萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

第49話 夏橘act.2―another,side story「陽はまた昇る」

2012-07-08 23:41:20 | 陽はまた昇るanother,side story
秘密と約束、そして記憶たち



第49話 夏橘act.2―another,side story「陽はまた昇る」

消灯前の点呼が終わって、周太は扉に鍵を掛けた。
かちり、小さな音に施錠を聴き届けると、ルームライトをデスクライトに切り替えた。
あわいブルーの光が部屋を照らし出す、どこか優しい空間に微笑んでファイルを手に取るとベッドに座りこんだ。
壁に背凭れページを開く、その背中が静まり返っている。こんなふうに隣室が静かなことは、やっぱり寂しい。
いつも初任科教養の頃から英二は、隣室か周太の部屋に居てくれたから。

…英二、今頃まだ車の中かな?

夕食の頃に2通のメールを受信した。
英二からと光一からと、それぞれ「富士山に行ってくる、後でまた電話していい?」と書いてあった。
それぞれに周太も「気を付けてね、待ってるね、」と返事をした。

…今頃どうか、ふたり幸せに笑っていると、いいな?

そう微笑んだ周太に、ふっと夕方の記憶が心過ぎった。

「…ページの抜け落ちた本、」

華道部に行く道すがら藤岡が話してくれた遺留品「本」の謎。

―…あの本ってページがごっそり抜けていただろ?たぶん本人が切り落としたんだけどさ、
 その動機がドッチの意味か…脱け出したくて切り落としたのか…未練があるから切り落とした

昨日、英二が事例研究で話した絞殺事件の証拠物件「ページが抜け落ちた本」の事を、藤岡はそう話してくれた。
けれど英二は「ページが抜け落ちた」ことは言わなかった、英二が本を発見した事も言わなかった。

…言わなかった理由は、なぜ?

この疑問符に一冊の本が意識に浮上する。
父の書斎に遺された、ふるい紺青色の表装の、フランス語で綴られた一冊の小説。

『Le Fantome de l'Opera』

ほとんどのページが抜け落ちた古い本、あの本の存在を英二も知っている。
初めての外泊日、初めて一緒に書店へ行ったときに買った本が『Le Fantome de l'Opera』だったから。
あの本を買った理由を後で訊かれて、ページの落丁のことを話した記憶がある。

「…あの本も、」

父が生まれるより前の出版年だから、経年から自然と落丁したのだと思っていた。
けれど、本当に、あんなにたくさんのページが抜け落ちる?
落丁したとしても、抜けたページは何処にいった?

「出版年は…1938年、昭和13年…お父さんが生まれる前…誰が買って…?」

父が生まれる前に発行された本は、誰が買ってきたのだろう?
古本屋でも買えるかもしれない、けれど同じ型版で新品があの本は買える。だって自分は買って持っている。
じゃあ父は、誰かにあの本を譲られたのだろうか?
それとも父が生まれる前から本棚にあった?

「…あの本、おじいさんの本?」

さらり零れた言葉に、周太の瞳が大きくなった。

あの書斎は父の前は祖父が使っていた、その前は曾祖父が使っていた。
それならあの書斎の本たちは、祖父が買ったものが多いのかもしれない。
あの書斎の本はどんな本が多かった?それから家にある本は?

「フランス語…書斎はほとんどフランス語の本…日本語の本は廊下とホール…ホールはドイツ語の本も…リビングはフランス語と日本語…」

家にある本は当然、父や祖父達が揃えたものだろう。
それなら遺された蔵書の種類から、祖父や曾祖父のことが解かるかもしれない。
どうして今まで、そのことに気付かなかったのだろう?

「お母さんの部屋もフランス語と日本語…客間もそう…テラスも」

家の蔵書を記憶のファイルに捲りだす。
家にある本の大半はフランス語、次に日本語、ドイツ語、それから英語で綴られた本が3冊くらい。
そこまで考えて、ふっと周太は「矛盾」に息を呑んだ。

「どうして英語の本…3冊しかないの?」

父は、英文学科を卒業したと聴いている。
父は流暢なキングス・イングリッシュを話し、周太にも『Wordsworth』をテキストに教えてくれた。
そしてラテン語も堪能だった、一緒につくっていた採集帳のラベルも流麗なラテン語で学術名を書いていた。
そんな父がなぜ、自身が学んだ英文学の本を3冊しか持っていない?

