映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「海街diary1 蝉時雨のやむ頃」吉田秋生

2007年05月06日 | コミックス

「海街diary1 蝉時雨のやむ頃」 吉田秋生 小学館フラワーコミックス

待ってました。吉田秋生の新シリーズ。
舞台は鎌倉。
これは、ここのところ続いた超人的頭脳・身体的能力とか、どこかの組織の陰謀とか、マシンガンやら、カンフーやらは、一切なしです!
リアルな日常の風景なんですね。
「ラヴァーズ・キス」などでわかるように、なにも「バナナフィッシュ」とか、「YASHA]のような物語が彼女の本領というわけではないですよね。
鎌倉の古い家に住む4人の姉妹の物語ですが、短編の連作によって、一人一人の内面が浮き出されてきます。

始めの一作が、この本のタイトルの「蝉時雨のやむ頃」。
もともとは、3人姉妹で暮らしていたのですが、そこに届いた父親の訃報。
父は、まだ3人が小さい頃に家を出て、別の女性と結婚していた。
そこでも、娘すずが生まれていたのだけれど、妻は亡くなっていて、父はまた別の女性と結婚していた、と。
ややこしい話なんですが、つまり、その異母姉妹に当たる子、すずは、この度実の父を亡くし、血のつながらない義理の母と、その連れ子の子供たちという家庭に取り残されたという状況になっていました。
3姉妹とは葬儀で初めて顔を合わせたのです。

3姉妹にとってはもともと、ろくに記憶にもなく、父親という実感のない男性。
まだ中学生のすずは、気丈にも、唯一の血縁という立場で、病身の父を支え,また,見送ることになった。誰にもその辛さをわかってもらえず、一人で耐えていた。
ラストではこの4人の父親への想いが重なり合い、姉妹の絆が生まれます。
そして、3姉妹は、すずを鎌倉に呼んで、家族として、一緒に暮らすことになるのです。
この4人同居の顛末を語る重要な一作ではありますが、それぞれの個性も十分に紹介されており、まさにトップを飾るに足る一作。すずが、3人の前で、これまでこらえていた堰が切れたように号泣するシーンが、見開きのページにあり、ここは、思わず、もらい泣きします。迫力ある描写です。

このように、結構内容はシリアスなのですが、この登場人物たちの日常の会話が生活観あふれ、イキイキしていて、楽しい。
「大吟醸 熊うっちゃり」 って、私も飲んでみたい!(大吟醸にこのネーミングとは、何と大胆な!!)


長女 幸(さち):皆からは、シャチネエと呼ばれる。看護師。皆を取りまとめるしっかりもの。
次女 佳乃:信金勤め。オトコ運悪し。酒癖が悪い。
三女 千佳:スポーツ店店員。3人の中では一番自由奔放のようだけれど・・・、まだ、よくわかりません。
そして、新しい末の妹 すず:中学生。前の家ではオトナを演じなければならなかったけれど、ここでは少しほっとしている。でも、基本的にしっかりしている子。サッカーチームに入団。

さて、この4人が今後どんなストーリーを紡ぎ出すのでしょう。
多分、これが彼女の代表作になることを確信しています。
続きが楽しみです。


「黄昏の百合の骨」恩田 陸

2007年05月05日 | 本(ミステリ)

