映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

追憶

2017年05月14日 | 映画(た行)
それぞれの人生



* * * * * * * * * *

一つの事件に関わる被害者・刑事・容疑者が、幼馴染の3人
・・・という設定で、「ミスティック・リバー」を思い出しました。
その昔の、少年時代にとある事件があって、
その時からこの3人は無邪気な子どもではいられなくなってしまっている、という設定は同じ。
その後の彼らの人生に大きな影を落とすことになるのです。



本作、私は犯人探しのミステリ作品かと思ったのですが、
そうではなくて、人間ドラマですね。
親と子、憎しみ合っても断ち難く、また時には血のつながりがなくても強い絆で結ばれたりもする
不可思議なもの。
そんな絡み合った心を映し出します。



1992年。
親に見捨てられた3人の少年、篤・悟・啓太が、
軽食喫茶を営む仁科涼子(安藤サクラ)と山形光男(吉岡秀隆)のもとで
家族のように暮らしていました。
彼らにとっては最良の時。
ところがあるきっかけで幸せな日々は終りを迎えます。
心の奥に秘密を抱えたまま、彼らはばらばらになり、
会うこともなく25年が過ぎ・・・。
刑事になった篤(岡田准一)は、偶然に悟(柄本佑)と再会します。
ところがその翌日、悟は刺殺体となって発見されるのです。
警察が捜査を進める上で、
啓太(小栗旬)が容疑者として上がりますが・・・。



焦点となるべき感情の盛り上がりにやや欠けるのが物足りない感じ。
事件の真相は意外にあっけないもので、
でも、安田顕さん演じる刑事の優秀さに拍手!!でした。
だから本作はそういう犯人探しの物語ではない。
むしろ“あの時”以降、涼子がどのように生きてきたのかが、
一番胸を打つストーリーのように思うのですが、
そこの部分があっさりしすぎていたように思います。
やり方次第ではもっと盛り上がったかも。
でもまあ、そこまであざとくしないという方針だったのでもありましょう。
岡田准一さんの絶叫調のセリフが少し気になるのですが、
でも全部ではないので納得できる範囲。
このあとの篤が、妻や母親との関係をいくらか修復していくのではないかと、
そんな気持ちにさせられるラストはいい。






「追憶」
2017年/日本/99分
監督:降旗康男
出演:岡田准一、小栗旬、柄本佑、長澤まさみ、木村文乃、安藤サクラ、吉岡秀隆
ミステリ度★★☆☆☆
それぞれの人生度★★★★☆
満足度★★★.5

溺れるナイフ

2017年05月13日 | 映画(あ行)
青くて苦くて固くて尖っていて・・・



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コミックの映画化、ということで、
胸キュン的学園モノのラブコメかと思えば、さにあらず。
青く苦みのある作品です。



東京で雑誌モデルをしていた少女・夏芽(小松菜奈)。
父が実家の旅館を次ぐことになったため、
父の故郷の田舎町・浮雲町に越してきます。
田舎町の退屈さにうんざりしていた夏芽ですが、
コウ(菅田将暉)という少年と海岸で運命的な出会いをします。
コウは地元一体を取り仕切る神主一族の跡取り息子。
気まぐれで傍若無人、金髪。
いつも冷めた目をしている彼に何故か惹かれてしまう夏芽。
一方コウもまた、この町では異質な、
モデルとしてのオーラを放つ夏芽に惹かれていくのでした。
二人はともにいるとどこへでも行けそうな、なんでもできそうな高揚感に包まれます。





しかし、この町の一大行事である火祭の夜に、予期せぬ事件が起こります。
そのできごとで夏芽もコウもすっかり傷つき、
自信を失い、絆は途切れてしまいますが・・・




いやはや、オバサンとしてはこの少女も、少年も、
怖くて近寄りがたく感じてしまうのでありますが、
でも、若さゆえの硬質、ナイフのようにするどく尖った感性は、わからなくもありません。
運命的に魂が惹きつけられ呼び寄せ合う・・・
そんなこともあるもんだよねえ・・・。
そして二人が陥っていく闇もまた、若さゆえなのでしょう。
これがいい年した大人なら、ここまでは深刻にならないか。



・・・というふうに、オバサンをも納得させてしまう力が本作にはあるような気がします。
若さって青くて苦くて固くて尖っていて・・・
だけども美しいなあ、と。


「溺れるナイフ」
2016年/日本/111分
監督:山戸結希
原作:ジョージ朝倉
出演:小松菜奈、菅田将暉、重岡大毅、上白石萌音

青春度★★★★★
満足度★★★.5


「信長協奏曲15」石井あけみ

2017年05月12日 | コミックス
ますます先が読めない

信長協奏曲(15) (ゲッサン少年サンデーコミックス)
石井あゆみ
小学館


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主君のため…竹中半兵衛決死行!

荒木村重謀反!!
反織田勢の機運が高まる中国方面の戦況を
裏で操るは、将軍・足利義昭。
そんな義昭と秀吉を結ぶ意外なきっかけは…!?
片や、秀吉に疑いの目を向ける竹中半兵衛の元に
とある情報が転がり込み…!
戦国に、思惑錯綜する第15巻!!