「…お父さんの大学時代までの本、どこにあるの?」

博学で、読書が大好きだった。
父に訊いて解からないことは無かった、勉強でも本でも植物でも、なんでもよく知っていた。
そして英語の発音が綺麗で、キングスもアメリカ英語も話しわけられて、お蔭で周太の英語の成績は抜群だった。
フランス語も堪能で、ときおり家族で行ったビスロトではフランス人のシェフと話していた。
そんな父は警察官というより学者のようで、書斎に座っている姿が似合っていた。
そういう父が、どうして英文学の本を3冊しか持っていないのだろう?
どうしてフランス語の本ばかり、家にはあるのだろう?

「…おじいさんがフランス文学の人なの?…あ、」

前にWEBで「湯原晉」を検索した事がある。
そして5人が過去帳にある祖父の年代に適合した、建築家、鉄鋼の技術者、温泉旅館の主人、あと大学の先生が2人。
このなかに、フランス文学の大学教授がいた。

『東京大学文学部仏文学科教授 湯原晉 パリ第三大学Sorbonne Nouvelle名誉教授』

「あのひとが、俺の…おじいさん?」

とても立派な人のようだった。
戦後日本で文学を支え、世界的にも著名な学者だとWEBにも載っていた。
そんなひとが自分の祖父なのだろうか?そんな想像は畏れ多いようにも思えてしまう。
けれど、書斎の蔵書たちはフランス文学の原書と専門書が多くて保存状態も良く、確かに彼に相応しい。
でも、そうだとしたら、なぜ?

なぜ『Le Fantome de l'Opera』は壊れた落丁のままでいる?

そうだとしたら何故、壊れた本が彼の蔵書にあるのだろう?
そんな世界的なフランス文学者が、フランス文学の名著を「ページの抜け落ちた本」にするだろうか?
どれも他の蔵書たちは端正な保存状態、それなのに何故、あの一冊だけが壊れたままでいる?

「そう…他の本は、壊れた痕があっても…修繕されてる、なのに…」

どうして?

疑問にため息を吐いて、ふとデスクライトへと目を遣った。
デスクでは純白の花がブルーの光にまばゆい、華道部で使った花を今日も貰ってきて活けてある。
この花の言葉と、心めぐる「ページが抜け落ちた本」が呼応してしまう、そして花言葉が唇こぼれだす。

「…秘密、」

なぜ書斎の『Le Fantome de l'Opera』はページが抜けている?
誰が、何の目的で、『Le Fantome de l'Opera』は壊れたままにした?
なぜ英二は事例研究で証拠の本が「ページが抜け落ちていた」ことを言わなかった?

「…ね、英二?…なぜ言わなかったの?なにか知ってるの?…秘密、なの?」

必ず周太の隣に帰ること
いつか必ず一緒に暮らすこと
生涯ずっと最高峰でも周太へ想いを告げること

これが英二がくれた「絶対の約束」の3つ。
そして将来を添い遂げる約束「婚約」をしてくれた。

―…俺の運命のひとは周太だ。他の誰でもない、男も女も関係ない。
 代わりなんていない、周太だけ。だから俺の幸せは周太の隣にしかない…これが真実…これだけしか無い

そんなふうに言ってくれた、あのとき幸せだった。
あの言葉を約束を覚えている、だからこそ自分は光一を英二の隣にいて欲しいと望んだ。
あんなにも求められたなら、自分が消えた後のことが心配で堪らないから。
いつか自分は父の軌跡を追って英二の前から姿を消す、それを解かっているから。
そして英二が本当は「周太が消える」ことを怖がっていると解っているから。

「…英二が怖がってる、こと…」

“英二が怖がっている”

このフレーズに推測が生まれる。
英二は「ページが抜け落ちた」本であるとは言わなかった、その理由は『Le Fantome de l'Opera』?
書斎の『Le Fantome de l'Opera』の「ページが抜け落ちた」理由が、“英二が怖がっている”ことに関係がある?