「黄昏は百合の骨」恩田 陸  講談社文庫

これは、「3月は深き紅の渕を」と、「麦の海に沈む果実」とあわせて、3部作になっているようですが。
う~む、その2作は読んだはずだけど、ずいぶん前のことなんで、ほとんど覚えていないんですが。えーと、「麦の・・・」が、ムードが萩尾望都のトーマの心臓とかのイメージにすごく近いなあ、と思った記憶がありますね。
じゃー、前作はハードカバーで読んだんですね!。
そういえば、そういうことです。この本の装丁が、ムードがあってステキなんですよ。最近は文庫専門。これはまあ、経済的都合というものです。新刊が出ても、文庫になるまで、待とうと。
本作は、日本が舞台なんで、ちょっと違う感じですか?
トーマとはちがうけれど、作品のかもし出す雰囲気は3部作やはり同じなのではないかと。
「百合」が題名にありますが、その、孤高で、薫り高い百合のイメージ、ぴったりですね。
古い洋館になぜかいつも百合の花が絶えず活けられている。その謎も、最後にあかされます。
基本的には、この本一冊だけでも、ストーリーは楽しめますね。
はい。ちょっと、歯がゆいところもありますが大丈夫。
祖母が亡くなって、主人公、高校生の理瀬が長崎の坂の上の洋館に帰ってくる。
そこに同居している美貌の叔母2人。
しかし、どうも何か隠しているような、探っているような、気を許せない雰囲気がある。
近所の人たちにはその館は「魔女の家」と呼ばれている。この館に隠された秘密とは・・・!
なるほど、ちょっとミステリアスな雰囲気の物語なんですね。まあ、恩田陸ですから、当然ですが。
そうですね。この、叔母さんたちも怖いですが、私はかわいくて無邪気に見える、理瀬の友人のほうが怖かったですよ・・・。
女性作家は、本気で、女の醜いところ、怖いところも描きますからね・・・。
そして、登場する少年たちは、なかなか美形。ふっふっふ。
あ、結局そこに落ちますか。
いいじゃないですか。それも楽しみの一つなんだから。
物置さがして、前記の作、読みますかね~。


ハンニバル・ライジング

2007年05月03日 | 映画(は行)

えー、こういうのは、なるべく見ないことにしたいと思いつつ、つい見に行ってしまった。
怖いもの見たさ、ということですね。まあ、だからこそこういう映画も成り立つ。
意外と、若い男性ばかりじゃなくて、女の子や、私みたいなオバサンも、観ていました。
で、どうなんです?
それがね、ウン、確かにハンニバル・レクターは、必要以上に残虐だし、カニバリズムだし・・・、でも何というか、感情移入しちゃいましてね、彼が襲われるようなシーンでは、つい、応援しちゃいますよ。
それはやはり、今回明かされる彼の生い立ちのせいなんですかね。
それは多分にあります。少年のハンニバルはリトアニアの裕福な家の子なんですけどね。二次大戦下、ドイツ侵攻、それに対抗してソ連軍が入り込んでくる。そんなドサクサで、彼は両親・妹をなくしてしまう。特に妹は、脱走兵の集団に殺されてしまい、彼にとっては強烈なトラウマとなる。その後、彼は元自分の屋敷であったところを改装した孤児院で、成長。
これで、まともに育つほうがムリ・・・と。
うん、それにね、美しい青年なんですよ。ハンニバルが・・・。
何だ、感情移入の原因って、むしろそれ?
否定できません!
お定まりながら、孤児院でも虐待を受けた、と。
はい。それで、とうとうある晩脱走して、唯一の身内の伯父さんが居るフランスに行く。そこで、伯父さんは亡くなっていたのだけれど、その妻が孤独に暮らしていた。
ほう、それが、コン・リーなんですね。あの、「SAYURI」に出ていた。
はい、日本人で、その名もレディ・ムラサキ。なんで、夫亡き後日本にも帰らず、こんなところで1人で暮らしていたかというと、彼女も、身内はヒロシマでみな亡くなっていた、という設定でした。
どこまでも、戦争の影・・・ってところですね。
まあ、日本人からするとやはり、ちょっと変なんですよ。鎧の前で、先祖へお祈りしてたりして。
仏壇なら、わかるけどねえ。
ただ、欧米人からすると、たぶんにミステリアスで、エキゾチック。その雰囲気はたっぷり出ていましたねえ。
で、ハンニバルは彼女に剣術を習ったりして強くなるのだ!いいですよー。美しい青年に日本刀!
なるほど、そこで、すっかり感情移入ね。
そこからははっきり言って、必殺仕事人です!
ほえ?
彼の妹を殺した兵たちを探し出して、復讐を遂げるのです。一人、また一人・・・、残虐に。
なるほど、そのような動機がある故に、さほどまで憎めないということね。
たぶん、そういうことかなあ。だから、結局、意外とイヤではなかった・・・と。
ところで、この監督は、「真珠の耳飾りの少女」の監督なんですってね。
えっ!。そうなの?何でまた、あのような芸術性をすら感じる作品の監督が、こんな映画の監督を?
さあ、なぜでしょう・・・。色んなジャンルに挑戦してみたかったんでしょうね・・・、多分。ハンニバル役のギャスパー・ウリエルは、フランス人で、「ロング・エンゲージメント」に出ていた。
うそー。見たけど、全然覚えてなかった。
「美しい青年」なのに?
オドレイ・トゥトゥーばっかり見てたかも。
でー、このギャスパー・ウリエルが30年後にはアンソニー・ホプキンスみたいになるデスか?
なりませんって!!


