映画と本の『たんぽぽ館』

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「真田太平記(六)家康東下」池波正太郎

2010年11月05日 | 真田太平記
雷鳴轟く運命の一夜

真田太平記(六)家康東下 (新潮文庫)
池波 正太郎
新潮社


          * * * * * * * *

何だかいよいよ緊迫してきましたねえ。
そうだねえ。今や伏見城で頂点に立ったようにみえる家康なんだけど、
目の上のコブなのが上杉景勝と石田三成。
それぞれに戦の準備にかかっているというような噂が聞こえてきて、
家康はたびたび真意をただそうとして書状を送ったり、上洛するように催促したりするのに、
双方無視。

ついに業を煮やした家康は、上杉を討つ決心をする。
全国の大名に自分に味方するように告げて、自らは伏見城を出て自国、江戸に向かいます。
一方石田三成は、これを機に兵を挙げる。

諸国の大名は困惑・・・。東の徳川家康か、西の石田三成か・・・。
どちらも秀吉の遺児、秀頼を守ると言っている・・・。
どっちが正しいか、というよりも、どっちに味方すると有利か・・・ということだよね。
そりゃもう、自分の命だけでなく一族の命運にも関わってくるのだから慎重にならざるを得ない。
実にいろいろな武将がいて、それぞれが元の主従関係とか婚姻関係とか、
いろいろなしがらみでぐちゃぐちゃになって、それぞれ必死、
という状況が書かれていて興味が尽きないね。
そしてそれは真田家でもおなじなんですよ。
始め、信幸はもちろんなんだけれど、昌幸、幸村も家康の要請に応えて出陣するんだ。
けれども、この二人が頼りにしている幸村の岳父である大谷吉嗣が
石田三成側についたと聞いて、いよいよ決断をする。
会津出陣の途上、折しも雷鳴の轟く運命の一夜。
幸昌、信幸、幸村の三人の会議がもたれる。
ここですよね、一般には「真田の家を絶やさないように」あえて道を分けた・・・という風に言われていますが、
この本のこのシーンではそういう会話は出てこないんだね。
うん。そもそもここまで読んでいればどちらにつくかはわかりきっているもんね。
まあ、実際に、そういう心積もりもあったかも知れないけれど、
池波氏の解釈は、それぞれの意志をお互いに尊重したのだ、という風だね。
うん。あれこれ計算してというのではなくて、多くは語らず、それぞれの意志を確認した・・・と。
それで、昌幸と幸村は西側に、信幸は東側につき、明日からは敵同士・・・ということになってしまったんだ。
池波氏の解釈では西につきたいというのは昌幸の意志であって、
幸村は実はどっちでも良かったなんて書いてあるね。
うん、幸村はイデオロギーがどうこうというよりは、
何かの目的のためにまっしぐら、そういうことが好きなだけだって・・・。
まあ、だからこそ何だか爽やかな感じがするんだな。
それで、昌幸、幸村は徳川軍を離れて、上田に戻るんだね。
そう、それで今度は二度目の上田合戦へ・・・ということになっていくわけだ。


そんなわけで、いよいよ家康と石田三成の天下分け目の戦いへと入っていくんだけれど・・・、
まあ、言わずともこの結果だけは誰でも知っている。
著者は石田三成についてこんな風に言っているよ。
三成は知能はすぐれていたけれども人の心が読めなかった。
三成は優れた政治家であったとしても、すぐれた武将ではなかった。
うーん、厳しいけれど、だからこその結果なんだろうなあ。
その辺は、次巻でまた・・・。