映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「菱川さんと猫」 萩尾望都・田中アコ 

2010年11月07日 | コミックス
“ねこじゃらし”で化けの皮が・・・

萩尾望都・田中アコ短編集 ゲバラシリーズ 菱川さんと猫 (アフタヌーンKC)
田中 アコ
講談社


             * * * * * * * *

萩尾望都氏は本当に猫が好きなんですねえ。
少し前に「レオくん」という作品がありましたが、
今回は、田中アコさんという方の原作の漫画化です。
さて、この方、聞いたことのない方なのですが・・・
この作品、「ゆきのまち幻想文学賞」の佳作作品なのだそうですが、
この賞は萩尾氏が長年審査員を務めているそうです。
その関係で、この作品を気に入った萩尾氏が著者に直接オファーを取ったのだとか。
何ともラッキーな話しですが、
実際この作品、萩尾望都作品としても違和感なく、すばらしい仕上がりになっています。


元々、ストーリーは1話目「菱川さんと猫」だけだったわけですね。
ストーリーとしてはやはりこれがピカイチです。
雪深い街、穴森市。
白湯(さゆ)が会社に出てみると、菱川さんの机に座っていたのは猫だった・・・。
他の人にはちゃんと菱川さんに見えるらしいのですが、
何故か幼い頃から"化け"が見えてしまう体質の白湯には、
明らかにそれは菱川さんではなくて、猫。
会社の帰り、菱川さんに化けた猫の後をつけてみれば、
本当に菱川さんの家に入っていく。
問い詰めてみれば、この猫はゲバラという名で、
菱川さんにはお世話になっているので、
菱川さんが旅行に出ている間、替わりに仕事をすることにした・・・などという。
半信半疑ながら、白湯は様子を見ていたけれど、
いつまでたっても本物の菱川さんが戻ってこない。
さて・・・???

コミカルに描かれていますが、とても切ない物語です。
人の「死」とは何なのか。
心の奥にやんわりと語りかけます。
また、ゲバラは「化け猫」と呼ぶにはあまりにもキュート。
真剣だけれど、いい加減でもある、やっぱり基本的には猫だ。
なにしろ、白湯に「猫でしょ」といわれても、頑固に否定していたのに、
目の前でネコジャラシを振られるとついじゃれついてしまい、正体がばれてしまった・・・。
ちょっぴり出てくる津軽弁もまた、味があって、
この地方だからこんな猫もいるかな?とも思う。
元気で行動力抜群の白湯ちゃんもいいな。
他に、「ハルカと彼方」、「十日月の夜」
もちろんどちらもゲバラや白湯ちゃんが登場しますが、ステキな作品群です。

是非続編が読みたいな。

満足度★★★★★