングなシーンがある以外は非常に地味な作品で、
これがヴィゴ・モーテンセンでなければ見なかったかも知れない
というくらいのものなんですが、
でも後になればなるほど、とても象徴的なこの父子のことが
心の中で大きくなっていく気がします。
不思議な作品です。

2009年/アメリカ/112分
監督:ジョン・ヒルコート
原作:コーマック・マッカーシー
出演:ヴィゴ・モーテンセン、コディ・スミット=マクフィー、ロバート・デュバル、ガイ・ピアーズ、シャーリーズ・セロン

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文明が崩壊した近未来。
ほとんどモノクロに近い映像で、荒涼とした世界が広がります。
わずかに父親が夢の中で過去の妻との生活を思い浮かべるシーンにのみ
セピアがかった色調がよみがえります。
あくまでも現実はモノクロ。
そんな中を父と幼い一人息子がひたすら南を目指して旅をします。

寒冷化し、草木もほとんどなくなってしまった地球。
食料がなくて、人々はわずかに残った過去の食料品を奪い合い、
時には殺し合ってその人肉を食べたりしながらほそぼそと命をつないでいる。
10年ほど前のその異変以前にはインテリであっただろうその父親は、
力で奪い合うこの殺伐とした世界はいかにも生きづらい。
現に妻の方はこの世界に適応できずに消え去ってしまった。
でも、彼をしゃにむに生かしているのは、この子の存在なのです。
この子は文明崩壊後に生まれました。
あふれるようにもののあった文明世界を知らない。
だからこそといいますか、ひどく純粋でまるで天使のようなのです。
盗みも殺人も当たり前、
人肉食も珍しくないというこの世界で
“善きもの”であり続けようとする父子。
彼らは火(=胸に宿る火)を運び続ける。
そこには何か新しい宗教観が見えるような気がします。
たぶんこの子は、もう何年か後に、
生き残った人々を導く役割を勤めることになるに違いない。
そのような予感を覚えるのです。

そしてこれはまた普遍的な父と息子の物語でもありますね。
父親は命がけで幼い息子を守り育て、自ら生きる規範を示さなければならない。
けれども、時期が来れば
子は父親を乗り越えて独立しなければならない・・・と。

さて、このモノクロの殺伐とした文明の終焉の光景。
どうしても少し前に見た「ザ・ウォーカー」を思い出してしまいます。
スーパーのカートに荷物を積んで押して歩いたり、
壊れずに残っている高速道路を歩いてみたり、その世界観はほとんど同一。
きっとこの物語はあのストーリーと地続きで、
同じ大地をひたすら西へ歩んでいる者があるに違いない。
そういえば、こちらに目の悪いイーライという老人が登場するんですよ。
その意味深長な名前も同じなのです。
思うに、「ザ・ウォーカー」の発想自体がこの原作本にあるのかも知れません。
そう思った方が納得がいきます。
ちなみにこのストーリーの原作はコーマック・マッカーシー。
あの「ノーカントリー」の原作者でもあります。
人肉食というショッキングなシーンがある以外は非常に地味な作品で、
これがヴィゴ・モーテンセンでなければ見なかったかも知れない
というくらいのものなんですが、
でも後になればなるほど、とても象徴的なこの父子のことが
心の中で大きくなっていく気がします。
不思議な作品です。

2009年/アメリカ/112分
監督:ジョン・ヒルコート
原作:コーマック・マッカーシー
出演:ヴィゴ・モーテンセン、コディ・スミット=マクフィー、ロバート・デュバル、ガイ・ピアーズ、シャーリーズ・セロン