映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

セリーナ 炎の女

2019年01月13日 | 映画(さ行)

燃え狂う嫉妬の炎

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1929年、ノースカロライナ州。
製材所を営むジョージ・ペンバートン(ブラッドリー・クーパー)は、
火事で家族を失った美女セリーナ(ジェニファー・ローレンス)と出会い、すぐに結婚します。
セリーナはおとなしく家事に勤しむタイプではなく、
夫の事業にも積極的に参加するバリバリタイプ。
ジョージは、そんな妻のことを気に入っています。

さてしかし、この地にはかつてジョージのお手つきになった女性がいて、
この二人が結婚したときには身ごもっており、そしてついに男児が誕生しました。

やがて、セリーナも妊娠したのですが、流産の末、
今後妊娠できない体になってしまいます。
そうなるとジョージは実のわが子である赤ん坊が気になって仕方がない。
密かに写真を持ったり、育児の援助金を出したりします。
誇り高く常に自分の思う通りにならないと気が済まないセリーナは、
夫のその行動に気づいて・・・。

炎の女。
なるほど、セリーナの感情は激しく強く、炎そのもの。
私、強い女性は好きですが、これはその方向が間違っている。
いや、そもそも安直にそこらの女に手を付けてしまう男が悪いに決まっていますが。
イマイチ、どう感情移入すべきなのかよくわからない。

ということで、ストーリーとしてはなんだかなあ・・・という感じだったのですが、
この時代背景がなかなか興味深かったのです。
ちょうど世界恐慌の時期ですが、ここは森林の木を切り出す山の中の町。
株に手を出す人などもいないので、表面的にはさして変わりはないのですが、
ジョージの経営する製材所の経営が苦しくなってきているのです。
そしてこの土地が国立公園になる計画がある。
美しい緑の森を守っていくのか、それともありったけの木を切り出して砂漠にしてしまうのか・・・。
まあ、今の私達の感情からすれば環境保全が当たり前と思えますが、
木を切って生活している人々から見れば死活問題。
木材を運ぶための小ぶりの蒸気機関車なども出てきて、
なんだか魅力的な背景なのでした。



セリーナ 炎の女 ブルーレイ&DVDセット [Blu-ray]
ジェニファー・ローレンス,ブラッドリー・クーパー,リス・エヴァンス,トビー・ジョーンズ
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント

<WOWOW視聴にて>
「セリーナ 炎の女」
2014年/チェコ・フランス・アメリカ/109分
監督:スサンネ・ビア
原作:ロン・ラッショ「セリーナ」
出演:ジェニファー・ローレンス、ブラッドリー・クーパー、リス・エバンス、トビー・ジョーンズ、デビッド・デンシック
女の凶暴度★★★★☆
満足度★★.5


「スティグマータ」近藤史恵

2019年01月12日 | 本(その他)

プロの選手には“物語”が必要だ

スティグマータ
近藤 史恵
新潮社

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ドーピングの発覚で失墜した世界的英雄が、突然ツール・ド・フランスに復帰した。
彼の真意が見えないまま、レースは不穏な展開へ。
選手をつけ狙う影、強豪同士の密約、そして甦る過去の忌まわしい記憶…。
新たな興奮と感動が待ち受ける3000kmの人間ドラマ、開幕!

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近藤史恵さんの自転車ロードレースのシリーズ。
語り手はスペイン・フランス・ポルトガル等欧州のロードレースチームを渡り歩いている名アシスト白石誓。
アシストというのは、エースの前を走ってエースの体力温存を図ったり、
団体の前に飛び出して他チームのペースを崩したり、
結果、自分が最下位となっても、チームのために尽くせばそれでよいという立場。
エースではなくアシストというこのポジションが、味があっていいですよねー。
仕事人という感じがする。

さて本作は、白石がドーピングの発覚で失墜した世界的英雄・メネンコからある依頼を受けます。
自分はある人物から恨みを受けているので、
ツール・ド・フランスの競技中、それとなくその人物の様子に気をつけていてほしいというのです。
白石にとってメネンコは、ずっと憧れてきたスーパースター。
しかし、ドーピング使用が発覚し名誉も地位も何もかも失ったメネンコは
5年のブランクの後、またレースに出場するというのです。
地に落ちたチャンピオンで、そしてこんな依頼をしてくる彼に対して、
白石は複雑で割り切れない思いに囚われてしまいます。


しかし、そんな気持ちにかかわらず、3週間もの長く険しいレースが始まる・・・!
ある人がプロの選手には「物語」が必要だといいます。
様々な苦労を経て、成功へたどり着くとか、
恵まれた環境で若くして栄光を抱いたけれどその後、芽が出なくてさんざん苦労するとかいうストーリー。
ではこの落ちた偶像であるメネンコが描こうとしているストーリーは・・・? 
・・・というところがキモです。
白石はやはり好きだな~。
今後もまた彼を主役にした物語が読みたいです!