自分が「父の軌跡に立つ」ことは『Le Fantome de l'Opera』の落丁と関わりがある?

「…お父さんの秘密が、あの本にある?」

ふっと纏まった考えに、デスクライトの白い花が映りこむ。
初夏の花「空木」うつぎ、枝が空洞なことから「空ろの木」と書く。
この空洞にあるのは「秘密」だとなぞらえて、花言葉として寄せられた。

この花木の空洞のように『Le Fantome de l'Opera』の空白には「秘密」が隠されている?

「…でも、どうして英二…」

どうして英二は、自分にも秘密にするの?

この答えが解からない。
愛するひとの考えは何所にあるのだろう?
この「秘密」の理由を知りたい、なぜ自分の父や祖父のことなのに言ってくれない?
こんなに自分が父達のことを知りたいと願っている事を、いちばん理解している相手のはずなのに?

「…わからない、でも…信じたい、」

ため息まじりに本音こぼれていく。
理由は解からない、けれど信じていたい、唯ひとり将来を約束してくれた人だから。
本当は自分には「将来」が訪れるのか約束なんて出来ない、そう知りながら共に生きようと覚悟と希望をくれた。
それだけでも「無償の愛」なのだと、今なら解る。

「ごめんね、えいじ…」

ぽとん、

涙ひとつ頬伝って、ファイルに落ちていく。
このファイルも英二が7ヶ月間を懸けて作ってくれた、周太の安全を祈って。
こんなにまで全て懸けて守り、愛してくれる。最初に約束した「初めての夜」の想いのままに。

―…けれど、諦める事も出来ない。気持を手放そうとしても、出来なかった
 ただ隣で、湯原の穏やかな空気に触れている。それだけの事かもしれないけれど、俺には得難い居場所なんだ…
 ご両親を大切にする、湯原が好きだ。辛い事にも目を背けない、戦う強い湯原が好きだ
 繊細で、不器用なほど優しい湯原が好きだ。頑固だけれど端正な、真っ直ぐな湯原が、俺は好きだ…
 警察官の俺には、明日があるのか分らない。だから、今この時を大切に重ねて、俺は生きたい
 湯原の隣で、俺は今を大切にしたい。湯原の為に何が出来るかを見つけたい。
 そして少しでも多く、湯原の笑顔を隣で見ていたい
 どんな結論でも、俺はきっと、湯原を大切に想う事は止められない
 隣に居られなくても、何があっても。きっと、もう変えられない
 ただ、湯原には笑っていて欲しい。どんなに遠くに居ても、生きて、幸せでいてくれたら、それでいい

あの夜の言葉たちが、想いが、記憶から涙に変わってあふれだす。
あんなふうに言われて恋を自覚して愛して、そして今もう離れられない、自分より大切で愛している。
けれど置いて行かなくてはいけない瞬間は運命の顔で近づいている、そう解っている。

それでも英二は諦めてはいない、そう自分には解ってしまう。
だってこのファイルの内容を見れば解かる、7カ月間を英二が何を想ってくれていたのか解かる。
この7カ月間、どれだけの努力と苦悩と経験を積み上げて、このファイルを作りあげたのか?
その全てが結局は周太の為、そう解る。そんな想いの人を疑うなんて、出来るわけが無い。
だから信じていたい、心から。

「ね、えいじ?…秘密にするだけの意味と理由がある、そうだよね…」

きっと英二の考えがあって秘密にしている。
あの初めての夜よりも、はるかに英二は賢明な男になり大人の男になった。
そんな英二の判断力は信じられる、そして英二の隣には最高の山ヤの警察官である山っ子がいる。
あの山っ子をこそ、心から自分は信じている。

「…光一、気に入ってくれたかな?」

ひとりごと微笑んで涙拭って、ファイルのページに目を落とす。
きっと富士山を見ながら英二は、光一に贈り物を渡してくれただろう。
あのプレゼントは英二が考えてくれた、とても光一には似合うと周太も想う。

