萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

第49話 夏閑act.4―side story「陽はまた昇る」

2012-07-12 23:59:22 | 陽はまた昇るside story
ぬくもり、君に恋して



第49話 夏閑act.4―side story「陽はまた昇る」

越沢バットレスは「こいざわ」と読むことが、最初は意外だった。

この高度80mの岩壁はマルチピッチの練習場として著名で、御岳山から鳩ノ巣駅を結ぶ尾根の対岸に位置する。
岩壁登攀、所謂アルパインクライミングの自由登攀ピッチ・グレードでIV級からVI 級と難易度も高い。
滑りやすく脆い岩質でもあり、谷川岳にある一の倉沢南稜・中央稜より難しいとも言われる。
この越沢バットレスでVI級という鋸ルートを登りきって、英二は終了点から岩壁を見下ろした。

「気持ちいいな、」

高度感がある岩壁の向こう、新緑ゆたかな森が瑞々しい。
からり爽やかな皐月の風が体をすり抜けていく、岩壁を吹上げる風がすこし熱った体に心地いい。
ぼんやり緑を眺めていると、救助隊服姿の光一がクライマーウォッチを見て笑った。

「宮田、すっかりタイム速くなったね?半年前と大違い、」

透明なテノールが「宮田」と呼んで、底抜けに明るい目が微笑んだ。
その向こう、藤岡と白丸駐在の大野が奥多摩交番の木下と腰を下している。
今は青梅署山岳救助隊の公式訓練でここにいる、公務の時間らしく英二も名字で呼びかけた。

「国村のお蔭だよ、」
「だね、感謝しな?ま、おまえの7ヶ月間の努力は、立派だね、」

飄々とテノールは答えて笑ってくれる。
この笑顔は7ヶ月前と同じよう明るいけれど、ずっと素直な雰囲気が寛いだ。
こういう貌を見せてくれる信頼感が嬉しい、穏かに微笑んだとき藤岡がこちらに来てくれた。

「お疲れ、宮田。おまえ、すごい速かったな?」
「ありがとう、でも藤岡こそ速いよ、」
「俺はガキの頃から、兄ちゃんと裏山に登ってたからさ、」

からっと人の良い顔で笑っている。
いつも藤岡は明るくて人が好い、そして周太とのこともフラットに聴いてくれた。
いま初任総合でも同じ教場で過ごす同期として、周太のことも秘密を守ってくれている。
そんなふうに秘密を背負わす事が申し訳なくて、率直に英二は謝った。

「藤岡。周太とのこと、教場でも秘密にしてくれて、ありがとうな、」
「うん?当たり前のことだろ?人のこと勝手に喋ったら馬鹿だよ、」

至極当然と言う口調で率直に言ってくれる。
こういう押しつけがましさが無いところが藤岡は良い、この同期が卒業配置の相方で良かった。
卒業配置は通常2人一組で配置されるけれど、お互いに山岳救助隊を志願した者同士、似ている部分もあるかもしれない。
そんなことを考えていると、ふと藤岡が口を開いた。

「そういえばさ、昨日、あの事件の本のこと湯原に訊かれたよ、」

とくん、

心を鼓動が引っ叩く。
昨夜、冷水を被りながら気づいたミステイクが、心に突き刺さる。
けれど冷静な脳髄のまま、いつもどおり英二は穏やかに笑いかけた。

「あの事件って?」
「ほら、絞殺死体の傍にさ、文庫本が落ちていた件だよ。あの本の内容を訊かれた、」

やっぱり周太は質問をしてしまった。
心裡そっと溜息ついた隣から、透明なテノールが微笑んだ。

「ああ、『春琴抄』の件だね?ページが抜けてたコトとか、話しあったワケ?」

さらりとした誘導尋問。
けれど当然に問われる相手は気づくことも無く、正直に口を開いた。

「うん、話し合うってほどでもないけどさ?まあ、俺の見解はちょっと話したな、」
「藤岡の見解って、どんなだったっけね?」
「被害者は加害者との恋愛に、未練があるから切り落としたって結論だったけど、脱け出したくて切り落としたのかも?ってヤツ」

