映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「ストーナー」ジョン・ウィリアムズ

2019年01月01日 | 本(その他)

悲しみに満ちて美しい

ストーナー
東江 一紀
作品社

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半世紀前に刊行された小説が、いま、世界中に静かな熱狂を巻き起こしている。
名翻訳家が命を賭して最期に訳した、"完璧に美しい小説"。

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新年はじめにとびきり上質な作品をご紹介します!

「ストーナー」。
東江一紀さん訳、ということで手にとってみました。
まずこの本の来歴がちょっと変わっています、
この本がアメリカではじめて刊行されたのは約50年前の1965年。
一部の愛好家には支持されたけれども、
著者がこの世を去るとほとんど忘れ去られていたといいます。
ところが2006年にこの本が復刊されまして、
しかしやはりアメリカではさして売れなかった。
ところがフランスの人気作家がこの本を読んでいたく感激し、
2011年にフランスで翻訳版が刊行される。
そしてたちまちベストセラーとなりヨーロッパ各国でも翻訳出版される。
そしてまるで逆輸入のように最後に本国アメリカでもまたベストセラーになる、という具合です。
さらに日本で刊行されたのが2014年。
東江一紀さん、最後の翻訳本でもあります。

本作は、うだつの上がらない大学教授の人生を描く作品で、
派手な成功物語が好きなアメリカでははじめ受けなかったようなのですね。
でも、ヨーロッパの人はどうかよくわかりませんが
(いや、気に入ったから売れたのでしょうけれど)、
日本人ならきっと好きだと思います。


貧しい農家で生まれ育ったストーナーは、農業を学ぶために大学へ進学したのですが、
共通科目である「英文学」の授業で、生まれて初めての感動を体験します。
そこで彼は専攻を英文学に変え、その成績が認められて同大学で教鞭をとるに至る。
初恋の相手との結婚は、しかし成功だったとは言えず、
本人にその気がないのだから出世するわけもなく、
ひたすら英文学と学生たちに向かうだけの長い年月・・・。


地味です。
実に。
ですがストーナーの忍耐的かつ受動的な生き様の描かれ方は、
悲しみに満ちていてどこか美しい。
全然華々しくなんかないのに、
そこには誰とも違う一人の人間の生き様が凛としてあることに気がつくのです。
結局これは一人の大学教授の物語なんかではない。
私達一人ひとりの人生の物語でもあるのだと思います。

万人に通じる人生の悲しみの物語。
でも私は実はストーナーはとても幸福だったのではないかとも思う。
英文学の授業で教師が諳んじたシェークスピアの詩篇を聞き、
電撃に打たれたように感じるストーナー。
その時のことを後に彼は「言葉にならない感動を言葉によって得た。」と思います。
結局その自分の魂の底から求愛するものを職業として得て、
死ぬ間際まで貫き通す事ができた。
これ以上幸せなことがあるでしょうか。
そして、この本は訳者・東江一紀さんが、病床にありながら仕事を続け、
本当に残り1ページというところで息を引き取ったという最後の作品。
なんだかストーナーと重なり合うところがあって、一層切なく心に迫ります。
素晴らしい本でした。

図書館蔵書にて
「ストーナー」ジョン・ウィリアムズ 東江一紀訳 作品社
満足度★★★★★