* * * * * * * * * *

いよいよ、ときが迫ってきた感じの第15巻。
竹中半兵衛が、亡くなります。
それも病床にて、ということではなくて・・・。
竹中半兵衛、そして荒木村重の謀反とくれば、
ここにはぜひ黒田官兵衛に触れてほしいところなのですが、
残念ですが本作中では全く触れられていません。
人質の官兵衛の息子を殺すようにと信長が命じるようなシーンは、
確かにこの物語にはそぐわないか・・・。


しかし、本巻を見るとますますわからなくなってきます。
本作の明智光秀=ホンモノの信長は、
あくまでもサブロー信長を守ろうとしているように見受けられます。
とすれば、本能寺の変で信長を襲うのは一体誰?
やがて天下を取る野望に燃える秀吉は、
結局私たちの知っているとおりの動きしかしない。
あ、ここでの石田三成と秀吉との関係のはじまりのシーンもなかなか興味深いですが。


いや、そもそもこのストーリーはやっぱり、
信長の死で終わってしまうのでしょうか?
その後の秀吉の死辺りまで連載を続けてほしいと思ったりして・・・。
そう、「秀吉狂詩曲(ラプソディ)」に変えて・・・。
待たれる次巻。

「信長協奏曲15」石井あけみ ゲッサン少年サンデーコミックス
満足度★★★.5



サハラに舞う羽根

2017年05月11日 | 映画(さ行)
ワイルドなヒース・レジャーも良し



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先日ヒース・レジャー出演作を見て、また見たくなってしまいました。
本作も以前に見たことはありますが、ブログ開始以前なので、再視聴。
1884年、イギリス。
ビクトリア朝ですね。
大英帝国が地球上の約1/4を支配していた、そんな時期。


将軍の父に期待されるまま、軍人となったハリー(ヒース・レジャー)は、
エリート士官として、美しい婚約者エスネ(ケイト・ハドソン)や、
信頼できる友人ジャック(ウェス・ベントリー)らに囲まれ、
輝かしい未来を約束されていました。
そんな時、英植民地の一つ、スーダンで反乱が起こり、
鎮圧のため軍が派遣されることになりました。
血気にはやる友人たちは出兵に勇み立ちますが、ハリーは除隊届を提出したのです。
ハリーの友人たち3名は臆病者のシンボルである「白い羽根」を彼に送りつけます。
そして婚約者のエスネまでもが・・・。
しかし「君にならボクの命を預けられる」と言った親友のジャックだけは
羽根を送りつけてはきませんでしたが、
気持ちを話すまもなくスーダンへ出兵してしまいました。
ハリーは4枚の白い羽根を返上すべく、
国のためにではなく、友人たちのために、単身でスーダンに赴きます。
そしてアラブ人に身をやつし、荷運び人夫として雇われ、軍に随行するのですが・・・。
大英帝国の栄光ある軍隊が悲惨な戦闘に追い込まれていきます・・・。


イギリスの戦争といえば、私は、つい一次大戦・二次大戦を連想してしまっていたのですが、
あれだけの植民地を手中にした裏には、
各地での戦争があったはずなのですね。
本作でハリーが戦争に行きたくなかった理由は、
彼自身の言葉ではハッキリとは説明がありません。
ただ、推測されるのは、この植民地政策自体に疑問を感じていたようでもあります。
そして戦争、すなわち人と人が殺し合うことが良いことだとは思えなかった。
まあ、今にすれば当たり前ではありますが、
時代的には、それを口にできるような雰囲気ではなかったということですね。
ハリーはそんな自分の気持ちに正直だっただけなのですが、
その代償は大きかったのです。
臆病な卑怯者というレッテルを貼られてしまう。
それで結局彼もまた戦場へ行くことになるわけですが、
羽根を送りつけた友人たちの窮地を救うことになる。
最後の一人を救うためには、あえて反乱軍の捕虜にまでならなければならず、
そこでは本当に命がけの悲惨な体験をするのです。
本当の卑怯者ならこんなことはしません。
ハリーの強い意志に、圧倒されるのでした・・・。


ヒゲモジャのヒース・レジャーもまた、ワイルドでいいですね―。
あ~、つくづく惜しい・・・。

サハラに舞う羽根 [DVD]
マイケル・シファー
ショウゲート



「サハラに舞う羽根」
2002年/アメリカ・イギリス/132分
監督:シェカール・カプール
原作:A・E・W・メイソン
出演:ヒース・レジャー、ウェス・ベントリー、ケイト・ハドソン、ジャイモン・フンスー、マイケル・シーン
スペクタクル度★★★☆☆
信念度★★★★☆
満足度★★★★☆


ノー・エスケープ 自由への国境

2017年05月10日 | 映画(な行)
自由への国境?