図書館蔵書にて
「スティグマータ」近藤史恵 新潮社
満足度★★★★☆


明烏 あけがらす

2019年01月10日 | 映画(あ行)

落語の味わい

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ホストクラブが舞台のシチュエーションコメディ。
「明烏」や「品川心中」等、古典落語の演目をベースにしているとのこと。

品川のあまりパッとしないホストクラブで最下位ホストのナオキ(菅田将暉)。
彼は借金返済に必要な1000万円を用意することができて安堵し、
同僚たちと祝杯を上げます。
翌朝目を覚ますと、お金ができた・・・と思ったのは夢だったことに気付きます。
あと12時間、明日の朝までにお金が用意できないと、東京湾に沈められてしまう運命・・・。
気は焦りますが1000万円ものお金を工面するあてはまったくない。
同僚たちも冷たい素振り・・・。
絶体絶命のピンチ!!

本作、「明烏」というより「芝浜」なのでは?と私は思いました。
古典落語など何も知らない私なのですが、
たまたま最近見たNHKのドラマ「落語心中」にこの話があったのですよねー、「芝浜」。
あ、でもそういう題名にしてしまったら、あまりにもネタバレなのか。



2015年作品ですが、なんと今にしてずいぶん豪華な出演陣。
菅田将暉さんはちょうどいろいろな映画に出始めた頃でしょうか。
田舎から家出してきた少女が吉岡里帆さん。
ここの店長がムロツヨシさんで、
他店に移ることになったナンバーワンホストが松下優也さん。
今人気急上昇中の人ばかりなのでびっくりです。
だから今こそ見る価値ありですよ!





盛り上がったり落ち込んだり、くるくる変わる菅田将暉さんの表情が面白いし、
ずっと北の国からの田中邦衛さんのマネをしている佐藤二朗さんもおかしい!
笑わせつつもホロリとくる人情譚。
まさに落語の味わいです。



明烏 [DVD]
菅田将暉,若葉竜也,吉岡里帆,柿澤勇人,松下優也
Happinet

<WOWOW視聴にて>
「明烏 あけがらす」
2015年/日本/106分
監督・脚本:福田雄一
出演:菅田将暉、城田優、若葉竜也、吉岡里帆、松下優也、新井浩文、ムロツヨシ、佐藤二朗
コミカル度★★★★☆
人情度★★★★☆
満足度★★★★☆


こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話

2019年01月09日 | 映画(か行)

大泉洋さん以外は考えられない

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私が本作の原作本を読んだのはずいぶん昔です。
「今頃になって映画化かよ。」っていいたいくらい。
でも札幌が舞台で大泉洋さんが鹿野さん役と聞けば、
いやいや、全然ノープロブレム。
よくやってくれました!と態度を一変させていただきます。

筋ジストロフィーを患いながら、自らの夢や欲に素直に生きようと決意し、
ボランティアに支えられながら暮らしている鹿野(大泉洋)。
医学生の田中(三浦春馬)がボランティアの一人として鹿野のもとに通うようになります。
そして、田中が付き合っている彼女・美咲(高畑充希)も、見学気分でここにやってきます。
美咲は一時、鹿野のわがままぶりにキレたりもしたのですが、
やがて、わがままではあるけれどどこか憎めない鹿野に惹かれる気持ちもあり、
ボランティアとして力になっていくのです。
やがて、鹿野は自発呼吸が難しくなり、人工呼吸機をつけなければならなくなりますが・・・。
またそんな中で、自分の進路について考え直す岐路に立つ田中・美咲・・・。