2007年/フランス=イギリス=アメリカ/117分
監督:ピーター・ウェーバー
出演:ギャスパー・ウリエル、コン・リー

ハンニバル・ライジング
ハンニバル・ライジング スタンダード・エディション [DVD]
ギャスパー・ウリエル,コン・リー,リス・エヴァンス,ケビン・マクキッド,ドミニク・ウェスト
GENEON ENTERTAINMENT,INC(PLC)(D)

サイダー・ハウス・ルール

2007年05月01日 | 映画(さ行)

この作品にはちょっと思い入れがありまして。
というのは、
7年ほど前、ぼちぼち映画を見始めて、ただ、忘れてしまうのはもったいないと思い、記録を付け始めました。
その動機となった映画なのです。
今回、DVDで見直しまして、結構覚えてるシーンもあったのですが、それでもなお、多分、初めて見たときよりも感動したと思う。
トビー・マグワイヤは、今や、すっかりスパイダーマンで、人気となってしまいましたが、私はやはりこのような作品が彼の本領だと思います。

ラッセ・ハルストレム監督は、いつも家族とか、家がテーマのことが多いですよね。
ここでは、ホーマーの家は、孤児院。
まあ、普通の様々なストーリーでは孤児院は「家」にはなりえないのですが、この作品では、まさに、こここそが彼の家族の居る家なのです。
それは、彼がここを出るときのみんなの気落ちした様子、出てからも、彼を気遣う様子で如実に現れている。
でも、まず、子供は自立しなければなりません。
温かい家族の下を離れて、自分のルールで、自分の足で歩き始めなければならない。
だから、ホーマーにとっては、まず、自分の家を出ることが必要でした。
サイダーハウス・ルール、この題名の意味するところは、人に押し付けられたルールでなく、自分自身のルールでで考え、決めること、というこの映画のテーマそのものになっています。

外の世界は、彼自身にとってはさほど過酷というものではない。
黒人の季節労働者とともにりんごのジュースを作る仕事に付く。
そして、ある女性との恋。
彼女のフィアンセは戦争に行っていていない。
罪悪感に駆られながらも、愛し合う2人。
しかし、フィアンセが半身不随となって帰ってくることになった。
どうすればいい・・・。
このまま、成り行きを見ましょう・・・、彼女は言う。
けれども、何もしないで待っていても、問題を先延ばしにするだけ。
それは、彼自身、自分の将来を真剣に考えることを、成り行きに任せて先延ばしにしていた、そのことと同じだと、ここで気づくのです。
別れ、そして、自分の居るべき家への帰還。
そこで、医師となり、孤児たちの父として生きることを選択した結果でした。

孤児,望まれない子供,堕胎,近親相姦,戦争…。
この映画には悲惨な状況があふれるほど描かれています。
人の死すらも一人ではすみません。
けれど、その根底に、これらを見つめるなんともいえず優しい視点が感じられ、生きる事はそう悪くはないという気がしてきます。
まさに、名作。

1999年/アメリカ/126分

監督:ラッセ・ハルストレム
出演:トビー・マグワイヤ、シャーリーズ・セロン、デルロイ・リンド、ポール・ラッド

サイダー・ハウス・ルール
サイダーハウス・ルール [DVD]
ジョン・アーヴィング,ジョン・アーヴィング
角川映画