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舞台はアメリカ・メキシコの国境。
壁を作ると明言するトランプ大統領のこともあり、いかにも不穏です。



メキシコからアメリカへ不法入国しようとする15人の男女。
その国境地帯をトラックに乗って進んでいたのですが、
車の故障で徒歩を余儀なくされてしまいます。
砂漠や岩山の道をひたすら歩み続ける彼ら。
しかしそこへ一人のアメリカ人ハンター、サム(ジェフリー・ディーン・モーガン)がやってきます。

彼は何の躊躇もなくメキシコ人の列に銃弾を撃ち込む。
瞬く間に半数以上のものが撃ち殺されてしまいます。
メキシコ人側の要となるがモイセス(ガエル・ガルシア・ベルナル)です。

彼は皆の様子を気遣いながら、弱いものをかばいつつ歩きます。
本作は、追う者と追われる者、
ひたすらこの2者の動向をスリルたっぷりに描いていきます。
サムの飼い犬の存在が結構怖いのです。
とても優秀で主人に忠実な犬は、“獲物”をすぐに嗅ぎつけ、
瞬く間に追いついてしまうのです。
しかも人の喉元に食いつき、殺すことすらする・・・。
相手が人間だけなら、ここまでの苦戦にはならなかったと思うのですが・・・。




さて、このサムの人物像なのですが、ぜんぜん殺人鬼には見えません。
一見どこにでもいそうなおじさん風。
犬を可愛がり、その犬の死には涙する彼が、
平然と人にライフルを向けて狙い打ちます。
ウサギを狩るのと何も変わりません。
どうして彼がそんなことをするようになったのか、
そういうことには全く触れていません。
しかしつまりこれは、ごく普通の善良そうな顔をしたアメリカの市民が、
平気で移住者に銃を突きつけるにも等しい、憎悪をぶつけている・・・
そういうことに思えてしまうのです。
そうした奥底にある感情を、うまくすくい取ったのがトランプ氏だったと言ってもいい。
なんとも、インパクトの大きい、しかしまた救いがたい作品です。


ところで、この「自由への国境」という副題は、おかしくないでしょうか?
いま、アメリカが何びとにとっても「自由の国」というのは、
もはや幻想に思えてなりません。


「ノー・エスケープ」
2015年/メキシコ・フランス/88分
監督:ホナス・キュアロン
出演:ガエル・ガルシア・ベルナル、ジェフリー・ディーン・モーガン、アロンドラ・イダルゴ
サバイバル度★★★★★
満足度★★★.5

「海街diary8 恋と巡礼」吉田秋生

2017年05月09日 | コミックス
チカちゃんて女の子なんだ

海街diary 8 恋と巡礼 (flowers コミックス)
吉田秋生
小学館


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家のゴミ箱で見つけてしまった妊娠検査薬のことを誰にも相談できず、
気持ちが落ち着かないすず。
そんなとき、地蔵堂の軒下で眠っている千佳を見つけて、
彼女の秘密も知ってしまい・・・。
姉達には隠したまま、千佳とある願掛けに出掛けるすずだが、
そこで事件が・・・。
そして姉妹それぞれの恋が、大きく動き始めて!?


* * * * * * * * * *

海街ダイアリー、
本巻はこれまで脇役的立場に甘んじていた3女チカちゃんに、
いよいよスポットが当たります。
妊娠が発覚したチカ。
お相手は、もちろんあのアフロ店長。
しかし彼は今ヒマラヤに行っており、チカは一人悶々としているのです。
すずだけがそのことを知っているのですが、
誰にも言わないでとチカに固く口止めされてしまいます。
しかし、実際そのことが広まったのはあっという間。
姉妹や、おなじみの人々、そして当の店長にも、
またたくまに伝わってしまいました。
一旦帰国していた店長がチカの元を訪れます。
「結婚してください。」
おー、なんのバリエーションもない直球勝負。
いや、そこがまたいい。
近頃すっかり涙腺が緩んでいる私、この本を読むと涙が滲んで仕方がありません。
すっかりこの4姉妹の親戚のおばちゃんのような気分になっています。
アフロを返上した店長とチカちゃんに、幸あれ!!


思うに、本巻87ページのシーンが、双方アフロヘアだったら
ものすごく絵にならないと思うので・・・よかった、よかった(^_^;)
チカちゃんの妊娠、結婚と、すずの来春からの新生活、
そして幸と佳乃のそれぞれの恋。
まもなく、香田家に大きな転機がやってきそうです。

「海街diary8 恋と巡礼」吉田秋生 小学館フラワーズコミックス
満足度★★★★★

高台家の人々

2017年05月08日 | 映画(か行)
かる~い、ロマンチックコメディ。時にはこういうのもいいものです。



* * * * * * * * * *

地味~で目立たないOL木絵(綾瀬はるか)は、妄想好き。
人に言葉で思いを伝えることが苦手で、
つい自分の心の中で色々とあらぬことを妄想してしまいます。
そんなところへ、高台光正(斎藤工)が転勤してきます。
彼は名家・高台家の長男。
イケメンの超エリート。

