映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

家(うち)へ帰ろう

2019年01月18日 | 映画(あ行)

帰るべき場所

* * * * * * * * * *

アルゼンチン。
ホロコーストを生き抜いたユダヤ人、88歳のアブラハムを
娘たちが高齢者用の施設に入れようとしています。
アブラハムは自分が仕立てたある一着のスーツをみて、故国ポーランドへの旅を思い立ちます。
娘たちにも内緒で、大きなスーツケースと一着のスーツを持ち、
痛めた足を引きずりながら、一人で空港へ。
彼は過去に受けた苦しみのために「ポーランド」も「ドイツ」も口に出すのも嫌で、
ましてやドイツには一歩たりとも足を踏み入れたくない。
そんな老人のアルゼンチン~スペイン(マドリード)
~フランス(パリ)~ポーランド(ワルシャワ)
そして故郷の地へのロードムービーです。

いかにも頑固で偏屈な爺さんなんですよ、アブラハム。
そんな彼が歩くだけでも大変そうで、見ていてもハラハラしてしまうのですが、
各地でいろいろと彼に手を差し伸べる人物が現れるのです。
彼自身は人の手なんか借りたくない、というスタンスですが、
どこにでもちょっとだけおせっかいな人もいるもので。
それも決して押し付けがましくなく、いい感じなのです。
70年前、飛び出したきり戻ったことがなかったポーランドに果たして誰が待っているのか。
ラストの感動はお約束します!

本作中ではユダヤ人収容所の悲惨な様子は描写されません。
両親と愛する妹の死のことがアブラハムから語られるだけ。
でもそれだけ十分です。
懐かしいはずの生まれ育った故郷へも一度も帰らなかったという
アブラハムの心の傷は十分に汲み取れるのです。



けれど叔母を頼ってアルゼンチンに渡り、彼はそこで仕事をし結婚して家族ができ、
今は多くの孫たちに囲まれるようになった。
人間って案外強いですよね。
人の生きる力を馬鹿にしてはいけない。
けれど、そろそろ自分の先行きが見えてきたアブラハムは、
長く忌み嫌ってきた故郷の地に帰ろうと思う。
帰りのチケットなしで彼は旅立ちます。
何があっても故郷というのは特別なのだと思います。
70年過ごした地よりもなお、そこが帰るべき家(うち)と思える場所。


私も、こんな雪などない温かいところに移住したいなあ・・・と思うことはあっても、
決して本気にはなれない。
若いうちならともかく、歳を重ねるとそうなります。

素晴らしい感動作。
オススメです!

<シアターキノにて>
「家(うち)に帰ろう」
2017年/スペイン・アルゼンチン/93分
監督:パブロ・ソラリス
出演:ミゲル・アンヘル・ソラ、アンヘラ・モリーナ、オルガ・ボラズ、ユリア・ベアホルト、マルティン・ピロヤンスキー
お助け度★★★★★
満足度★★★★★