問題山積みでも、実は幸せはそこにある
* * * * * * * *
大家族がテーマの作品と言えば、最近では小路幸也さんの「東京バンドワゴン」があります。
それは昔ながらの、ワイワイガヤガヤ、
何だか懐かしく温かい「正統」大家族の様子が描かれています。
もちろんそれも好きで大変面白く読みました。
さて、こちらの大家族ですが、
さすが「平成」というだけあって、まことに今様の大家族なのです。
緋田家の当主は72歳龍太郎。元歯科医師。
今は悠々自適の隠居生活。
妻春子も健在。
まあ、この夫婦関係はうまくいっています。
問題はここの長男30歳克郎。
中学生以来15年間引きこもり中・・・。
昔気質の龍太郎はそんな長男が理解不能でいまいましい。
しかし、根が事なかれ主義の彼は、本人に向かって何も言うことが出来ない。
それともう一人、春子の母タケが同居。
とりあえず元気ではありますが、いささか惚けが始まっていてときどき妙なことを言う。
これらのメンバーで、まあ、納得いかないながらも慣れ親しんで暮らしていたわけですね。
ところがそこに、まず長女の一家がやってくる。
長女逸子とその夫聡介、中学生のさとる。
実は聡介が事業に失敗して自己破産。
やむなく転がり込んできた。
ただでさえさとるは難しい年頃、
転校先の学校でいかにいじめに遭わないようにするか研究中。
そしてそこへまた、次女友恵までが戻ってきてしまう。
彼女は夫と離婚して戻ってきたのですが、なんと妊娠中。
龍太郎は当然別れた夫との子供だと信じて疑わないのですが
(その他の可能性に思い当たっていない!)
実はひどく年下のお笑い芸人との間の子。
本人結婚する気はない。
てなことで、惚け老人、引きこもり、自己破産、いじめ、離婚、シングルマザー。
これでもかと言うほどの今日的話題てんこ盛りの大家族になってしまったのでした。
しかし、この人たちすべて一つ屋根の下にいるというのではなく、
母屋と離れ、そして物置、同じ敷地内に分散して住んでいます。
大家族でお馴染みの全員集合のお食事シーンはなんと一回しかありません。
別に仲が悪いわけではないのですが、それぞれの生活がやはり中心なんですね。
この本では、各章語り手が交代し、この家族の様子を語っているのです。
時には惚けたおばあちゃんまでもが語り手なのが、なんだか楽しいですよ。
さて、このように問題を山積みに抱えた家なのですが、
春子は同窓会で「あんたのところは幸せよ」などと言われてしまいます。
せっかくみんなに愚痴ろうと思っていたのに・・・。
でも実際考えてみれば、引きこもりでも、家庭内暴力だのネット犯罪をするわけではない。
破産でも一家心中にはならなかったし、
ひどい離婚の話は聞くけれどそういうわけでもなく、
新しい命が生まれるのは悪いことではない・・・。
まあ、そう言われても本人の鬱屈は晴れないようなのですが、
確かにどんな家にも悩み事の一つや二つあるのかも知れませんね。
端からは幸せそうに見えても。
問題を抱えながらも毎日を生きていて、やがて変化していく。
その変化のための力を蓄える場が、家・家族というものなのかも知れません。
この本の最大のオドロキは、引きこもりの長男がなんと結婚してしまうところなんですよ。
引きこもりっきりの生活で、どうして女性と知り合えたのか、
そして、どうやって結婚までこぎ着けることが出来たのか。
是非読んでみてくださいね。
読後感も良し。
「小さいおうち」で中島京子さんを知った方、
次に読むべきなのは絶対にこの本です。
オススメです。
満足度★★★★★
平成大家族 (集英社文庫) | |
中島 京子 | |
集英社 |
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大家族がテーマの作品と言えば、最近では小路幸也さんの「東京バンドワゴン」があります。
それは昔ながらの、ワイワイガヤガヤ、
何だか懐かしく温かい「正統」大家族の様子が描かれています。
もちろんそれも好きで大変面白く読みました。
さて、こちらの大家族ですが、
さすが「平成」というだけあって、まことに今様の大家族なのです。
緋田家の当主は72歳龍太郎。元歯科医師。
今は悠々自適の隠居生活。
妻春子も健在。
まあ、この夫婦関係はうまくいっています。
問題はここの長男30歳克郎。
中学生以来15年間引きこもり中・・・。
昔気質の龍太郎はそんな長男が理解不能でいまいましい。
しかし、根が事なかれ主義の彼は、本人に向かって何も言うことが出来ない。
それともう一人、春子の母タケが同居。
とりあえず元気ではありますが、いささか惚けが始まっていてときどき妙なことを言う。
これらのメンバーで、まあ、納得いかないながらも慣れ親しんで暮らしていたわけですね。
ところがそこに、まず長女の一家がやってくる。
長女逸子とその夫聡介、中学生のさとる。
実は聡介が事業に失敗して自己破産。
やむなく転がり込んできた。
ただでさえさとるは難しい年頃、
転校先の学校でいかにいじめに遭わないようにするか研究中。
そしてそこへまた、次女友恵までが戻ってきてしまう。
彼女は夫と離婚して戻ってきたのですが、なんと妊娠中。
龍太郎は当然別れた夫との子供だと信じて疑わないのですが
(その他の可能性に思い当たっていない!)
実はひどく年下のお笑い芸人との間の子。
本人結婚する気はない。
てなことで、惚け老人、引きこもり、自己破産、いじめ、離婚、シングルマザー。
これでもかと言うほどの今日的話題てんこ盛りの大家族になってしまったのでした。
しかし、この人たちすべて一つ屋根の下にいるというのではなく、
母屋と離れ、そして物置、同じ敷地内に分散して住んでいます。
大家族でお馴染みの全員集合のお食事シーンはなんと一回しかありません。
別に仲が悪いわけではないのですが、それぞれの生活がやはり中心なんですね。
この本では、各章語り手が交代し、この家族の様子を語っているのです。
時には惚けたおばあちゃんまでもが語り手なのが、なんだか楽しいですよ。
さて、このように問題を山積みに抱えた家なのですが、
春子は同窓会で「あんたのところは幸せよ」などと言われてしまいます。
せっかくみんなに愚痴ろうと思っていたのに・・・。
でも実際考えてみれば、引きこもりでも、家庭内暴力だのネット犯罪をするわけではない。
破産でも一家心中にはならなかったし、
ひどい離婚の話は聞くけれどそういうわけでもなく、
新しい命が生まれるのは悪いことではない・・・。
まあ、そう言われても本人の鬱屈は晴れないようなのですが、
確かにどんな家にも悩み事の一つや二つあるのかも知れませんね。
端からは幸せそうに見えても。
問題を抱えながらも毎日を生きていて、やがて変化していく。
その変化のための力を蓄える場が、家・家族というものなのかも知れません。
この本の最大のオドロキは、引きこもりの長男がなんと結婚してしまうところなんですよ。
引きこもりっきりの生活で、どうして女性と知り合えたのか、
そして、どうやって結婚までこぎ着けることが出来たのか。
是非読んでみてくださいね。
読後感も良し。
「小さいおうち」で中島京子さんを知った方、
次に読むべきなのは絶対にこの本です。
オススメです。
満足度★★★★★