今頃は、身に着けてくれただろうか?
そんな考え巡らしながらもページを繰ったとき、優しい音楽が静寂をゆらした。
この音楽は唯ひとりの人だけが鳴らす、その人の俤に微笑んで周太は携帯を開いた。

「周太、待っていてくれた?」

綺麗な低い声がうれしそうに訊いてくれる。
いま聴けて嬉しい大好きな声、その向こうに微かなエンジン音が響く。
まだ移動中なのかな?そんな想像と周太は笑いかけた。

「ん、待っていたよ?…まだ車の中?」
「うん、もうじき東京に入るけどね。点呼が終わったろうな、って架けてみた、」

元気そうな声が嬉しくなる。
こんなふうに英二は光一と一緒なら明るく元気でいられる、それが嬉しい。
どうかずっと元気に笑っていて?祈るよう周太は電話むこうに微笑んだ。

「ありがとう、富士山は楽しかった?」
「富士山が良く見えるところで、飯作って食ったよ。山中湖のとこだけどさ、」
「あ、前に光一が連れて行ってくれた所かな?…湖の畔で、駐車場が近い、」
「うん、そこだと思うよ?その場所でプレゼント渡したよ、」

やっぱり渡してくれたんだ?
素直に嬉しい気持ち微笑んで、周太は大好きな婚約者に尋ねた。

「ありがとう、渡してくれて。…喜んでくれた?」

あの贈り物は、意味が深い。
だから喜んでもらえたのか少し心配にもなる、あの贈り物は「約束」で繋ぐ一種の束縛でもあるから。
あの束縛を英二が選んだことは、自由な気質の光一にはどんな意味を持つだろう?
そんな想いに首傾げこんだ周太に、きれいな低い声が笑いかけた。

「ちょっと待ってね、周太、」

小さな音と、短く交わす言葉が聞える。
そして少しだけ遠い声が周太に明るく笑った。

「周太、プレゼントありがとね。すごく俺、嬉しかった、」

透明なテノールが幸せそうに笑ってくれる。
そのトーンに光一の心が見えて、周太は綺麗に笑った。

「気に入ってくれたなら、嬉しいよ?…ね、いま、運転中じゃないの?」
「イヤホンマイク使ってるからね、大丈夫。でさ…この時計で周太、帰ってきてって俺に言ってくれてるワケ?」

すこし心配そうに尋ねてくれる、その言葉と雰囲気に「約束」が喜ばれたと解かる。
こんなふうに光一も「約束」を望んでくれる?嬉しい気持ち素直に周太は頷いた。

「ん、帰ってきてね、英二と一緒に…その時計と一緒に英二と、ずっと最高峰に登ってね?」

英二と、ずっと最高峰に。
この祈りをどうか叶えてほしい、願えるのは光一しかいないから。
英二の唯ひとりのアンザイレンパートナーにしか自分の願いは叶えられない、だから祈っている。

「うん、ずっと一緒に登るね。それで一緒に周太のとこに帰るよ、ずっと。約束するからね、」

透明な声が、約束を結んでくれた。

幼い日に初めて出逢ったときから、光一は信じられる。
だからこの約束もきっと永遠に守ってくれる、それが与えてくれる安心が嬉しい。
本当は、自分の許に帰ってきてもらうことは難しくなる、自分が遠くへ行くことになるから。
それを光一も英二も解かっている、それでも光一は言ってくれた。

「ん、ありがとう。約束だね、」

たとえ叶わない約束だとしても、幸せだ。
この約束の温もりを支えに自分は生き抜ける、だから幸せだと想えてしまう。

…約束を聴けた、この今の瞬間も幸せだな?