本からページが切り落とされていたことを、周太はもう知ってしまった。
この事例から周太は気がついただろう、自宅の書斎にある紺青色の本を思い出したに違いない。
今日きっと周太は家に帰り紺青色の本を開いて確認する、そして自分が買った本と照合するだろう。

紺青色の表装『Le Fantome de l'Opera』古い本と新しい本。

この2冊が周太を運命に気付かせてしまうのは、いつだろう?
それともキーワードに気付くまでで、真相には辿り着くことなく終わるだろうか?
バットレスの風に考え巡らす隣、光一と藤岡は話しを続けている。

「ああ、そうだったね?で、周太は何て言ってた?」
「ちょうど部活が始まっちゃってさ、話しはそこまでだよ。部活の後は別の話題だったし、」

別の話題って何だろう?
ふと気になって英二は口をはさんだ。

「別の話題って?」
「うん?ああ、部活の前に湯原、ちょっとしたアクシデントがあってね?そのこと、」

部活の前は、英二と一緒に周太は校門のところに居た。
あの後すぐに部活に行ったと思っていた、けれど違うのだろうか?気になって英二は訊いてみた。

「アクシデント?昨日は周太、俺と校門で別れた後は、部活だったと思うけど、」
「うん、その部活の直前だな。まあ、ちょっとしたことだけどさ」

人の良い笑顔で藤岡が口開きかけた時、大野が笑って藤岡の肩を叩いた。

「藤岡、そろそろ下降しよう。夕方の巡回、早めに出たいんだ、」
「あ、俺もです。じゃ、また月曜にな、宮田」

からっと笑って藤岡は、さっさと大野と一緒に懸垂下降のスタンバイに入ってしまった。
小柄で陽気な後ろ姿を見送りながら、英二は首傾げこんだ。

「アクシデント、って…なんだと思う?」
「うん?」

隣から底抜けに明るい目がこちら見てくれる。
すこし考えるよう光一も首傾げ、尋ねてくれた。

「部活ってさ、華道部だったよね?」
「うん、そうだけど?」

それが何か関係あるのかな?
そう目で訊いた英二に、秀麗な貌は唇の端を上げ微笑んだ。

「華道部って、女が多いよね?で、周太は首席で真面目で、マジ可愛いよな、ねえ?」
「…え、」

それってもしかして?
かるく息呑んだ英二に、愉しげにテノールが言った。

「周太、俺たちも惚れちゃうくらい、イイよね?で、ウチのばあちゃんも、美代ん家もね、みんな周太のこと気に入ってるよ?」

それってつまり、こういうこと?

「それ…周太のこと、同期の女が気に入って、告白した、ってこと?」
「ま、可能性はゼロじゃないよね、」

からり笑って光一も、懸垂下降のスタンバイを始めた。
けれど、ぼんやり英二は立ちつくして、考えをぐるり廻らしだした。
成績優秀で射撃は2大会優勝者、華道部でも周太は褒められている。
そんなとき周太はいつも頬染めて、謙譲の性格と含羞の可愛らしさが顕れてしまう。
すっかり今は素のままでいる周太は、初任総合でも「前と違う」と驚かれながら好意的に見られている。

―周太、やっぱりモテるのか

穏やかで優しい癒し系、かつ、聡明で凛々しい。
そういう周太のことを気に入る女性は、きっと多いだろう。
自分こそ同性で男だけれど、そういう周太に首ったけで恋の奴隷になってしまっている。
だから想ってしまう「周太だったら老若男女も関係なく好かれても、仕方ないのかもしれない?」
バレンタインの時にも感じた胸の燻りに、ぼんやり英二は自分の怜悧なパートナーに尋ねた。

「…なあ?俺がいない隙にさ、周太にアプローチ掛けたりとか…するヤツ、いるのかな?」
「そりゃね。可能性としちゃ、当然あるよね?」

そんなの当り前だよね?

