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「桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活」 奥泉光

2014年01月21日 | 本(ミステリ)
愛すべき、トホホな准教授

桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活
奥泉 光
文藝春秋


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地位も才能もないが、やる気もなく志も低い准教授・桑潟幸一、
通称クワコーを、毎月毎月、襲う怪事件。
何とかしないとヤバイじゃんクワコー、
と首をつっこむ文芸部の変人女子たちにいじられながら、
首吊り幽霊の謎ほか、春のキャンパスを騒がす3つの事件にクワコーが挑む。
芥川賞作家が贈る脱力+自虐のユーモア・ミステリ。


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クワコーこと桑潟幸一准教授。
千葉県権田市「たらちね国際大学」勤務。
40歳。独身。
給料月額手取り110,350円。
以前同じ著者の「モーダルな事象~桑潟幸一助教授のスタイリッシュな生活」にも登場しています。
それは私も読んだのですが、
かなり昔で私のブログ記事にもなっておらず、
中身も全然思い出せないという体たらく。
いやあ、残念・・・。
でも、本作はかなりユーモア性が前面に出ておりますが、
前作はそこまでではなかったような気がします・・・。
准教授ではなく、助教授というところが、時代を表していますね・・・。


さて、このクワコーですが、ほんとにトホホな男。
どう見ても間違って准教授になったとしか思えない
知識・教養のなさ、やる気のなさ。
小心。
・・・しかしですねえ、読んでいるうちに
あんまり情けなくて、逆に好きになってしまいます。
給料110,350円というのもあんまりなのですが、
彼は憤慨しながらも、しかし実は自分の働きに見合っているのでは?
などと思ったりする。
他で雇ってくれるところがあるはずない、とも思っているので、
地道にスーパーの見切り品や規格外の格安野菜を買い求め、自炊したりする。
それがまた、意外と器用そうで、美味しそうに思えたりするんですよね・・・。


大学では文芸部の顧問を引き受けることになり、
そこに出入りする部員たちがまた個性派揃いで笑ってしまいます。
さて、ここまで読んでもピンと来ないと思うのですが
奥泉光作品なので一応ミステリなのです。
本巻には3編が収録されていますが、
一作目はクワコーの研究室に4月にだけ起こる怪異。
さっそくクワコーも赴任早々、
4階の窓ガラスがノックされる音を聞いたり、おかしな笑い声が聞こえたり。
気の小さいクワコーなので、震え上がってしまいますが・・・。
この謎を解決するのがクワコーではなくて、文芸部員のジンジンこと神野仁美。
いつも黒ずくめの服を着て、口数少なく、
しかし声を発したかと思えばなんとも人を喰った礼儀知らずの発言。
しかしてその正体はなんとダンボール住まいのホームレス女子大生探偵!!
他の部員たちも礼儀知らずは同じこと、
教師を教師とも思わず、クワコーの研究室は彼女らの部室兼用。
・・・しかしですね、意外とみなクワコーの事が好きみたいなのです。
本作ではジンジンだけではなく皆にも幾度も窮地を救われるクワコーなのでした。
特に最近女子大から共学となったこのたらちね国際大学の黒一点の学生・モンジのセリフが
おかしくておかしくて、
「マジっすか、ちょーウケる、てか・・・」

傑作のオススメです。

「桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活」奥泉光 文春文庫
満足度★★★★★