重いテーマではありますが、これが大泉洋さんの持ち味と相まって、
おかしみがあり、見ごたえのある作品となっています。
ちょっと他の人の配役は考えられないですね。



鹿野さんは人から助けられるだけの存在のように見えながら、
やがてこの若い二人の心の支えになっていきます。
夜中に「バナナが食べたい」と言い出すわがままぶり。
けれど、健常者だって突然夜中にポテチが食べたくなってコンビニに走ることくらいあるはず。
(少なくても、私はないけど・・・)。
当たり前のことを当たり前にして生きようとする。
あくまでも病院ではなく自宅で。
そうしたあり方を貫く生き様が、
いつか周囲の人達に「ぼーっと生きてんじゃねえよ!」って言っている気がします。

実話をもとにしている本作は、舞台もそのまま札幌。
札幌人の私には馴染み深い光景がいくつも出てきて、嬉しい限り。
北大構内、旭山公園、三角山の見える公園、勤医協の病院・・・。
いや~、ホントにご当地作品だわー。



上映館はあさイチ上映でも満席。
年配の方も多かったです。
そして、鹿野さんが倒れるようなシーンでは「あ、あ~」という
ため息のような悲鳴のような声があちこちから上がります。
なんだかほっこりした共感に包まれているようで・・・、さすが大泉洋さんのご当地作品。
他の映画とは雰囲気が違う、と感じた私でした。

<シネマフロンティアにて>

「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」
2018年/日本/120分
監督:前田哲
原作:渡辺一史
出演:大泉洋、高畑充希、三浦春馬、萩原聖人、竜雷太、綾戸智恵
生き方を考える度★★★★☆
ご当地度★★★★★
満足度★★★★.5


「海の見える理髪店」 荻原浩

2019年01月08日 | 本(その他)

喪失感・空虚感が埋められていくマジック

海の見える理髪店
荻原 浩
集英社

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伝えられなかった言葉。
忘れられない後悔。
もしも「あの時」に戻ることができたら…。
母と娘、夫と妻、父と息子。
近くて遠く、永遠のようで儚い家族の日々を描く物語六編。
誰の人生にも必ず訪れる、喪失の痛みとその先に灯る小さな光が胸に染みる家族小説集。

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直木賞受賞作品。
家族の物語、短編集です。
長く会わなかった父と息子、
喧嘩別れした母を尋ねる娘、
家出した主婦、
親に構われない子供、
父をなくした男の思い、
娘を亡くした夫婦・・・

それぞれの喪失感・空虚感が埋められていくマジックを私達は見ることになります。
それはほんのささやかで、取るに足らない出来事かもしれないけれど・・・
私達が光を見出すにはそんなささやかなことでも十分。
逆に何人もの励ましの言葉が全然響かないことだってありますね。
そんな心の不思議を見せてくれる作品集です。

巻頭の「海の見える理髪店」
海辺の小さな理髪店を初めて訪れた青年。
店主は高齢だが背筋はしゃっきり伸びている。
丁寧な作業の間、普段はこんな話はしないのだが・・・と、
ことわりを入れながらも店主は自分の人生を語り始めて・・・。
思いがけずに波乱含みの人生。
そしてその話が収束する様が心地よい。
なるほど・・・。

巻末「成人式」
15歳という若い一人娘を事故で亡くした夫婦。
虚しく過ぎ行く日々。
娘の小さい頃のビデオは悲しみを呼び起こすだけなので、
夫婦間では見ない約束になっている。
娘が亡くなって5年。
そんなとき、成人式の着物の案内カタログが舞い込む。
どこかの古い名簿がそのままになっていたらしい・・・。
娘が生きていれば二十歳。
ますます気落ちしてしまう夫婦なのでしたが、妻がふとあることを思いつきます。
それは意表を突くバカげたことなのかもしれないけれど、
人に笑われてもやり抜いて、
娘のことで悲しみ前へ進めない自分たちの一区切りにしようという
その思い切りがなんだかいいじゃないですか! 
かつての娘の同級生たちの応援もよし。

図書館蔵書にて
「海の見える理髪店」 荻原浩 集英社
満足度★★★★.5


愛を綴る女

2019年01月07日 | 映画(あ行)

足元を見よ!