そんな冷静な眼差しで英二を見、慣れた手つきがザイルをダブルにセッティングしていく。
こんなふうに光一は大概では全く動じない、こういう大らかな野太さは今ちょっと羨ましい。
他のことなら自分も冷静なのに?こんな自分は慣れていない、我ながら持て余していると悪戯っ子の目が笑った。

「いつまでもね、ボンヤリしてんじゃないよ?下降のスタンバイして、宮田。ほらっ」

飄々と笑いながら白い指は、英二の額を容赦なく小突いた。

「いてっ」

小突かれ、反射的に声が出た。
ちょっと今のは痛い、けれど額の衝撃に意識が〆られて英二は笑った。

「ごめん、30秒待って、」
「早くしてね?ラストスタートでもトップ獲るよ、俺たちエースなんだからさ、」

からり笑われながら、英二は素早く装備の点検を始めた。
今は訓練中で公務の時間、こんなときに悩んでいたら事故に繋がってしまう。
それは自分がいちばん赦せない、そんな想いに両掌で1つ、ぱんっ、と顔を叩いで冷静を戻した。



新宿での乗換え時間、英二は一旦改札を出た。
すこし速い歩調にいつもの花屋に入る、そしてカウンターに声をかけた。

「こんばんは、花束をお願い出来ますか?」

すぐ声に顔を上げて、すっかり馴染みの女主人はカウンターから出て来てくれる。
花の方へと歩み寄りながら、いつもどおり優しい笑顔で訊いてくれた。

「こんばんは、お久しぶりです。どういったお花でしょう?」
「母の日の花束を、お願いします。一週間遅れですけど、」

周太の母に、初めての母の日の花を贈りたい。
本当は先の日曜が母の日だった、けれど奥多摩にいたからメールだけは送った。
たったそれだけ、でも彼女は嬉しそうに返事をくれた。それが自分の方こそ嬉しかった。
こんなふうに、いつも温もりをくれる彼女に感謝を示したい。そんな想いと花屋に佇む英二に、女主人は笑いかけてくれた。

「いつもの方で、よろしいですか?きれいな瞳の、」
「はい、お願いします、」

頷いて答えかけて、英二はすこし考えた。
すぐに考えをまとめると、花をまとめ始めた女主人へと尋ねた。

「すみません、配達はお願い出来ますか?」
「はい、あまり遠くで無ければ、」

すこし驚いたよう、けれど優しい声で答えてくれる。
その答えに微笑んで英二は、追加の注文をした。

「じゃあ、もう1つ、母の日の花束をお願い出来ますか?場所は成城なんですけど、」
「かしこまりました、では、こちらの伝票を書いて頂けますか?」

纏めかけた花を腕に抱いて、カウンターへと案内してくれる。
きれいなペンと宅配用の伝票を英二の前に置くと、彼女は丁寧に教えてくれた。

「成城でしたら、明日の午前中にお届けできます。お時間のご指定などありますか?」
「朝9時前とかでも、大丈夫ですか?」
「はい、早いお時間の方が、助かります。お色やお花の好みは、こちらに書いて下さいね、」

言われて、ふと母の花の好みを知らない事に気がついた。
姉の好みは何となく解かる、あわいピンク系の花が好きだから、なんどかプレゼントしたことがある。
けれど、母はどんな花が好きだったろう?

―父さんが、母さんに花を買って来るときは…?

考えかけて、思い出せない。
父が母に花を買ってきたことが、思い出せない。
父が母に花を贈る姿を、一度でも見たことがあっただろうか?

母にも、母の日に寄せて花を贈りたい。
そんな想いがさっき、周太の母に贈る花束から自然に起きてくれた。
けれど、前に自分が母に花を贈ったのは、いったい何年前だろう?

―小学校1年生のとき、カーネーションを1本贈った…な、

あのときより前は一度も無い、あれが初めてだった。
もう17年前になる母の日の記憶、あのとき母は、どんな顔をしていただろう?