他の女子たちは色めき立つのですが、
木絵は自分には全く縁のない“高台ナントカさん”というくらいの認識しかありません。
さてところが、光正には重大な秘密があります。
それは人の心が読めてしまうこと。
イギリス人の彼の祖母がそういう能力を持っていて、
彼女の血を引く高台家の3人の子どもたちも皆同じ力を持っているのです。
高台は、人の言葉と心のギャップにいつも嫌な思いをしていて、
自分の力を忌まわしく思っているのです。
ところが妙にユニークでおかしな妄想の声が彼の頭に飛び込んでくる。
その妄想の持ち主こそが木絵で、
いつしか高台は彼女のことばかり気になり、交際するようになります。
ですがまもなく、彼の能力について、
木絵に真実を語らなければなくなってしまう。
心の中の何もかもが読まれているということに
急に恐怖を感じた木絵は・・・



以心伝心とは言うけれども、これはやはりつらいですよね。
お互い様ならまだしも、あくまでも一方通行ですし。
浮気は絶対できません。
「あなたのことはそれほど」などと思うこともできない。
心を閉ざした彼女の頭の中は、いつも「青い空、風に吹かれる麦畑」という環境ビデオ映像。
いや、そればかり思い浮かべるのも結構難しそうですが。
同じ能力を持つ高台の妹(水原希子)、弟(間宮祥太朗)も
その能力故に、恋については余計な苦労をしているようです。





それから、彼らの母(大地真央)が光正と木絵の結婚には猛反対。
ごくごく一般庶民の木絵は高台家にはふさわしくないというのです。
大地真央さん、きれいなだけに怖いわ~。
「とと姉ちゃん」のお祖母様の時も怖かったし・・・。
夫に心を読まれてしまうことにもまして、
私ならこんな家の長男に嫁ぐというのが、絶対に無理!
と思えてしまいます。
が、それにしても、こんな木絵の心情を思い計り、
あくまでも彼女を守ろうとする光正・・・
は~♡ カッコイイわあ・・・

ま、他愛なく楽しませていただきました。
久々にシャーロット・ケイト・フォックスさんを見られたのもよかった。



高台家の人々 DVDスタンダード・エディション
綾瀬はるか,斎藤工,水原希子,間宮祥太朗,坂口健太郎
ポニーキャニオン


「高台家の人々」
2016年/日本/116分
監督:上方政人
原作:森本梢子
出演:綾瀬はるか、斎藤工、水原希子、間宮祥太朗、坂口健太郎、大地真央、シャーロット・ケイト・フォックス

妄想度★★★★☆
胸キュン度★★★★☆
満足度★★★☆☆

人生タクシー

2017年05月07日 | 映画(さ行)
戦う監督



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イランのジャファル・パナヒ監督が自らタクシー運転手となり、
車のダッシュボードに据え付けたカメラで、
次々に乗ってくる乗客たちの状況を描くという
ドキュメンタリータッチの作品。
・・・と聞くと何やら悲喜こもごもの人情作品のように思えるでしょうか。
本作を理解するには、このジャファル・パナヒ監督が
イランという国の中で置かれている状況を知る必要があります。


監督は、反体制的な活動を理由に、
政府から20年間映画監督としての活動を禁止されているのです。
そんな状況でも、なんとか作品を作り発表しているというのがはすごいことですね。
しかし当然、イラン国内では上映禁止です。
私が以前に見たのは「オフサイド・ガールズ」という作品。
イランでは女性は競技場でサッカーを観戦することは禁止されているのですが、
果敢な少女が男装して競技場に潜り込むというストーリーなのでした。

→ オフサイド・ガールズ

こんな風にイラン社会の理不尽さを語る作品ながら、
そんな社会でありながらもどこか明るく、たくましく生きる人々の姿を描いているのです。
本作も、一見ドキュメンタリー風でありながら、
しかし、これはしっかり監督に練られて演出されている作品のようです。


驚いたことにイランのタクシーは乗り合いなんですね。
先に乗客がいるのに、またどこかで人を拾う。
よほど逆方向だったりしない限りあたり前のことのようです。
この素人運転手のタクシーに乗り込んでくるのは、
強盗、教師、海賊版レンタルビデオ業者、

交通事故にあった夫婦、映画監督志望の学生、
金魚鉢を抱えたご婦人方

政府から停職処分を受けた弁護士・・・

彼らの語る言葉から、様々なこの国の問題点が浮かび上がってきます。



中でも監督の姪役の少女の放つ言葉が鋭い。
彼女は学校の課題で短編映画を作ることになっているのですが、
この国で「上映可能」な映画を作るにはどうしたら良いのかと問います。
その「おかしな」制約の中で・・・。



監督は終始やんわりとした笑みをたたえながら運転し、
人々の話を聞いています。
けれども、心中は怒りでいっぱいなのだろうと想像がつくのです。
特に、少女が「上映可能な映画」の話をしだしたときに現れる表情が・・・。
戦う運転手…じゃなくて、
戦う監督なのですね。