そんなふうに幸せは周太を温めてくれる。
この温もりに今ひとり見つめたばかりの「秘密」の涙が慰められる。
こんなふうに優しい想いは瞳へと、ゆるやかな熱に昇って涙こぼれおちた。



弥生キャンパスの学食は地下なのに窓がある。
この陽光明るい窓際に座るのは、今日で4回目になるな?
そんなふうに考えながら箸を運んで、ふと気になったことを周太は自分の先生に訊いてみた。

「青木先生、この学食は、いつも土日も開いているんですか?」
「本当は土日は休みなんです。でも、シンポジウムや特別講義があると開きます。だから来週は休みかな?」

いつもながら丁寧に答えて青木准教授はすこし悪戯っ子に笑った。
言われて見渡してみると確かに、講義で見かける顔が多く座っている。
隣で美代も見まわしながら、納得したよう頷いた。

「講義の後、ここで食事できると良いですよね?」
「でしょう?だから希望して、開けてもらっています。まあ、自分がここで食べられると楽だから、なのですけどね、」

可笑しそうに目を細めて、青木准教授は丼片手に箸を運んでいる。
この先生は実直で生真面目、けれどユーモラスな性質が明るく楽しい。
まだ40代らしい若い准教授は知的な顔立ちに眼鏡が似合って、少し無骨な頼もしい雰囲気は温かい。
そんな雰囲気は山ヤの警察官たちと似て、つい大好きな人の俤を思い出す。
こういう人は誰かさんみたいに、たぶんモテるだろうな?そんな感想の隣から可愛らしい声が率直に訊いた。

「青木先生の奥さま、お綺麗な方でしょう?」

すごいストレートな質問だな?
ちょっと驚いて隣を見ると、きれいな明るい目は実直なまま微笑んでいる。
ほんとうに単に訊いているだけ。そんなストレートな明るさに青木准教授は笑って答えた。

「はい、夫が言うのもなんですけれど、美人です、」
「あ、やっぱり。恋愛結婚ですか?」
「ええ、学生時代からの付合いです、」
「先生、きっとモテるでしょう?なんか、そんな感じがします、」
「これは照れる質問ですね?自分では良く解らないのですが、どうなのでしょうか?」

明るい率直な美代の問いに、つい青木准教授も楽しげに答えている。
こういう明るさが美代は純粋に穏やかで、だからストレートな質問も嫌みにならない。

…こういう真直ぐなところが英二も大切にしたくなるんだよね?

そう納得した所で周太は質問を思い出した。
あの質問は、この快活な先生からも答えが貰えるかもしれない。
そんなふうに考えて周太は口を開いた。

「あの、先生のお友達は、先生のことを質問されたりとか、していましたか?」

昨日の夕方にも困ったことの解決法を知りたい。
心裡そっとため息吐いた周太に、隣から美代が明るく笑って訊いてくれた。

「宮田くんのこと、学校で女の子たちに訊かれちゃうの?」

すぐに美代は察してくれた。
理解が嬉しくて周太は素直に頷いた。

「ん、そう…研修の初日からなんだ。部活の初日からは、同じ部活の女の子にずっと訊かれていて、」
「ずっと、って毎日なの?」
「ん、俺が1人でいると訊きにくるんだ、さり気なく逃げようと思うんだけど…」
「じゃあ昨日とか、大変だった?昨日から宮田くん、青梅に戻るって言ってたものね?」
「ん。校門まで見送った所で、捕まっちゃって…でも、藤岡が助けてくれて、」

言いかけた言葉を、名前の記憶にふっと呑んだ。

―…あの本ってページがごっそり抜けていただろ?

昨夜も考えた「ページが抜け落ちた」本のことが意識に映りこむ。
きっと英二は秘密にしたがっている、けれど気になってしまう。あの紺青色の本の「空白」に籠められた秘密を知りたい。
そんな考えに沈みかけた時、前から深くて快活な声が笑いかけてくれた。

「湯原くんでも、女の子には困るんですね?そんなに彼はカッコいいんですか?」

そんなふうに言われると照れてしまう。
さあっと首筋から熱が昇ってしまう、このままだとまた赤くなりそう?
けれど困りかけた隣から、美代が明るく笑って言ってくれた。

「はい、宮田くんはすごくカッコいいです。私も憧れているんですけど、本命以外は見えない人なんです。ね?」

きっともう、今、真赤になってる?



(to be continued)

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