「…あ、」

不意に目の奥が熱くなって、英二は目を閉じた。
今まで自分たち父子は、母にどう接してきたのだろう?
思い返していく記憶に呆然とする心へと、ふっと穏やかな声が映りこんだ。

―…本当は寂しがりで、繊細な人だと思う。すこし不器用で、頑固に見えるけど…本当は、人を好きになりたい人だよ

関根に「宮田のお母さんって、怖い?」と訊かれた周太の答え。
この答えに気付かされる、母を寂しさに閉じ込めたのは誰なのか?母が頑なになった原因は何なのか?
そして気づかせてくれるひとの優しい純粋が、どこまでも温かい。

―周太、君はいつも、人の素顔を見つけられるんだね

最初に英二の素顔を見つけたのは、周太。
黒目がちの瞳で静かに見つめて、穏やかな声で話して、相手の心をほどいてしまう。
そんなふうに、周太は相手を真直ぐ受けとめ、心の素顔に向きあっていく。

ずっと13年間を孤独に籠った周太、それは父親の殉職への無神経な同情が辛かったことも原因だろう。
けれど本当の理由は「誰も哀しませたくない」自分の運命に巻きこみたくない、そんな優しい遠慮だった。
そんなふうに独り哀しみも辛さも抱え込んで、それでも真直ぐ立ってきた周太だから、哀しみ苦しむ人を見れば放っておけない。
自分が苦しんで泣いただけ、相手の傷みが周太には解り過ぎるから。

そんな周太の言葉が今、母に英二を向き合わせ、親子の想いを繋いでくれる。
いま周太は傍にはいない、新宿と川崎で離れている。それでも言葉の記憶は今、心響いて母の素顔に気付かせていく。
こうして離れている今も黒目がちの瞳は心映りこんで、母を真直ぐ見つめさせてくれる。

―やっぱり君を愛してる…君だけに恋してしまうね、周太?

そっと想い微笑んで、英二はペンを取った。
左手で注文伝票を抑える、その手首に嵌めた腕時計に微笑んで『花束イメージ』欄にペンを走らせた。

『華やかで繊細な人のイメージで』




まだ空が、どことなく明るい。
川崎駅から家までの道、歩きながら携帯を開くと18:55と表示されている。
予定では20時ごろだった、けれど御岳駐在所長の岩崎が「たまには休め」と早く帰らせてくれた。

本来、自分は卒業配置から山岳救助隊に配属できる人材では無い。
けれど後藤からの要請に応えた遠野教官が、英二を選んで卒配を決めてくれた。
しかも英二は既にクライマー専門枠で正式任官をした、だからこそ尚更に足を引っ張りたくない。
そんな想いで今日も訓練に参加した英二に、越沢バットレスから戻ると岩崎は言ってくれた。

「初総の研修期間なんだからな?本来は通常業務は休んでも、構わないんだ、」
「ありがとうございます、でも今はシーズン中です。それに俺は、一般採用だったのに志願して卒配させて貰いましたから、」

いま5月は初夏の新緑が美しい。
この季節はハイカーも多く、山岳救助隊は登山道巡回や登山計画書チェックだけでも忙しい。
それを解っているから藤岡も外泊日は鳩ノ巣駐在に戻る、だから自分も当然のことだろう。けれど岩崎は笑ってくれた。

「ほんとうに宮田は、真面目だな?でも、今日は家に帰るんだろ?きっと待ってるよ、夕方の巡回が終わったら帰っていいよ、」

そう言って、夕方の巡回が終わってすぐに英二を帰らせてくれた。
お蔭で1時間も早く帰ってこられた、この予定変更を新宿で乗り換えてからメールしたけれど、返信はまだ無い。

「…周太、気がついていないのかな?」

独り言と歩きながら英二は、携帯をポケットに仕舞い込んだ。
歩く向こう、懐かしい木造の門が見えてくる。
この「懐かしい」が温かで、切ないほど嬉しい。こんな想いは実家でもしたことが無かった。

―待っていてくれる人を、本当に好きなんだ、俺は

その人にもうすぐに逢える、微笑んで門の扉を開いた。
軽く木材の軋む音響いて扉開かれる、その向こうから爽やかな樹木の香が頬撫でた。
あまくて柑橘の漂う香に顔を上げると、街燈の灯りに常緑樹が見えた。
その濃い葉陰には、真白く小さな花と金色の実が光に映えている。