「人生タクシー」
2015年/イラン/82分
監督・製作・脚本・出演:ジャファル・パナヒ
「世界を知る」度★★★★★
満足度★★★★☆

「鹿の王 上・下」 上橋菜穂子

2017年05月06日 | 本(SF・ファンタジー)
日々、共生と葛藤を繰り返す、人の体、そして社会

鹿の王 (上) ‐‐生き残った者‐‐
上橋 菜穂子
KADOKAWA/角川書店


鹿の王 (下) ‐‐還って行く者‐‐
上橋 菜穂子
KADOKAWA/角川書店




* * * * * * * * * *

強大な帝国・東乎瑠にのまれていく故郷を守るため、
絶望的な戦いを繰り広げた戦士団"独角"。
その頭であったヴァンは奴隷に落とされ、岩塩鉱に囚われていた。
ある夜、一群れの不思議な犬たちが岩塩鉱を襲い、謎の病が発生する。
その隙に逃げ出したヴァンは幼子を拾い、ユナと名付け、育てるが―!?
厳しい世界の中で未曾有の危機に立ち向かう、
父と子の物語が、いまはじまる―。(上 生き残ったもの)

不思議な犬たちと出会ってから、その身に異変が起きていたヴァン。
何者かに攫われたユナを追うヴァンは、
謎の病の背後にいた思いがけない存在と向き合うことになる。
同じ頃、移住民だけが罹ると噂される病が広がる王幡領では、
医術師ホッサルが懸命に、その治療法を探していた。
ヴァンとホッサル。
ふたりの男たちが、愛する人々を守るため、
この地に生きる人々を救うために選んだ道は―!?(下 還って行くもの)


* * * * * * * * * *


2015年本屋大賞受賞作、ということで以前から気になっていたのですが、
経費節約を心がけている昨今、
図書館予約でじ~っと待っていて、ようやく順番が回ってきました。
でも、そのかいあって納得の面白さ。
これはすごい・・・!


主人公はヴァンという中年のおじさん・・・。
若くはつらつとした貴公子などではありません。
しかもなんと彼が岩塩坑に奴隷として捕らわれているところから始まるのが
なんとも意表を突きます。
その岩塩坑に、謎の犬たちが忍び込み、次々と人を襲う。
その犬に噛まれた人々は皆、病で死んでしまうのですが、
何故かヴァンとユナという女の子だけが助かります。
ヴァンはユナを連れて岩塩坑を離れ、逃亡の旅が始まります。

さて一方、ホッサルという医師が登場。
この世界ではまだまだ祭司による"祈り"による治療がほとんどなのですが、
ホッサルは科学的根拠に基づく近代的な医療を進めているのです。
彼は犬に噛まれて症状の出る黒狼病の研究に取りかかります。


しばらくは、このヴァンとホッサルの様子が交互に描写されていきますが、
二人はなかなか出会いません。
ついに二人が邂逅し、それまでにわかったことや考えたことを話し合ううちに
その"病"の正体が見えてくるのですが、
このシーンが、ものすごくワクワクする。
ファンタジーだからといって、全く適当というわけではありません。
しっかりとした免疫学に基づいた話になっているのです。
科学するココロを心地よく刺激します。


さて、ではこの題名"鹿の王"とは?
作中こんなことが書かれているのです。
ヴァンの故郷の部族では飛鹿(ピュイカ)と共に生活しているのですが、

「飛鹿の群れの中には、群れが危機に陥った時、
己の命を張って群れを逃がす鹿が現れるのです。
長でもなく、仔も持たぬ鹿であっても、
危難に逸早く気づき、我が身を賭して群れを助ける鹿が。
・・・ですから、私たちは、過酷な人生を生き抜いてきた心根をもって他者を守り、
他者からしたわれているような人のことを、
心からの敬意を込めて、あの人は<鹿の王>だ、と言うのです。」


つまりこの物語は、
ヴァンこそが"鹿の王"であるということを示すためのストーリーなのですね。


そしてまた、あとがきで著者が触れていますが、

・人は自分の身体の内側で何が起きているのか知ることができない。

・人あるいは生物の身体は、細菌やらウイルスやらが、日々共生したり葛藤したりしている場である。

・このことは「社会」にも似ている。

これらのことから着想したとのこと。
確かに、それがテーマとしてしっかり語られているのでした。
なんて秀逸なファンタジー。
感服しました。
登場人物の中では、マコウカンが好きだなあ・・・。
ホッサルからは「全く従者に向かない」と言われる人物なのですが、
この二人の会話が面白い。

「鹿の王 上・下」上橋菜穂子 角川書店
満足度★★★★★

ブロークバック・マウンテン

2017年05月05日 | 映画(は行)
求めて止まない魂の結びつき



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本作は公開時に見ていますが、再視聴。
2006年第78回アカデミー賞、監督賞、脚本賞、音楽賞受賞作品。
久しぶりにヒース・レジャーに会いたくなりまして・・・。


1960年代アメリカ、ワイオミング。
イニス(ヒース・レジャー)とジャック(ジェイク・ギレンホール)、
二人の青年がひと夏、山で羊の番をする仕事を得ました。
ブロークバック・マウンテンの人里離れた山中。
二人だけで過ごすうちにいつしか衝動にかられ、二人は愛し合うようになります。
秋になり山を降りた二人。
それぞれに結婚をし、子どももできますが、
互いのことを忘れることができません。
時折密かに会ってともに過ごすようになりますが・・・。