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ガブリエル(マリオン・コティヤール)は、フランス南部、
ラベンダー畑の広がる小さな村で暮らしていました。
狂わしいほどに愛する人がいたのですが、全く相手にされず失恋。
両親はその後始末と言わんばかりに、
実直そうなスペイン人労働者のジョゼ(アレックス・ブレンデミュール)とガブリエルを結婚させようとします。

「あなたはうちの親に利用されているだけ。
結婚しても絶対にあなたを愛することはない。」

と言い放ちながらも、やむなくガブリエルはジョゼと結婚します。
表面上は夫婦の体裁を整えながら結婚生活が始まったある日、
腎臓結石の治療のため、ガブリエルは温泉保養地にしばらく滞在することになります。
そしてそこで、インドシナ戦争で負傷した帰還兵アンドレ(ルイ・ガレル)と運命的な出会いをします。

ガブリエルの情愛は、ほとんど常軌を逸するほどに強いのです。
見ていても、こりゃビョーキ?と思えるほどで、
家族もしきりに彼女に病院へ行くように進めるのですが、無論彼女自身はそういう自覚はありません。
・・・というのが実は伏線だったことが後にわかるのですが・・・。



ガブリエルははっきり言って面食いですよね。
相手をよく知らないのに、ひと目で好きになった気になってしまう。
今で言ったらストーカーの素質十分。
それで、最後はまさかの展開で、驚いてしまいました。
そして、勝手気ままな妻をも包み込む、夫ジョゼの愛情・・・。
足元を見よ!
はじめから答えはそこにあったのに、よそ見ばかりするものだから・・・。



意外な展開と、納得の結末。
こういう話、好きです!

 

愛を綴る女 [DVD]
ミレーネ・アグス,ニコール・ガルシア,ジャック・フィエスキ
アルバトロス

<WOWOW視聴にて>
「愛を綴る女」
2016年/フランス・ベルギー・カナダ/120分
監督:ニコール・ガルシア
原作:ミレーナ・アブス「祖母の手帳」
出演:マリオン・コティヤール、ルイ・ガレル、アレックス・ブレンデミュール、ブリジット・ルアン、ビクトワール・デュボア
意外な展開度★★★★★
満足度★★★★☆


マダムのおかしな晩餐会

2019年01月06日 | 映画(ま行)

題名ほどコミカルな話ではありません・・・

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マダムとメイドが登場する話・・・ということで
少し古い時代を想像していましたが、いやいや、しっかり“今”の話です。



パリに越してきた裕福なアメリカ人夫婦、アン(トニ・コレット)とボブ(ハーベイ・カイテル)。
セレブな友人を自宅のディナーに招待。
ところが手違いで出席者が不吉な13人になってしまったのです。
そのため、アンは急遽スペイン人のメイド、マリア(ロッシ・デ・パルマ)を
14人目の出席者に仕立て上げます。
決してしゃべりすぎないようにと念を押して。
ところがマリアは下品なジョークを繰り出してしまい、しかしそれが皆には大受けしてしまったのです。
すっかりマリアを気に入ってしまった英国紳士は、マリアに求愛しますが・・・。

ややこしいのはこの家の小説家である息子が面白がって、
この紳士に
「マリアはさる高貴な家の出だが身分を隠して来ている。」
などとインチキを吹き込むのです。
だから彼はマリアに
「私はあなたの秘密を知っているけれども、全然気にしない。」
といいます。
彼が自分をメイドだと知っていると思ったマリアは、
後ろめたさもなく恋にのめり込んでいきますが・・・。

本作、この勘違いの恋模様がテーマかと思えば実はそうではなく、
そうしたメイドを見るマダム、アンの心持ちがテーマといっていいでしょう。
アンは、顔もスタイルもイマイチの、しかもメイドがモテてしまったことに
嫉妬し、腹を立てているのです。
というのも、すでに夫の愛は自分にはないし、他の誰も自分を愛してくれはしない。
孤独の暗い淵にいる彼女は、遠まわしに、
フィギアスケートをしているマリアの娘への援助を打ち切られたくなければ
男と別れるように言ったりもします。
嫉妬のために、ついには最も醜い本性を現さなければならなくなるアン。
しかし、その結末もまた、シビアなものなのでした・・・。

このコミカルな題名につられてみると、
ちょっと肩透かしを食いそうな作品なので、ご注意。

けれど、
「私がメイドなのはスペインからの移民だからだ。」
というマリアの啖呵と最後の決断は小気味よかったです。
そうですよ、金持ちが偉いのか!! 
あんたは金持ちの男の妻というだけじゃないの!! 
結局そういう自身の立場の寄辺なさに、アンも心の奥では気づいていたのかもしれないですね・・・。



