新・遊歩道

日常の中で気づいたこと、感じたこと、心を打ったこと、旅の記録などを写真入りで書く日記です。

『あきない世傳 金と銀』高田郁

2019年12月04日 | 本・新聞小説
安納芋で「芋羊羹」を作りました。ほんのひとつまみの塩を入れ忘れたので、代わりに桜の塩漬けをちょっと乗せました。



友人から高田郁さんの本が回ってきました。1・2・3巻は読んでいたのでその続き4・5・6巻の時代小説です。武家社会とは違う庶民の生き方、市井の生活が丁寧に分りやすく書かれています。NHK「みをつくし料理帖」の原作も高田郁さんです。



江戸中期、学者の父とよき理解者である兄をなくした主人公・幸は9歳で大阪天満の呉服商「五十鈴屋」に奉公に出されます。
「一生鍋の底を磨いて暮らす」女衆(おなごし)でありながら、徐々にその才能を番頭に見いだされます。
学者の父からは「商は詐なり」と教えられていた幸ですが、次第に商いに惹かれていきます。

そして奉公人から五十鈴屋の店主の妻の座に。結婚、死別、再婚、離婚、再婚、死別と同じ五十鈴屋の家族の中で、あり得ないことを有りうることのように自然に繰り返しながら、危機に陥った経営を建て直し・・・と幸・不幸を繰り返しながらの、言わば立身出世伝です。
一つ一つの事象、商法、世の中の経済状況をなるほどと納得させ、共感させ、ジグザグしながら右肩上がりに上っていく義理人情が心地よいです。

歴史小説ではないのですが、著者は庶民の衣食住を丹念に調べていて、大阪商人の家庭、老舗の仕組み、商人の組織と流通、着物の歴史がよくわかります。
たびたびの危機を乗り越え、大阪を本店にして江戸進出を果たし、人や商習慣の違いを乗り越えながら、呉服が絹から木綿へと流通が変わろうとしているところで力量発揮、そこで終わります。まだまだ7・8巻へと続きます。
*****#####*****#####*****
呉服商仲間の決まりは厳しかったようです。商品を客の元へ持参して売る「屋敷売り」、つまり外商。注文を受けて客の元に届ける「見世物商い」。この二つは掛け売りで、貸し倒れのリスクもありました。
「店前(たなさき)現金売り」もあります。
この頃は反物だけを買い、その後は個々人に合った仕立てが普通。絹物だけを扱う「呉服屋」、綿は繊維が太いので「太物商」とは区別されます。
絹が重宝されていますが、合理的な綿が勢いを持ってきます。この頃の帯は前に結び、それが後ろ結びに変わるところです。

この辺りの仕組みにヒントを得れば、商習慣を破って新しい需要を考えた商いの発展があり、これが緻密なストーリーに繋がっています。

丁稚→手→️番頭と変わっていくごとに、名前も〇吉、〇七、〇助と、吉→️七→️助と規則的に変わっていきます。〇には名前が1文字入り、ここで他人と区別されます。これは私には大きな発見でした。

丁稚の間はおよそ10年。住み込みで無給、お仕着せを与えられます。
手代になってやっと接客、商いができ給料ももらいます。
番頭は経営や家政も任され、暖簾分けもあります。
とにかく肩の凝らないスラスラ読める楽しい読み物でした。


コメント    この記事についてブログを書く
« 「マリインスキー歌劇場管弦... | トップ | 中村哲氏 アフガンの地で非... »