今ならしょうもないなあ・・・くらいのことなのかもしれません。
けれど当時、同性同士のそのような行為は反社会的なことでした。
下手をすればリンチに遭う可能性も。
だから、二人は関係をひたすら秘密にしなければならなかった。



けれども山の中で愛し合う二人、
そして互いに家庭を持ちながらも求めて止まない二人の魂の結びつきに、
心打たれてしまいます。
12年前、私がこれを見たときには若干の嫌悪感もあったような気がします。
でも今回、そういうのはなかったなあ・・・。
その後、散々そういう作品を見たからかもしれないし、
また、世の中も更にそういう風潮を認めるように変わってきた、
ということもありそうです。
そして今は亡きヒース・レジャーへの郷愁もあり・・・。


双方奥さんがいて、また時には他の女性にちょっかいを出してみることもあったりするのですが、
そのことはお互いに気にならないようなのです。
けれども、ある時ジャックがイニスと会えない心の乾きを埋めるために
メキシコへ行き、男娼を買うのですね。
そのことを知ったイニスは、「今度同じことをしたら殺す」というのです。
日頃寡黙なイニスのこのセリフ。
ぐっと来ますねえ・・・。


本作の出演俳優が他にアン・ハサウェイにミシェル・ウィリアムズ。
いま、第一線で活躍している方ばかりです。
それなのに、ヒース・レジャーだけがいない。
もし存命ならば、どんな素晴らしい作品を見ることができただろうか・・・。
つい、タラレバしてしまいます。
バッドマンに出てきたヒース・レジャーもすごかったですが、
やはり本作のヒース・レジャーが、うらぶれたおっさん風だけれど、ステキです♡

「ブロークバック・マウンテン」
2005年/アメリカ/134分
監督:アン・リー
出演:ヒース・レジャー、ジェイク・ギレンホール、ミシェル・ウィリアムズ、アン・ハサウェイ

同性愛度★★★★★
満足度★★★★★

クジラの島の少女

2017年05月04日 | 映画(か行)
伝統と新しい時代の波



* * * * * * * * * *

ニュージーランドの浜辺、マオリ族の村が舞台です。
現代が舞台なので、村といってもすっかり近代化され生活様式。
私たちの生活と何も変わりません。
ただ、ご多分に漏れず、若い人たちはみな都会に出ていってしまい、
過疎化が進んでいるようではあります。
この地でずっと暮らしているお年寄りたちは、マオリ族の伝統を大切に思っていて、
その昔、クジラに乗ってやってきた勇者パイケアこそがマオリ族の祖先と信じています。


さて、この村の族長コロの長男には、
その勇者と同じパイケアと名付けられた女の子しか生まれませんでした。
後継者に悩むコロは、やむなく村の少年たちを集めて武術や祈りの言葉を教え、
その中から後継者を見つけようとします。
けれど、女であるパイケアには決して教えてくれません。
後継者に女などありえないと思っているのです。
祖父を尊敬し、彼が大事に思っている村の伝統を、
最も受け継ぎたいと彼女が思っているにも関わらず・・・・。


伝統と、新しい時代の波にどう向き合うのか、
それが本作のテーマです。
女性が何においても男社会の影でしかなかった時代から、
短期間にずいぶんと世の中は変わりました。
そして実際、男性ができて女性にできないことなんて、ほとんどないですよね。
もちろん体形や力の差はあるけれど・・・。


伝統というのは、はるか昔に全部が決まって、
それをまるごと伝えてきたわけではないのでしょう。
その都度、少しずつ変化しながら現在に至ったはず。
だから変えることを恐れる必要はないのだろうなあ・・・。
頑固で変化を恐れるのは、お年寄り。
柔軟に新しいことを取り入れようとするのが若者。
双方納得の行くまで、考えて話し合えばいい。


日本でも古来の伝統が失われつつあるわけですが、
学校や地域で、それを守る取り組みをしているのは同じですね。
インターネットの発達のおかげで世界はどんどんグローバルになっていきますが、
自分が生まれ育った地を誇りに思う気持ちは、持ち続けたいと思います。


パイケア役のケイシャ・キャッスル=ヒューズは
アカデミー史上最年少で主演女優賞にノミネートされています。
元気でキュート!! 
前向きで勇気ある少女像がステキでした。

クジラの島の少女 [DVD]
ニキ・カーロ
角川映画


「クジラの島の少女」
2003年/ニュージーランド/102分
監督・脚本:ニキ・カーロ
原作;ウィティ・イヒマエラ
出演:ケイシャ・キャッスル=ヒューズ、ラウィリ・パラテーン、ビッキー・ホートン、クリフ・カーティス、グラント・ロア