<ディノスシネマズにて>
「マダムのおかしな晩餐会」
2016年/フランス/91分
監督:アマンダ・ステール
出演:トニ・コレット、ハーベイ・カイテル、ロッシ・デ・パルマ、マイケル・スマイリー、トム・ヒューズ

勘違い度★★★☆☆
満足度★★★☆☆


ところで、この映画館ディノスシネマズ札幌の入っているビルが
老朽化のため取り壊しが決まったとのニュースがありました。

今すぐではないにせよ、ここの映画館がなくなってしまうのはとても残念です。
ずいぶんお世話になったので。
このあとどうなってしまうのかとても心配です。
結構マイナーな作品も上映しているところなので、
ここがなければ札幌の映画事情は悲惨なものになってしまいます。
状況を見守りたいです・・・。


「なるほどそうだね 札幌のカラス2」中村眞樹子

2019年01月04日 | 本(解説)

カラスたちとの付き合い方、伝授

なるほどそうだね 札幌のカラス2
中村 眞樹子
北海道新聞社

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大好評第2作は驚き! のエピソード48
「ベランダの鉢植えにから揚げが!?」
「切符を買うカラス、その真相は?」
「ビルのはしごに頭が挟まっています! 」
など、カラスたちのユニークな日常を文と写真、イラストで紹介。
観察歴約20年の著者ならではのディープな話題が満載です。
産卵から巣立ちまでを追った「街なかブトの子育て観察記録」、
「こんなものを食べています」はカラー特集で。

* * * * * * * * * *

早くも「札幌のカラス」第2弾が出ました。
前巻は基本的なカラスの生態についてが主な内容でしたが、
本巻では著者が見聞きした実例が満載。
まさに、著者のカラス愛が溢れています。

まずは、カラスといえば常に話題となるゴミ置き場の散らかし問題ですが、
つまり、徹底したガードが大事ということなのですね。
実は我が家すぐ側のゴミ置き場、たまーにとっちらかっていることがあります。
しかし、きちんと決められた時間内に、きちんとガード板を立ててくれれば防げることなんですよ。
つまりはこれはカラスが悪いのではなくて、ルールを守らない人間が悪い! 
「カラスが見ていますよ」とか書いた看板でも出してみましょうか・・・?

あとは子育て期のカラスが人を襲う問題。
著者は、わずかの期間なので、どうか広い心で見守って・・・というスタンスです。
この時期、著者のところには一般市民のみならず行政からも相談が多いそうですよ。
実は昨年の初夏、カラス応援団のつもりの私も、
営巣した木の下を歩いてカラスに襲われてしまいました。
悲し~(T_T)
いやいや、でも、決してカラスは憎めない。
応援団は続けます・・・!

そして、著者が観察を続けるうちには、多くのカラスの死ももちろん目撃しています。
そんなところの描写では思わず私ももらい泣き・・・。

著者は普段から夜6時頃には布団に入り、午前2時過ぎに目を覚まし、
パソコンチェックをして、自転車で早朝の街に出てカラスの行動を記録しているのだとか・・・。
いやあ、とてもマネできることではありません。
これからはカラスと、カラス応援団長の中村眞樹子さん、
双方を応援していきます!

図書館蔵書にて

「なるほどそうだね 札幌のカラス2」中村眞樹子 北海道新聞社
満足度★★★★☆


クリムゾン・タイド

2019年01月03日 | 映画(か行)

潜水艦内の抗争劇

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戦争モノというよりも、潜水艦内の抗争劇というべきかもしれません。


ロシアの反乱軍がシベリア核ミサイル基地を占拠し、アメリカと日本が核攻撃の危機にさらされます。
そのため米海軍の誇る原子力潜水艦アラバマに出撃命令が出ました。
歴戦叩き上げのラムジー艦長(ジーン・ハックマン)と、
ハーバード大卒エリート、ハンター副官(デンゼル・ワシントン)が配置されます。
しかしこの二人は反りが合わず、核に対する思想でも対立を見せます。
そしてついに、米国防省からの通信司令により、核ミサイル発射準備に入ったアラバマ。
しかし敵艦の魚雷攻撃により通信装置が破損し、
その後の司令が受け取れなくなってしまうのです。
予定通りミサイルを発射すべきだという艦長と
次の司令を確認しないうちは発射すべきではないという副官は折り合うことができず、
やがて艦内真二つに割れた抗争が始まりますが・・・。

