映画と本の『たんぽぽ館』

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アラビアのロレンス

2011年02月06日 | 映画(あ行)
広大な砂漠でつかんだ夢と、その崩壊



            * * * * * * * *

往年の名作、アラビアを舞台とするスペクタクル巨編です。
私はロレンスはアラブで活躍するヒーローというイメージを持っていたのですが、
そうではなく、もっと人間的に弱い部分も表されています。
第一次世界大戦開戦後。
イギリスは連合国の一員として参戦しており、
ロレンスは情報収集のため、ということでアラブに向かいます。
彼は、目立ちたがりの変人、と周囲には思われていた様子。
当時のアラビアはトルコ軍が勢力を伸ばしていたのですが、
対するアラブ側は各部族間の抗争が激しく、とても一つにはまとまらない。
そもそも総括的なアラブ人という概念がないのですね。
そこをあえてロレンスは、部族間の協力を呼びかけて、
アラブをまとめ上げようと理想を掲げるのです。
この長大な作品は途中の休憩を挟んで2部に別れていますが、
前半は、その理想に向かい、なかなか胸のすく物語になっています。

砂漠。
どこまでも続く広大な砂の世界。
そこに沈む夕陽。
ラクダで行く砂漠の横断。
この壮大で美しいシーンの連続に魅入られてしまいます。
苦難の末アカバ陥落という目的を遂げ、
アラブ人の中でも英雄に祭り上げられてゆく。



ところが後半は、彼の命運に陰りがさしていきます。
始め彼は犠牲者を出したくなかったんですね。
途中砂漠ではぐれた仲間を捜しに戻ったりもする。
しかしやむなく命を落とす者は出る。
部族の抗争を大きくしないための見せしめの射殺であったり、
砂漠の流砂に呑まれる事故であったり。
次第に人の死に麻痺し、逆に自ら大量虐殺に手を染めてゆく。

また、彼自身の理想とは裏腹に
イギリス政府は当然ながらアラブの独立などは望んでいない。
アラブの部族たちは、
トルコとの争いで、いいだけ略奪品を手に入れると、さっさと帰ってしまう。
各部族長の代表会議も全く会議の体をなさないまま空中分解。

つかみかけた夢がガラガラと崩れ、逆に自分自身の弱さを思い知ることになる。
結局彼は、長いアラブの混沌とした歴史の力に負けたのかも知れません。
いえ、誰も勝つことなどできないからこそ、未だに中東は混乱のまま・・・。
意外にも失意の中、悲痛なエンディングなのでした。
でも、確かにこの作品でハッピーエンドはあり得ませんね。


ところで私には主役のピーター・オトゥールよりも、
アラブ人アリ役のオマー・シャリフの方が魅力的でした!
この方、やはりこれで注目を浴びたのでしょうね。
この作品の後、先日見た「ドクトルジバゴ」の主役を務めています。
この作品での彼の役割は、始めはロレンスをうさんくさく見る強気の男。
その後、ロレンスに惚れ込み、彼を支える立場になるのですが、
実に頼もしくかっこよい!! 
もともとエジプト出身の方なので、こういう役が似合うのは当然なのですが。 
私はすっかりファンになってしまいました。
・・・といっても手遅れも甚だしいですが・・・。
最近では「オーシャン・オブ・ファイヤー」に出ていた・・・?! 
やれやれ、これも好きな作品でしたが、もう一度見てみないと・・・。
いや、当然今はもう、すっかりおじいさんなんですけどね。

アラビアのロレンス (1枚組) [DVD]
ピーター・オトゥール,オマー・シャリフ,アレック・ギネス,アンソニー・クイン
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント


「アラビアのロレンス」
1962年/イギリス/227分
監督:デビッド・リーン
出演:ピーター・オトゥール、オマー・シャリフ、アレック・ギネス、アンソニー・クイン、ホセ・ファーラー