伝統度★★★★☆
凛とした少女像度★★★★★
満足度★★★★☆

「神の子どもたちはみな踊る」村上春樹

2017年05月03日 | 本(その他)
僕らはかたちなきものを、善きものであれ、悪しきものであれ、どこまでも伝えあうことができる

神の子どもたちはみな踊る (新潮文庫)
村上 春樹
新潮社


* * * * * * * * * *

1995年1月、地震はすべてを一瞬のうちに壊滅させた。
そして2月、流木が燃える冬の海岸で、
あるいは、小箱を携えた男が向かった釧路で、
かえるくんが地底でみみずくんと闘う東京で、
世界はしずかに共振をはじめる……。
大地は裂けた。
神は、いないのかもしれない。
でも、おそらく、あの震災のずっと前から、ぼくたちは内なる廃墟を抱えていた――。
深い闇の中に光を放つ6つの黙示録。

* * * * * * * * * *

本作は、1995年1月の阪神淡路大震災後に書かれた短編集。
直接的に大震災に触れているわけではありませんが、
理不尽にやって来る大きな"喪失"に向かう人々が描かれます。


表題作「神の子どもたちはみな踊る」
善也(よしや)は母子家庭に育ち、母は宗教活動をしています。
彼の出生の秘密として母は語る。
絶対確かに避妊をしたのに、善也を妊娠したのだと。
だから、あなたは「お方様」の子どもなのだと。
そんな馬鹿なことがあるはずがない。
その頃付き合っていた男が父親としか思えない。
ある時善也は、母に聞かされた父らしき男と同じ特徴を持つ男を見かけ、
尾行しますが、ついに姿を見失ってしまう。
そして、彼は思います。

「僕が追い回していたのはたぶん、
僕自身が抱えている暗闇の尻尾のようなものだったんだ。
僕はたまたまそれを目にして、追跡し、すがりつき、
そして最後にはより深い暗闇の中に放ったのだ。」


そして彼は夜の野球場の草原で一人踊る。
「それからふと、自分が踏みしめている大地のそこに存在するもののことを思った。
そこには深い闇の不吉な底鳴りがあり、
欲望を運ぶ人知れぬ暗流があり、
ぬるぬるした虫たちの蠢きがあり、
都市を瓦礫の山に変えてしまう地震の巣窟がある。」


そしてまた、彼が父のように尊敬ししていた人の臨終の間際にむけて、このように言う。
「僕らの心は石ではないのです。
石はいつか崩れ落ちるかもしれない。
姿かたちを失うかもしれない。
でも心は崩れません。
僕らはそのかたちなきものを、善きものであれ、悪しきものであれ、
どこまでも伝えあうことができるのです。
神の子どもたちはみな踊るのです。」


覚醒した善也。
ヨシヤ・・・ヨシュアを連想させる名前ですが、これはイエスの別の呼び方でもありますね。
そして文中に彼は以前「かえるくん」と呼ばれていたことがある、ということで・・・。


「かえるくん、東京を救う」
信用金庫に勤める片桐のもとにある日突然、
巨大なかえるが訪ねてきて、自分は「かえるくん」だと名乗ります。
そして、地下にいるみみずくんが、大地震を起こして
東京を破壊しようとしているから、一緒に戦ってほしい、と言うのです。
結果、かえるくんはなんとか「引き分け」に持ち込むことで、大地震を防ぐことができたのですが、
疲れ果てたかえるくんは混濁の中に戻っていってしまう。
けれどそのときにかえるくんは言う。
「ぼくは純粋なかえるくんですが、
それと同時に僕は非かえるくんの世界を表象するものでもあるんです。
…ぼくの敵はぼく自身の中のぼくでもあります。
ぼくの頭のなかには非ぼくがいます。」



若干とらえどころがないようにも思うのですが・・・、
でも興味はつきません。
そしてまた私は思ってしまいました。
その後2011年3月・・・。
かえるくんは再び誰かと共に戦おうとしたけれど、うまく行かなかったのだろうか。
もしくは、彼の中の非かえるくんが増大して力を持ってしまったのだろうか・・・・

とても興味深い一冊です。

「神の子どもたちはみな踊る」村上春樹 新潮文庫
満足度★★★★☆

3月のライオン 後編

2017年05月02日 | 映画(さ行)
私は後悔なんかしない。私は間違っていない!



* * * * * * * * * *

零と川本3姉妹の出会いから1年。
零は次第に遠慮もなくなり、家族のように気楽に川本家に出入りするようになっています。
けれどそんなある日、川本家に姉妹を捨てた父親が突然現れ、ある要求を突きつけます。

3姉妹をなんとか守りたいと思う零ですが、
その思いが空回りしてしまい・・・



その前に挿入される一つのエピソードが重要です。
ひなたはクラスでいじめられている子をかばったため、
自分がいじめられるようになってしまいました。
けれども彼女は言います。

「私は後悔なんかしない。私は間違っていない!」

それを聞いた零は、自分が子供の頃やはりいじめられていたことを思い出します。
その時は誰もかばってなどくれなかった。
だけれども、今、ひなたの行為と言葉を聞いて、
時を超えてその時の自分が救われたと感じるのです。
だから、彼はひなたを恩人のように思い、
彼女のためにできることならなんでもしようと思ったわけですね。
家にも学校にも居場所がなく、ただ将棋に打ち込むしかなかった零の、
その魂が今になって癒やされたという、大切な瞬間。
…泣けます。