「夏みかんか、」

微笑んだ言葉に、3月の記憶が優しくふれてくる。
遭難事故の後に静養した時、この木を「夏みかんだよ?」と周太は教えてくれた。
あのとき笑顔が嬉しそうで可愛くて、黄金の実がなる梢の緑陰にキスをして。それがひどく幸せだった。

「…明日も、キスしたいな、」

独りごとに願いを言って、踵返すと英二は花束と鞄を提げて玄関へと向かった。
飛石が革靴の底を鳴らす、この音も懐かしいと感じてしまう。
もうここが「自分の家」になってしまった、実感に微笑んですこしネクタイを緩めた。
そして衿元から革紐を引き出し合鍵を手に取ると、扉の鍵穴に挿しこんだ。

かちり、

開錠音が嬉しい。
こんな小さな事も幸せな自分が、可笑しいけれど温かい。
微笑んだまま扉を開いていく向こう、玄関ホールに藍色のエプロン姿が現われだす。
ちゃんと待っていてくれた、自分のこと。逢いたかった大好きな姿に英二はきれいに笑った。

「ただいま、周太、」

幸せに微笑んで玄関に入ると、英二は扉の鍵とチェーンを掛けた。
ホールをふり向いた視線の真中に、黒目がちの瞳が幸せに微笑んでくれる。
そしてスリッパのまま周太は三和土に降りると、ぽん、と抱きついてくれた。

「おかえりなさい、英二、」

こんなの可愛いです、ものすごく。

スリッパ履いたままのとこ、抱きついてくれるとこ、とんでもなく可愛いです。
どうしよう幸せでまた変になりそう?笑って英二は花束を持っていない右腕一本で、小柄なエプロン姿を抱きあげた。
首に回してくれる腕が温かで、間近くなった笑顔が愛しくて、想い素直に唇へとキスふれた。

―あ、…あまずっぱい

ふれたキスの味と香に、周太が何をしていたのか解る。
初恋の味は甘酸っぱいとよく言うけれど、こんな感じなのかな?
なんだか幸せな感想を口ふくみ離れると、英二は幸せに笑いかけた。

「周太、佳い香だね?夏みかんかな、」
「ん、そう…」

素直に答えながら、きれいな首筋が赤くなっていく。
きっとキスの香を言われて気恥ずかしがっている、こういう淑やかさが周太は初々しい。
こういうとこ可愛くて大好き、そんな本音を心裡に言いながら英二は靴を脱いでホールに上がった。
階段下で抱きおろすと、黒目がちの瞳が英二の左手に気がついて微笑んだ。

「この花束、母の日?」
「そうだよ、周太、活けてもらってもいいかな?」

あわいトーンのカーネーションとオールドローズの花束。
周太の母のイメージに合う雰囲気が、あの花屋の主人の人柄を偲ばせる。
大きな花束を抱きとりながら微笑んで、周太が尋ねてくれた。

「ね、あの花屋さんに行ってきた?」
「うん、そうだけど、」

答えて、ちりっと焼かれる感覚が心に走った。
さっき花屋の主人に言われたことが、みっともないけど妬いてしまう。
そんな途惑い心隠した英二に、優しい笑顔が訊いてくれた。

「英二のお母さんにも、お花、贈ったの?」

どうして解かるのかな?
ちょっと驚きながらも解かって貰えることが嬉しくて、素直に英二は頷いた。

「うん、宅配も出来るって言うから、お願いしてきた、」
「よかった、きっと喜んでくれるね?」

嬉しそうに言って、黒目がちの瞳が幸せに笑んでくれる。
こんな笑顔を見せて、英二の母のことまで喜んでくれる心が温かで、愛しい。

「周太、ありがとう。愛してるよ、」

こんなふうに温もりくれる人、だから恋して愛している。
愛しさに英二は屈みこむと、大好きな人の唇にキスをした。





(to be continued)

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