映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

セラフィーヌの庭

2010年11月01日 | 映画(さ行)
絵を描くことの至福を得た代償



            * * * * * * * *

生命力をたぎらせて美しく咲き乱れる花、花、花・・・。
まずはこのような絵に心奪われます。
フランスに実在した女性画家セラフィーヌ・ルイの伝記的ストーリーです。

1912年、パリ郊外のサンリス。
セラフィーヌは、家政婦をしながら貧しく孤独に暮らしていました。
唯一の心のよりどころは草や木と対話し、そしてまたひたすら絵を描くこと。
誰かに習ったわけでもないし、また、誰に見せようというのでもない。
守護天使の啓示のままに筆を、指をすべらせていく。
そんなとき、ドイツ人の画商ヴィルヘルム・ウーデが彼女の絵に目をとめます。
その無垢で激しい絵に魅せられた彼は、
セラフィーヌにもっと絵を描くように勧めるのですが、
1914年、第一次世界大戦が勃発。
ウーデは敵国人ということになってしまったので、帰国してしまいます。

それからまた時が巡り、1927年。
ウーデが再び来仏。
その間もセラフィーヌはひたすら絵を描き続け、技術も上達しています。
そこで、個展を開く話も出るのですが、これがまた時が悪い。
1929年、世界恐慌。
不況のあおりをまともに受け、個展も開けなくなってしまった。
その頃から次第に、セラフィーヌは
現実と絵と守護天使の境界があやふやになってきて・・・


彼女は絵を売りたかったわけではない。
ただ、人々の賞賛がまぶしく、うれしかったのだろうと思うのです。
というのは、彼女は常に貧しく、ほとんど人から褒められるようなことも、
目を浴びるようなこともなかったのだろうと思えるから・・・。
その絵は彼女にとっては生きるすべて。
生を否定されては、もう死んだも同然・・・。

彼女の守護天使は、彼女に絵の才能と描くことの至福を与えた代わりに、
人として生きるほんのささやかな幸福は奪ってしまったかのようです。
いや、その無垢さのあまり、
現実に対応出来なくなってしまったというべきなのか。
改めて見ればまた、切ないほどにじんわりと胸を打つ、花・花・花・・・。


映画のオフィシャルサイトで、彼女の実際の絵をみることができます。
→セラフィーヌの庭

2008年/フランス・ベルギー・ドイツ/126分
監督:マルタン・プロボスト
出演:ヨランド・モロー、ウルリッヒ・トゥクール、アンヌ・ベネント、フランソワーズ・ルブラン