映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

シングルマン

2010年10月18日 | 映画(さ行)
水の底のような一日



               * * * * * * * *

水中を一人の男性が漂っています。
次第に息が詰まって苦しくなってくる・・・・・・

こんなシーンが何度も出てきますが、これは主人公ジョージの現在の心の風景。
彼は16年間同棲したパートナーのジムを事故で失ったのです。
つまり、中年のゲイの男性のストーリーなのですが・・・。
いきなりそう聞くと引きましょうか。
でもこの作品をみると、人と人との愛に異性であれ同性であれ、
さほどこだわることはないのかも・・・という気がしてきます。
ジョージのこの深い喪失感。
単に性の問題だけではなくて、
人生をも分け合った魂の片割れを亡くしたというような・・・。


何をするにも意欲がわかず、淡々と時間が過ぎているだけ。
生きる望みを無くした彼は、その日自殺をしようとするのです。
貸金庫をカラにし、ピストルの弾を買って・・・
ところがこの日、大学教授である彼に、一人の学生が近づいてくる。
若々しい青年のまっすぐな目、初々しい会話、そして肉体がまぶしい・・・。
もしかしたら、この出会いは、彼の新たな生きる希望となるのでしょうか・・・。

特に、大きな事件があるわけではありません。
この大学教授の一日を淡々と綴るのですが、
その水の底のような一日に、わずかな日が差し込む。


失ったパートナーがもし女性なら、
ここまでの悲哀は出ないのではないかと思います。
まあ、新たな出会いはありそうに思えますよね。
けれど、同性でここまでの関係になれる相手というのは、
そう簡単に見つかるものではない。
そういうところがジョージの絶望を深めるわけです。
その絶望を背負いきったコリン・ファースがすばらしかったですね。
正直、「ブリジット・ジョーンズの日記」などに出ていた彼を
そうステキと思ったりはしなかったのですが、ここの彼はすごい。
これぞベテラン俳優の意地ですね。
感服いたしました。


2009年/アメリカ/100分
監督・脚本・制作:トム・フォード
出演:コリン・ファース、ジュリアン・ムーア、ニコラス・ホルト、マシュー・グード