映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ヒア アフター

2011年02月22日 | 映画(は行)
生死の狭間のドラマではなく、やはり「生きる」人のすばらしいドラマ



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さて、お待ちかねクリント・イーストウッド監督の新作です!
ヒアアフターというのはつまり、死後の世界、来世のことなんですね?
そう、つまりスピリチュアルがテーマなのだけれど・・・。
ここのところ硫黄島、チェンジリング、グラン・トリノ、インビクタス・・・と
骨太作品が続いていたのに、また、ずいぶんと方向転換・・・?
という気がするけれど・・・。
うん、けれど彼は社会問題を扱っても、決してヒューマニズムとエンタテイメント性を置き去りにしない。
スピリチュアルは、私を含めてちょっと身構えてしまう人も多いと思うのだけれど、
この作品は見終えてみればやっぱりいつものイーストウッドだなあ・・・と思うよ。
あんまりスピリチュアルは気にしないで、見てみるといい。


さて、この冒頭からいきなりスペクタクルシーンで度肝を抜かれました。
南の島の大津波のシーンだね。
まだ記憶に新しい実際にあった大災害だから余計ドギマギしてしまったね。

パリ在住の女性ジャーナリスト、マリーがたまたま訪れていたこの地で、
大津波に巻き込まれ、臨死体験をするんだね。
一方サンフランシスコでは、元霊能者ジョージが自分の能力をもてあましている。
「元」というのは、今も死者との交流が出来ないわけではないけれど、
その能力のために以前自分の生活がすっかりダメになってしまったので、
もう誰かのために死者と話をするのは止めているんだ。
しかしうっかり女性とも親しくも出来ず、孤独で希望のない毎日。
これは才能なんかではない。呪いだ。と彼は言うね。
そして、ロンドン。
双子の兄を事故で亡くした少年マーカス。
彼は兄の死の痛手から立ち直ることが出来ずにいる。
何とか兄と話をしたいと、ネットで霊能者の情報を集めてはみるのだけれど・・・。



パリ、サンフランシスコ、ロンドン。
それぞれの場所に住むこの3者が、まるで運命の糸に導かれるように出会うわけです。
うーん、これぞドラマですよ。
とってつけたように、ではなくて、始めからきちんと計算されてますよね。
なんというか、この作品では死後の世界が本当にあるのかどうか、
それはあまり問題ではないような気がする。
映像でも、ジョージが相手の手に触れたときに、
ほんの一瞬彼らが逢いたいと望む死者の姿が垣間見えるだけで、
それ以上は描写していないよね。
そういう世界にあえて踏み込まないようにしている感じ。
宗教色も全くなし。
そういうところで、うさんくささを払拭しているんだ。

私は少年が心の癒やしを得るシーンなんか、泣けて泣けて・・・。
いつも傍らにいた人が亡くなってしまったときの喪失感。
そういうのが解るから・・・余計にね。
マリーは臨死体験が人生の転機となるし、
ジョージの救いようのない孤独もまた・・・。
これは結局、生死の狭間の物語なんかじゃなくて、
ちゃんと生きてる人のすばらしいドラマなんだよ。
人の感動のツボを知り尽くしているイーストウッド監督の勝利なんだなあ・・・。

「ヒア アフター」
2010年/アメリカ/129分
監督:クリント・イーストウッド
出演:マット・デイモン、ブライス・ダラス・ハワード、ジェイ・モーア、セシル・ドゥ・フランス