軍規では艦長と副官双方の同意がなければミサイルは発射できないことになっているのです。
だからこの場合、いくら艦長が主張しても副官の同意を得られないのだからミサイルは発射できない、
というのが正しい措置のはず・・・。
しかし互いのかねてからの反目があって、冷静な判断ができなくなってしまったように見受けられます。


いや、それにしても一度核ミサイルが発射されれば、
直ちに報復措置が取られて、新たなる戦争、
しかもどれだけの犠牲が出るか想像もつかないほどの悲惨な戦争の口火を切ることになってしまう・・・。
ここはどうあっても慎重に願いたいところですよね・・・。
1995年作品なので、ロシアの反乱軍が原因となってはいるのですが、
今なら某北の国を想定するほうが自然のようです・・・。

ハンター副官は、部下にコミックの話をしたり、スター・トレックの話をしたり、
結構人望を得ている所が良いんですよ。
そして彼の兼ねてからの親友役がビゴ・モーテンセン。
ロード・オブ・ザ・リングのブレイク前ですね。
それで、ハンターに味方する役かと思えば、なんと・・・!! 
ちっ、残念なヤツ。

潜水艦内のバタバタ中にも、刻一刻と反乱軍のミサイル発射予定時刻が迫ってきます。
何にせよ、早く結論を出さなければならない。
閉鎖空間の中でのタイムリミットありの抗争劇。
結構ハラハラさせられました。

クリムゾン・タイド [DVD]
ドン・シンプソン,ジェリー・ブラッカイマー,マイケル・シーファー
パイオニアLDC



<WOWOW視聴にて>
1995年/アメリカ
監督:トニー・スコット
出演:デンゼル・ワシントン、ジーン・ハックマン、ジョージ・ズンザ、ビゴ・モーテンセン
ハラハラ度★★★★☆
核使用を考える度★★★★☆
満足度★★★★☆


パッドマン 5億人の女性を救った男

2019年01月02日 | 映画(は行)

インドの立花萬平

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インド作品。
お約束どおりに歌も踊りもあって、けれど実話を元にしている感動作。

インドの小さな村。
ラクシュミ(アクシャイ・クマール)は、最愛の妻・ガヤトリ(ラーディカ・アープテー)と新婚生活を送っています。
彼は町工場で働いていて、個人的にも何かを工夫して人の役に立つものを作るのが好き。
ある時、妻が不衛生な布を生理時に使っているのを見て、
なんとか衛生的で安価なナプキンを作ることはできないかと思い立ちます。

本作の舞台は2001年くらい。
無論、インドでもナプキンは販売されていますが、
とても高価でいつも使うような贅沢はとてもできません。
この頃のインド女性のナプキン使用率は12%だとか・・・。
おまけに、生理中の女性は穢れているとされ、
生理の間中、室内に入ることができず、
外のバルコニーのようなところで過ごさなければなりません。
その女性の穢れについて男性が云々するなどもってのほか。
ラクシュミはなんとかナプキンの試作品を作って妻や家族、
そして女性の医学生などに試してもらおうとするのですが、
気味悪がられ、変態扱いされ、そして妻には「恥」だと言われて、
ついには村をでなければならなくなってしまいます・・・。
そこまでが前半。


いつもながらインド作品はやや長いのですが、
本作は137分と、それほど長すぎるというほどでもありません。



村を出たラクシュミはそれでもナプキンを諦めきれず、
お金をかけずに勉強するために、わざわざ大学教授の家に住み込んで下働きをしたりもします・・・。
そんな中でわかったのは、ナプキンの材料は綿ではなくセルロースで、
ナプキンを大量生産するオートメーションの機械も販売されているということ。
しかし、到底買えるような代物ではありません。
でも、その工程ごとに別々の機械を作れば簡単だし、安く済みます。
そもそも、そういうことが大の得意なラクシュミなのです
そして、彼の熱意に賛同した女性パリー(ソーナム・カプール)の協力も得て、
ようやく道が開けていき・・・。