さすが中学生にしてプロ棋士となった零は、とても頭がいいのです。
しかも年収も下手なサラリーマンよりも多い。
けれども、なんといってもまだ高校生。
人間としてはまだまだ未熟。
自分の失敗に限りなく落ち込んでゆく。
そんな不安定な零の心が明らかに将棋に出てくる。
悩める少年につい手を差し伸べたくなってしまいますねえ
・・・オバサンとしては。
そんなわけで、彼を気にかけずにいられない林田先生役の高橋一生さんはオイシイ役でした。
カップ麺を食べるシーンばかりで大変だったそうですが。



多分コミックのエピソードはかなり端折ってあると思うのです。
だからコミックファンから見ると不満が大きいのかな?と思うのですが、
映画作品としてはきちんと成り立っていると思います。
何よりも零と神木隆之介さんのイメージがぴったりですし。
やっぱりじっくりとコミックの方も読みたくなってしまいました。




「3月のライオン 後編」
2017年/日本/138分
監督:大友啓史
原作:羽海野チカ
出演:神木隆之介、有村架純、倉科カナ、染谷将太、清原果耶、佐々木蔵之介、高橋一生、加瀬亮
満足度★★★★☆

3月のライオン 前編

2017年05月01日 | 映画(さ行)
孤独な少年の世界が広がっていく



* * * * * * * * * *

羽海野チカさんコミックの映画化。
コミックは娘が買っていたので、私も読んでいたのですが、
彼女が家を出たので、その後読まないまま。
ストーリーもあまり良くは覚えていなくて、
しかしこれは映画を見るにはとても良い条件だったわけです。



そしてこの日私は前編、後編続けて一気に見てしまいました。
これ、一番いいですよ。
後編を見るときに前のことはしっかり覚えている。
その世界に入るのに容易。
シネコンだと後編公開時に、まだちゃんと前編も上映しているのでした。
一日一回だけですが。
今後もこの手は使えそう。



さて、将棋の世界を背景としたストーリー。
以前みた「聖の青春」でもおなじみの将棋会館が、また登場。
なんだか実物の建物を見に行きたくなってしまいました。



桐山零(神木隆之介)は、幼いころ交通事故で父母と妹を亡くし、
父の友人である棋士・幸田(豊川悦司)に引き取られます。
そこで彼は一人生きるために必死で将棋を続け、ついに中学生でプロ棋士になります。
しかし同じくプロ棋士を目指していた幸田の長女・香子(有村架純)、長男と
折り合いがつかず、家を出て一人暮らし。
高校と将棋会館を行き来する毎日です。
特に親しい友人もなく、できることは将棋しかない孤独な日々。
そんなある日、和菓子屋を営む川本家の3姉妹と知り合い、
家に呼ばれてご飯を食べさせてもらったりするうちに、
零は自分の居場所を見出していきます。



まず、零があんな子供の頃に家族すべてをなくしてしまうというところで、
すでに泣きそうなわけですが、
あの家に引き取られたのは幸いというよりもむしろ不幸のようにも思えてしまう。
ハナから兄弟関係はピリピリし通し。
幸田氏は基本的に優しい人ではあるけれど、父親と言うよりは師匠。
彼は自分の子どもたちに対してまで“師匠”なのが不幸の元かも知れない。
しかし、零は彼が自分で思っているほどの天涯孤独ではない、
という状況が見えてきますね。
川本家の3人姉妹は彼が大好きで、なんといっても和みます。
学校では林田先生(高橋一生)が何かと彼を気遣ってくれている。

同じ棋士の二階堂(染谷将太)は、厚かましいくらいに零に親しげ。
そして、ものすご~く感じの悪い血の繋がらない姉・香子までもが
ちょくちょくやってきては嫌がらせを言って帰っていくというのも、
屈折した彼女の感情表現のようにも思えてきます。
しかし、今はまだ零は迷い路の中にいる。
零は、将棋の世界はもとより、彼自身の成長の階段を少しづつ歩み始めているわけです。



染谷将太さんの太り具合には驚かされますが、これは特殊メイクとのこと。
う~ん、でも全く作り物には見えなかった。
すごいですね、今の技術は。
難病を抱える太り気味の棋士。
二階堂は村山聖氏をイメージしているのかもしれません。


それから、姉、香子なのですが・・・。
私にはどうしても有村架純ちゃんが可愛らしすぎて、
このいや~な感じの姉とイメージが重ならず・・・。
ここは違う人のほうがよかったな~と思ってしまいました。
演技の問題じゃないんです。
彼女のふっくりした頬のあたりが、どう見ても幸せそうなんですもの・・・。



ということで、本編は零くんの身辺固めという雰囲気。
事件は、後編で起こります。


「3月のライオン 前編」
2017年/日本/138分
監督:大友啓史
原作:羽海野チカ
出演:神木隆之介、有村架純、倉科カナ、染谷将太、清原果耶、佐々木蔵之介、高橋一生、加瀬亮
満足度★★★★☆