おひとりさまの心意気
眩 (くらら) (新潮文庫) | |
朝井 まかて | |
新潮社 |
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あたしは絵師だ。
筆さえ握れば、どこでだって生きていける―。
北斎の娘・お栄は、偉大な父の背中を追い、絵の道を志す。
好きでもない夫との別れ、病に倒れた父の看病、厄介な甥の尻拭い、
そして兄弟子・善次郎へのままならぬ恋情。
日々に翻弄され、己の才に歯がゆさを覚えながらも、彼女は自分だけの光と影を見出していく。
「江戸のレンブラント」こと葛飾応為、絵に命を燃やした熱き生涯。
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葛飾北斎の娘、お栄については「百日紅(さるすべり)」のアニメで見ました。
それで、こちらは読まなくてもいいかなあ・・・などと思っていたのですが、
文庫本にはやはり手が伸びてしまいました。
「百日紅」は一時期のお栄さんが描かれていますが、
こちらは北斎とともに生きるお栄のほぼ一生が描かれます。
お栄さん、一度は結婚もしたのですが、すぐに別れて戻ってきてしまいました。
というのも、彼女は嫁いでも絵を描くことに一生懸命で、
家事など全くする気がなかったのです。
そんなことに文句をつける夫なんか知るもんか!とばかりに、
さっさと飛び出してきてしまった。
そうして幾人かのお弟子さんたちと共に、
北斎の絵を手伝ったり、自分の絵を描いたり・・・。
というわけで、「百日紅」でも描かれていた、
この時代では珍しい、自分の才覚で生きる独身女性の生き様の物語になります。
今、彼女が注目されるのも、こうした生き方に共感する人が多いからなのでしょう。
北斎は当時でも有名な絵師なのですが、
いつも借金を抱え、ギリギリの生活をしていたようなのです。
というのも、彼の孫、お栄にとっては甥の時太郎というのが
とんでもない悪ガキで、手に負えず、奉公に出してもそこを飛び出してしまって、
悪い仲間と付き合い始めた・・・。
博打などでお金をスッては「北斎」の名を出して借金をする。
その借金取りがいつも北斎のところに押しかけて有り金を持っていってしまう・・・と
そのようなことだったらしいです。
まあそれにしても、とにかく絵を描く環境だけがあれば良くて、
贅沢をしたいなどと全く思わない北斎父娘なのですが。
ずっと独身とは言っても、お栄にも想い人がいないというわけではありません。
会えばつい減らず口を叩いてしまうけれど、
いつもお栄を励まそうとしてくれる善次郎に実は心が動いている・・・。
だけれども彼にはちゃんとした相手がいたりして・・・・。
後には何年も顔を合わせなかったりする人ではありますが、
その人が亡くなったと聞いたときのお栄。
そして、父として、師匠として敬愛する北斎を見送ったお栄・・・。
独り身でこういうときの思いはいかばかりかと、
こちらまで切なくポッカリと胸に穴が空いたような心地がしてしまいました。
・・・だけれども、それでもやはり彼女は筆を執り、絵を描く。
おひとりさまの心意気!!
「眩 (くらら)」朝井まかて 新潮文庫
満足度★★★★☆