映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

小さな村の小さなダンサー

2010年11月04日 | 映画(た行)
政治に翻弄されつつも自分の道を行く



            * * * * * * * *

中国出身の名バレエダンサー、リー・ツンシンの半生を描いた作品です。
1961年、中国山東省の貧しい村に生まれ育ったリー。
ある日、学校に役人がやってきて適正試験を受けるようにと、リーを指名。
毛沢東の文化政策によって、才能がありそうな子が国中からかき集められた。
これはたぶんバレエだけのことではありませんよね。
とにかく11歳のリーは、何のための適正試験なのかも解らずに試験を受け、
パスをして、北京の舞踏学校に入ります。
まだ幼さの残る年頃、いきなり家族から遠く離され、愛国心をあおる厳しい訓練。

リーはそんな学校が嫌で、ちょっぴり落ちこぼれてもいたのですが・・・。
でも、そこにはいい師もいたのですね。
真に芸術性を目指そうとするチェン先生。
しかし、先生は反革命分子とされて学校を追われてしまいます。
学校での演目は革命賛美のプロパガンダ作品・・・。

幼い頃から徹底的にバレエをたたき込まれた彼らは、
確かにすばらしい技術を持っているけれども、そこには感情の発露がない、
とはチェン先生の言葉。



とにかくも、その学校で青年となったリーは、大きなチャンスに巡り会います。
アメリカのバレエ団の研修生となって留学。
中国で生まれ育ったリーにとっては、アメリカでの生活は大きなカルチャーショック。
この自由の国で、リーは才能を開花させていくのです。
アメリカの文化に触れ、また恋人も出来たリーは帰国するのが嫌になっていく。
でも、この国に残る方法は亡命しかない。
一時はほとんど拉致のような状態で、国に連れ戻されかけるのですが、
バレエ団の人々や弁護士の必死の努力によって、残ることが出来ました。

そのときの中国大使館職員の言葉。
「おまえはもう二度と国に帰ることが出来ない。
帰るところはないし、家族も同胞ももう一人もいないのだ。」

厳しい現実です。
そう言われると急に不安になりますね。
また、自分の我が儘で、故郷の家族はひどい目に遭っているのではないか・・・
と、罪の意識にも囚われる。
亡命というのはこういうことなのですね。
でも、すでにアメリカも彼の第2の故郷なのです。
決して独りぼっちではないし、彼を支えてくれる人も多くいる。
そして何よりも彼は彼のやりたいバレエをすることが出来る。

また、時代は進んで、中国のガチガチの体制が緩和されていきますね。
ラストは涙・涙・・・のシーンが待っています。
ほんと、泣かされてしまいました。
政治は人の運命を翻弄します。
だからこそのドラマなんですねえ・・・。


さて、この作品の主役、演技も出来てバレエも相当出来なければつとまらない。
私は始めご本人かと思ったのですが、
ご本人はもう50近いですよね・・・。
そのご本人はオーストラリア在住とのこと。
つまりオーストラリアで自らの半生を綴る手記がベストセラーとなり、
そのため映画化されたわけです。
だからオーストラリア作品。
なるほど・・・納得。

さてそれで映画化に当たり、主役を探すのが大変だったらしいのですが、
イギリスのバーミンガム・ロイヤル・バレエのプリンシパル、ツァオ・チーが抜擢されました。
この方、カッコいいです。
バレエのシーンがこれまたすばらしい。
彼の舞台シーンが見られるというのも何ともお得な作品なのです。

しかし、ラストは思い切り米中友好!!のCMみたいになっているのが
ちょっと引っかかりました。
でも、先ほども書いたとおり、これはアメリカ作品ではなくてオーストラリア作品。
だからそれは私の思い過ごしか・・・。
そんな引っかかりを抱えながら映画館を出てみれば、
昨今なにやら険悪な日中関係が思い出され、
しかしまた、狸小路のシアターキノ付近は、
いつものごとく観光に来た中国人が大勢いらっしゃる・・・。
日中関係、とにかく混沌としております。
中国の政治は、まだまだ油断ならない・・・。
思い切り感動した後でなにやら複雑な思いもかみしめてしまった、この一作。

2009年/オーストラリア/117分
監督:ブルース・ベレスフォード
出演:ツァオ・チー、ブルース・グリーンウッド、アマンダ・シュル、カイル・マクラクラン、ジュアン・チェン