映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ミリオンダラー・ベイビー

2010年11月19日 | クリント・イーストウッド
神の意志よりも人の意志・・・



             * * * * * * * *

これは、アカデミー賞最優秀作品賞、監督賞、主演女優賞に助演男優賞とすばらしく評価の高い作品ですね。

ミスティックリバーに続いて、またがーんと重い作品かと思ったら、
結構わくわく・どきどき。
しかし、かと思えば、終盤またものすごく重いテーマにぶち当たるという・・・。
そうなんです、イーストウッド監督の進化形なんじゃないでしょうかね。
重いテーマもエンタテイメントにくるんで、
さも“重い”という印象をあえて持たせないようにしている。
そういう傾向はあるような気がするね。


マギーは田舎から出てきて、ひたすらボクサーの夢を持ち続けている。
ウェイトレスをしながら切り詰めた生活。でももう31歳。
何とかいいコーチに就きたいと、
フランキーがオーナー兼トレーナーをしている寂れたボクシングジムにやってくるのだけれど、
フランキーは女には教えない、とつれない。
けれども、彼女のひたむきな情熱は、このうらぶれたおっさんたちにも伝わっていくんだね。
いよいよ試合に出るようになってからは、ほとんどKO勝ちで勝ち進んでいくマギー。
かっこいい。あの筋肉質の締まった体、いいよねえ・・・。
ヒラリー・スワンク、この作品のために、相当トレーニングを積んだことがうかがわれますね。

でも、これは単なるサクセスストーリーではなかったんだ。
試合中の事故なんだけど、首から下が不随、
人口呼吸器が無ければ呼吸も出来ないという体になってしまった彼女。
あんなに輝いていたのに。
彼女とともに死んだようになってしまったフランキー。
マギーは言う。「死なせて」と。


これは快進撃を続け、輝いていたマギーと、
その後のベッドに縛り付けられたマギーの対比がすごく痛々しい。
生きていくためには、何か心のより所が必要だよね。
たとえば、希望。
でも、体を動かすことが出来るようになるのぞみはたたれている。
呼吸すら自分で出来ないというなら、ただ生かされていると感じるだろうね。
では、周りの人の愛?。
ところが、彼女の家族と来たら・・・。
いやひどいよね。
彼女はファイトマネーを自分では使わずに、田舎のお母さんに家を買ってプレゼントしたんだ。
ところが、家なんか持ったら生活保護が打ち切られると、文句を言うんだよ。
いやはや・・・こんな家で、よくこんなしっかり者の娘が出来たもんだ。
それというのも、亡くなったお父さんがいい人だったみたいなので・・・。
うん、そうか。彼女はフランキーに父親像を重ね合わせてる。
フランキーの方も、今はもう音信不通で行方も知れない自分の娘と、マギーを
重ね合わせてもいるんだね。
だから、彼女の今の支えはフランキーなのだけれど、彼とてもう年だし・・・、
負担をかけられないと思うよね、そりゃ。

今回再見なんで、フランキーの最後の決断は解っていたのですが・・・。
やはりこうするのが良かったんだと、私は思いますけど・・・。
「海を飛ぶ夢」も、同じテーマだったよね。
ウ~ン、でも本当にそれでいいのだろうか・・・と、ヒューマニズムぶって言うのはやさしいけれどね。
もし自分だったら、やはりそのまま生き永らえようなんて思わないと思う。
まして彼女はほとんどやりたいことをなしとげたあとだった。
同じに輝けないで、ベッドに横たわっているだけ、息をしているというだけで、
それが生きているということだろうか・・・。
でもね、自分が本当にその立場にならなきゃ解らないよ。
案外、それでも生きたいって思うかも知れない。
意識がしっかりしているんだからさ、本を読んだり、映画を見たりは出来るよね。
瞬きだけで自分の意志を表現して生き続けた人だっているよ。
まだ若いのだし、何が生き甲斐になるか先のことは解らない。
やっぱり、誰にも答はだせないんだ・・・。
うん。でも最終的には本人の意志、ということなんじゃないかな。
「空を飛ぶ夢」も本人の強い意志が認められる・・・ということだったと思う。


フランキーはいつも教会のミサに通っているのに、神については懐疑的で、
いつも牧師さん(神父さん?)を困らせていたね。
で、最後にも結局、神はなんの答えも与えてくれない。
このへん、日本人なら「あ、そう」と流してしまうところだと思うけれど、
本当はもっと重いのじゃないかな。
フランキーは本当は神にすがりたかったけれど、結局自分で答えを出すしかなかった。
いろいろ考えてしまう作品なんだなあ・・・。
配役も実に決まってましたね。
こういうときのモーガン・フリーマンはホントにいいね。
穴の開いた靴下をはいてさ。
そこの二人のやりとりがすごくよかったなあ。

ミリオンダラー・ベイビー [DVD]
F・X・トゥール,ポール・ハギス
ポニーキャニオン


2004年/アメリカ/133分
監督:クリント・イーストウッド
脚本:ポール・ハギス
出演:クリント・イーストウッド、ヒラリー・スワンク、モーガン・フリーマン