プロの選手には“物語”が必要だ
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スティグマータ |
近藤 史恵 | |
新潮社 |
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ドーピングの発覚で失墜した世界的英雄が、突然ツール・ド・フランスに復帰した。
彼の真意が見えないまま、レースは不穏な展開へ。
選手をつけ狙う影、強豪同士の密約、そして甦る過去の忌まわしい記憶…。
新たな興奮と感動が待ち受ける3000kmの人間ドラマ、開幕!
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近藤史恵さんの自転車ロードレースのシリーズ。
語り手はスペイン・フランス・ポルトガル等欧州のロードレースチームを渡り歩いている名アシスト白石誓。
アシストというのは、エースの前を走ってエースの体力温存を図ったり、
団体の前に飛び出して他チームのペースを崩したり、
結果、自分が最下位となっても、チームのために尽くせばそれでよいという立場。
エースではなくアシストというこのポジションが、味があっていいですよねー。
仕事人という感じがする。
さて本作は、白石がドーピングの発覚で失墜した世界的英雄・メネンコからある依頼を受けます。
自分はある人物から恨みを受けているので、
ツール・ド・フランスの競技中、それとなくその人物の様子に気をつけていてほしいというのです。
白石にとってメネンコは、ずっと憧れてきたスーパースター。
しかし、ドーピング使用が発覚し名誉も地位も何もかも失ったメネンコは
5年のブランクの後、またレースに出場するというのです。
地に落ちたチャンピオンで、そしてこんな依頼をしてくる彼に対して、
白石は複雑で割り切れない思いに囚われてしまいます。
しかし、そんな気持ちにかかわらず、3週間もの長く険しいレースが始まる・・・!
ある人がプロの選手には「物語」が必要だといいます。
様々な苦労を経て、成功へたどり着くとか、
恵まれた環境で若くして栄光を抱いたけれどその後、芽が出なくてさんざん苦労するとかいうストーリー。
ではこの落ちた偶像であるメネンコが描こうとしているストーリーは・・・?
・・・というところがキモです。
白石はやはり好きだな~。
今後もまた彼を主役にした物語が読みたいです!
図書館蔵書にて
「スティグマータ」近藤史恵 新潮社
満足度★★★★☆