喪失感・空虚感が埋められていくマジック
海の見える理髪店 | |
荻原 浩 | |
集英社 |
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伝えられなかった言葉。
忘れられない後悔。
もしも「あの時」に戻ることができたら…。
母と娘、夫と妻、父と息子。
近くて遠く、永遠のようで儚い家族の日々を描く物語六編。
誰の人生にも必ず訪れる、喪失の痛みとその先に灯る小さな光が胸に染みる家族小説集。
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直木賞受賞作品。
家族の物語、短編集です。
長く会わなかった父と息子、
喧嘩別れした母を尋ねる娘、
家出した主婦、
親に構われない子供、
父をなくした男の思い、
娘を亡くした夫婦・・・
それぞれの喪失感・空虚感が埋められていくマジックを私達は見ることになります。
それはほんのささやかで、取るに足らない出来事かもしれないけれど・・・
私達が光を見出すにはそんなささやかなことでも十分。
逆に何人もの励ましの言葉が全然響かないことだってありますね。
そんな心の不思議を見せてくれる作品集です。
巻頭の「海の見える理髪店」
海辺の小さな理髪店を初めて訪れた青年。
店主は高齢だが背筋はしゃっきり伸びている。
丁寧な作業の間、普段はこんな話はしないのだが・・・と、
ことわりを入れながらも店主は自分の人生を語り始めて・・・。
思いがけずに波乱含みの人生。
そしてその話が収束する様が心地よい。
なるほど・・・。
巻末「成人式」
15歳という若い一人娘を事故で亡くした夫婦。
虚しく過ぎ行く日々。
娘の小さい頃のビデオは悲しみを呼び起こすだけなので、
夫婦間では見ない約束になっている。
娘が亡くなって5年。
そんなとき、成人式の着物の案内カタログが舞い込む。
どこかの古い名簿がそのままになっていたらしい・・・。
娘が生きていれば二十歳。
ますます気落ちしてしまう夫婦なのでしたが、妻がふとあることを思いつきます。
それは意表を突くバカげたことなのかもしれないけれど、
人に笑われてもやり抜いて、
娘のことで悲しみ前へ進めない自分たちの一区切りにしようという
その思い切りがなんだかいいじゃないですか!
かつての娘の同級生たちの応援もよし。
図書館蔵書にて
「海の見える理髪店」 荻原浩 集英社
満足度★★★★.5