映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「ハッピーエンドにさよならを」 歌野晶午

2010年11月11日 | 本(ミステリ)
だまされぬようご注意

ハッピーエンドにさよならを (角川文庫)
歌野 晶午
角川書店(角川グループパブリッシング)


             * * * * * * * *

この本は、歌野晶午氏の短編集ですが、
中にこのような表題の作品があるわけではありません。
あえて、ハッピーエンドではない作品を集めた短編集。
こういうのもユニークですね。
ハッピーエンドではない、となれば悲しいのか、というとそういうわけでもありません。
どちらかというとちょっと皮肉でブラックの味わい。
元々が本格ミステリの名手ですから、ラストであっと驚く展開があって、
しかもそれは作中の人物にとってだけでなく、
読み手の私たちにとっても落とし穴となっている。
こういうところがいいんですよね。


いくつかご紹介しましょう。

「おねえちゃん」
理奈はいつも自分にだけ母が辛くあたると感じていた。
姉には甘いのに、いつも自分だけがしかられる。
立ち居振る舞いのこと、勉強のこと・・・。
普通に見れば充分にできていることでさえ、怒鳴りつけられ、はたかれる。
父も、ほとんど見てみないふりだ・・・。
どうしてなのだろう。
積年の疑問の答えを彼女は見つける。
私は姉の病を治すために生まれたのではないか。
姉に脊髄移植の必要があって、やむなく予定外で作った子供。
その手術は成功し、もういらなくなった子供だから、私はのけ者にされるのだと・・・。
そう思った彼女はついにある行動に出るのですが・・・。
母親が彼女に厳しくあたる理由は、実はそうではなく・・・・。
"思い込み"はおそろしい・・・


「死面」
子供の頃、夏休みのたびに、母の実家がある田舎で過ごす私。
大勢の従兄弟たちと過ごした楽しい思い出がある。
そんな夏休み中のある日、
入ってはいけないと言われた部屋へ入り込み、奇妙なものを見つける。
不思議な因縁とでも申しましょうか、
意外なところで発覚してしまう犯罪。
ちょっとゾクゾクします。
夏の百物語のひとつに・・・。


「防疫」
娘のお受験に血眼になる母親のお話。
始めは幼稚園入園のために・・・。
それは失敗して、次には小学校入学のために。
早朝から夜まで、何から何まで受験のためのステップで、覚えが悪ければ折檻。
夫の世話などそっちのけ。
しかし、娘はけなげにもママの期待に応えようと必死。
ところが、ついにまた、小学校受験にも失敗してしまったとき・・・・!
このストーリー、結果の恐ろしさよりも、お受験ママの方がよほど怖かった。
皆様もご注意を・・・。


また、ここには以前読んだ「川に死体のある風景」にも入っていた
「玉川上死」が収められています。
この作品、好きです。

この本の帯のキャッチは「めくると、危険」。
お楽しみあれ。

満足度★★★★☆