映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「図書館革命」 有川 浩 

2007年12月06日 | 本(その他)

「図書館革命」 有川 浩 メディアワークス

有川 浩の図書館シリーズ4巻目。
これが最終巻ということですね。
・・・となればラストは絶対、ムフフということになると想像はつきます・・・。

そもそも、近未来小説。
公序良俗を乱し人権を侵害する表現を取り締まる法律として「メディア良化法」が制定される。
しかしそれが次第に過激化し、超法規的検閲が始まる。
それに対抗し図書館は図書隊を設立。
武装して「狩られる本」を守っている。
こんな背景の中でのストーリーです。

主人公笠原郁は、女子としては卓越した運動能力を認められ、図書特殊部隊(ライブラリー・タスク・フォース)に配属される、
・・・と。基本的にはこのように、思い切りハードなストーリーなのですが・・・。

彼女の教官は、やたら厳しい堂上。
”どじでのろまな亀”みたいな新入り女子(笠原は、のろまではないですけどね。)と、”オニ教官”、
ということで、なんだか既視感のある設定。
・・・そうなんです、この設定でなぜ?と思ってしまうのですが、なぜか思いっきりラブコメ。
でも結局そこが魅力で、いつの間にやら4巻もハードカバーの新刊でお付き合いしてしまったのですが。

「塩の街」でも感じたのですが、彼女の描く男女関係はとにかく甘い!!!
どこかむずむずとしてくる位、セリフのやり取りが口は悪いくせに甘い。
なぜか女心のつぼを刺激する会話の数々。
もう、やめられません。
きっとこれを読んでいる時の私はニマニマ、みっともなくもにやけた顔をしている。
こっそり読まなくては・・・。

この本では、やはり最終巻ということで、この忌まわしい近未来も、わずか、是正の兆しが見える方向で終わるんですね。
その、大きなきっかけに笠原郁が絡むことになる。
おお、そこまで彼女が成長するとは、思っていなかった。
えらいぞ、笠原。

この本の登場人物紹介文がまた傑作。
熱血バカ(笠原郁)、
怒れるチビ(堂上)、
笑う正論(小牧)、
頑な少年(手塚)、etc…。
TVアニメ化決定だそうで、この話。
確かに、アニメにぴったりだと思います。

最後に、今回のとっておきの郁のセリフ。
「あたし、帰ってきたらカミツレ返して、堂上教官に好きって言いますから!
だから、絶対元気になってください!
元気にならなかったら許さない!」

・・・って、おい、言っちゃってるよ~。

満足度★★★★★


ディセンバー・ボーイズ

2007年12月04日 | 映画(た行)

12月の少年たち。
これで普通は、冬を思い浮かべるわけですが、この物語の舞台はオーストラリア。
したがってこれは夏なのです。
語り手は、お年を召したと思われる男性。
彼が、忘れられない少年時代のひと夏の出来事を語っていきます。
少年時代を夏休みと共に思い浮かべる人は多いですね。
あの、井上陽水の甘く切ないメロディーも、そのものずばり。
少年時代が人生の夏だとすると、私たちはその後ずいぶん長い秋と冬を過ごすんだなあ・・・。

さて、ここに登場する4人の少年たちは孤児。
孤児院で生活しているのですが、ある夏、12月生まれのこの4人が、元海軍将校の海辺の家で過ごすことを許されます。
語り手のミスティーは、ちょっぴり弱虫の少年。
この中ではみそっかす的存在ですが、なかなか頭がよくて、ちゃっかりしている。

また、少年というよりは青年期に差しかかっているマップスをダニエル・ラドクリフが演じています。
そう、あのハリー・ポッターですね。
ここでは腕白3人のお兄さん的存在で、ハリー・ポッターとはぜんぜん違うイメージ。初恋に揺れ動く瑞々しい思春期を好演しています。


夏休み、光り輝く海、孤児院から離れた開放感、
・・・なんて美しい情景。
海岸や海を見下ろす丘を、駆け回る彼らの映像にしばし見とれてしまいます。

やがて彼らは子供に恵まれない夫婦と知り合うのですが、
どうも、彼らは養子をもらうことにするらしい。
この4人のうちの誰かを・・・。
自分だけに注がれる愛。家庭。
そうしたものに飢えた彼らには願ってもないこと。
少しでも、自分をよく見せたいと、アピールする彼らの姿は微笑ましい。

でも少しずつ、美しい自然の中でのんびり幸せそうに暮らすその地の人々にも、
それぞれの抱えている悩み、苦しみがあるのだということを彼らは理解していきます。
楽しく、開放的なひと夏のうちにも、大人へのステップを確実に踏んでゆく少年たち。

さて、結局誰が養子に選ばれるのでしょうか・・・。


この映画のラストは、それから50年ほどを隔てた現代。
この思い出の地に3人の老人が再び集まりました。
残念ながら、一人が欠けている。
だからこそ残りの3人が集まることになったのですが。
忘れられない彼らの「夏」を偲びます。

ノスタルジーについ浸ってしまいます。
それは、ここに再び集まった老人たちだけではなく、
誰もが心の奥底のポケットにしまいこんだ「夏休み」を
持っているからかもしれません。