なんといいますか、絶対に人の役に立つという信念と、
度重なる困難・逆境にもめげないというところで、
まさにインドの立花萬平さんだなあ・・・と思ってしまいました。
違うのは、残念ながら彼の奥さんは福ちゃんのようには夫を信じていなかった・・・。
けれど、別の女性が彼を支えるようになるというのが、興味深いですね。


そして、このナプキンづくりや販売は女性たちの雇用を生み出し、
女性の自立支援にもつながっていくという素晴らしい効果があったのです。
私は以前から生理用品の発達が女性の社会進出を推し進めたと考えているのですが、
本作を見て、ますますそのことを確信しました。
ニューヨークで演説するラクシュミの言葉は実に感動もの。
面白くてしかも感慨深い、トクマルのオススメ。


<ディノスシネマズにて>
「パッドマン 5億の女性を救った男」
2018年/インド/137分
監督・脚本:R・バールキ
出演:アクシャイ・クマール、ソーナム・カプール、ラーディカ・アープテー、アミターブ・バッチャン

不屈度★★★★★
社会への貢献度★★★★★
満足度★★★★★


「ストーナー」ジョン・ウィリアムズ

2019年01月01日 | 本(その他)

悲しみに満ちて美しい

ストーナー
東江 一紀
作品社

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半世紀前に刊行された小説が、いま、世界中に静かな熱狂を巻き起こしている。
名翻訳家が命を賭して最期に訳した、"完璧に美しい小説"。

* * * * * * * * * *

新年はじめにとびきり上質な作品をご紹介します!

「ストーナー」。
東江一紀さん訳、ということで手にとってみました。
まずこの本の来歴がちょっと変わっています、
この本がアメリカではじめて刊行されたのは約50年前の1965年。
一部の愛好家には支持されたけれども、
著者がこの世を去るとほとんど忘れ去られていたといいます。
ところが2006年にこの本が復刊されまして、
しかしやはりアメリカではさして売れなかった。
ところがフランスの人気作家がこの本を読んでいたく感激し、
2011年にフランスで翻訳版が刊行される。
そしてたちまちベストセラーとなりヨーロッパ各国でも翻訳出版される。
そしてまるで逆輸入のように最後に本国アメリカでもまたベストセラーになる、という具合です。
さらに日本で刊行されたのが2014年。
東江一紀さん、最後の翻訳本でもあります。

本作は、うだつの上がらない大学教授の人生を描く作品で、
派手な成功物語が好きなアメリカでははじめ受けなかったようなのですね。
でも、ヨーロッパの人はどうかよくわかりませんが
(いや、気に入ったから売れたのでしょうけれど)、
日本人ならきっと好きだと思います。


貧しい農家で生まれ育ったストーナーは、農業を学ぶために大学へ進学したのですが、
共通科目である「英文学」の授業で、生まれて初めての感動を体験します。
そこで彼は専攻を英文学に変え、その成績が認められて同大学で教鞭をとるに至る。
初恋の相手との結婚は、しかし成功だったとは言えず、
本人にその気がないのだから出世するわけもなく、
ひたすら英文学と学生たちに向かうだけの長い年月・・・。


地味です。
実に。
ですがストーナーの忍耐的かつ受動的な生き様の描かれ方は、
悲しみに満ちていてどこか美しい。
全然華々しくなんかないのに、
そこには誰とも違う一人の人間の生き様が凛としてあることに気がつくのです。
結局これは一人の大学教授の物語なんかではない。
私達一人ひとりの人生の物語でもあるのだと思います。

万人に通じる人生の悲しみの物語。
でも私は実はストーナーはとても幸福だったのではないかとも思う。
英文学の授業で教師が諳んじたシェークスピアの詩篇を聞き、
電撃に打たれたように感じるストーナー。
その時のことを後に彼は「言葉にならない感動を言葉によって得た。」と思います。
結局その自分の魂の底から求愛するものを職業として得て、
死ぬ間際まで貫き通す事ができた。
これ以上幸せなことがあるでしょうか。
そして、この本は訳者・東江一紀さんが、病床にありながら仕事を続け、
本当に残り1ページというところで息を引き取ったという最後の作品。
なんだかストーナーと重なり合うところがあって、一層切なく心に迫ります。
素晴らしい本でした。

図書館蔵書にて
「ストーナー」ジョン・ウィリアムズ 東江一紀訳 作品社
満足度★★★★★