2007年/アメリカ/105分
監督:ロッド・ハーディー
出演:ダニエル・ラドクリフ、クリスチャン・バイヤーズ、リー・コーミー、ジェームズ・フレイザー

「ディセンバー・ボーイズ」公式サイト


「探偵ガリレオ」 東野圭吾

2007年12月02日 | 本(ミステリ)

「探偵ガリレオ」東野圭吾 文春文庫

テレビドラマでおなじみの「ガリレオ」です。
今、大変ヒットしているようですが、なるほど、本を読むと、テレビ向け脚色のからくりがよく見えるところも、またなかなか興味深いですね。
つまり、頻繁に湯川助教授に捜査のヒントを授かりに通う刑事、柴咲コウは、原作では男性、草薙俊平。
テレビドラマとしては確かに、これではあまりにも花がない。
しかも月9ですもんね。
それと驚くのは、巻末の解説で作者東野圭吾は、俳優佐野史郎をイメージして湯川学を描いている、とある。
ひゃー、福山雅治でよかった・・・。
いえ、佐野史郎が悪いわけじゃない。
それはそれで面白いと思いつつ、
このテレビドラマは主演がこの二人だからこそのヒットであると、それは誰しも認めるのではないでしょうか。


さて、テレビのほうは、ここで忘れるとしまして、
ここではさまざまな不可思議な事件が登場。

突然燃え上がった若者の頭。
心臓だけ腐った男の死体。
池に浮かんだデスマスク。
幽体離脱した少年・・・。

帝都大学理工学部物理学科助教授、湯川学は、最先端の科学知識と、柔軟な思考、鋭いインスピレーションで謎を解いていきます。

私は未だに、物理と聞いただけでジンマシンが出る。
だから、理数系が得意という人は、それだけで尊敬してしまうのです。
実は驚嘆すべきは、湯川学でなく、これらの謎を次から次へと作り出している、作者東野圭吾であるというべきでしょう。

さすが大御所、人物描写もうまくて、物理学者なんて言葉からイメージすると、四角張った堅苦しいイメージを抱きがちだけれども、
結構茶目っ気があり、草薙刑事をからかったり、いつも薄汚れたマグカップにインスタントコーヒーだったり、ちょっとした生活観が漂うあたりも、なんだか親しみ深いわけです。

さて、では2冊目にとりかかりましょうか・・・。

満足度★★★★

 


遠い空の向こうに

2007年12月01日 | 映画(た行)

(DVD)
ホーマー・H・ヒッカムJr.自伝小説「ロケット・ボーイズ」の映画化です。

時は1957年。
ソ連により初の人工衛星スプートニクの打ち上げが成功しました。
アメリカ、ウィスト・ヴァージニア州コールウッドという炭鉱町に住む高校生、ホーマー。
彼は町の人々と共に、その人工衛星が夜空を横切っていくのを見上げました。
ホーマーはその美しさに感動します。
男はみなそこで炭鉱マンになることが決まっているかのようなその町で、
彼は、宇宙に夢を馳せたのです。
同じ高校の友人3名と共に「ロケットボーイズ」を結成。
まずは、ロケットの打ち上げを果たそうとするのですが・・・。
数々の失敗。
周囲の人も、馬鹿にして取り合ってくれない。
真っ先に父が反対。
ホーマーの父ジョンは、炭鉱でも責任ある立場にあり、町の人の信頼も厚く、仕事に誇りを持っています。
それなのに、現実に足のつかない宇宙。ロケット。まったく理解できない!!、
・・・ということで反発しあう父子。

花火ではなくロケットですから、必要なのは正しい理論と技術。
炭鉱に働く人たちから、溶接を習ったり、鉄の技術を学んだり。
また、それまで、数学など大嫌いだったホーマーが必死に勉強を始め、ロケットに関する専門書も読み漁ります。
そんな真剣な様子に、周囲も次第に応援を始める。


その当時の時代色が鮮明に切り取られているように思いました。
石炭産業は、日本でもそうですが、経済を支える大きな役割を果たしていました。
でも、炭鉱で働くことはつらくまた、危険でもありました。
そして、資源も枯渇に向かい、ストライキなど、労働運動の拠点ともなっていく。
炭鉱にもやや、疲弊感が漂いだしている時期。

この炭鉱で一生を終えるのか・・・。
他の生き方は許されないのか。
そんな閉塞感が余計に若者の外の世界への夢をかき立てるのです。

父が炭鉱の事故で負傷。
それだけで、もう家族の生活にも困ってしまう。
劣悪な労働条件・・・。
やむなく、ホーマーは嫌がっていた炭鉱で父の変わりに働き始めますが・・・。
彼をはじめから応援してくれた教師ミス・ライリーの言葉で夢をまた取り戻し、活動を再開。

ジェイク・ギレンホールがさすがに若く瑞々しく、夢を負う青年を際立たせています。父親との微妙な距離感もいい。

夜空を横切る輝く人工衛星のように、私にとっては「珠玉」の一作となりました。

1999/アメリカ/108分
監督:ジョー・ジョンストン
出演:ジェイク・ギレンホール、クリス・クーパー、ローラ・ダーン、クリス・オーウェン