容、それぞれの視点と想い
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/17/31/6406c6fab8dde76a7feeeb037150261f.jpg)
soliloquy 建申月act.7 Rose hivernale ―another,side story「陽はまた昇る」
落葉松の純林は、黄金色にページを彩らす。
渋みの金色あざやかに紙面を染めて、去年の秋を思い出さす。
この街から電車で2時間もかからない森、その場所での幸せな記憶に周太は微笑んだ。
「手塚、これって奥多摩の森でしょ?…雲取山の野陣尾根の落葉松だと思うんだけど、」
「どれ?58ページな、」
横から覗きこんで、日焼けした指が索引ページを開いていくれる。
そこに表記された地名へと、愛嬌の笑顔は明るくほころんだ。
「当たりだ、すごいな湯原?よく解ったな、」
「ん、だって行った事あるからね、」
なんでも無いことだと笑って、オレンジの缶酎ハイに口付ける。
ほろ酔い加減が気分いいな?楽しい気持ちに缶を傍らに置いた隣、缶ビール片手の友達は瞳ひとつ瞬いた。
「もしかして湯原って、一度行った事ある場所を正確に記憶するタイプ?」
「ん?タイプっていうか…みんなそうじゃないの?」
驚いたよう訊かれて、不思議になってしまう。
なんでそんなに驚くのかな?首傾げこんだ肩を、ポンと軽やかに叩くと手塚は笑ってくれた。
「すごいな、ソレって樹医になるには有利な才能だよな、もしかしてイラストにも描けたりする?」
「あんまり細かいとこは難しいけど、大体ならね?」
答えながら缶に口付けてオレンジの香を楽しむ。
酎ハイって初めて飲んだな?思いながらページをめくった前に、画用紙と鉛筆が差し出された。
「湯原、さっき見た白神山地のイラスト描いてみなよ、」
「ん、ブナの林だよね?」
答えながら軽く首傾げて、さっき見た森を思い出す。
大きなブナの木肌や梢が心に浮んで、その通りに画用紙へと線を引いていく。
ざっくりとしたタッチで形をとり、記憶の限りで幹の斑と葉を描いて友達に差し出した。
「大雑把だけど、ごめんね?」
「いや、大したモンだろ?へえ、ほんと同じだな?」
写真集のページと照合して、感心気に笑ってくれる。
こんなふう森の絵を誰かに見せることは、そう言えば何年振りだろう?
…お父さん亡くなってから、ずっと描いてなかったかも?
あらためて気がついて、幼い日に抱いた樹医の夢に申し訳ない気持ちにさせられる。
ずっと夢も置き去りにしていた記憶喪失に、今更ながら困った実感が込みあげて何だか可笑しい。
可笑しくてオレンジ酎ハイを片手に笑った周太へと、手塚も一緒に笑ってくれた。
「イラストも巧いし、フランス語も英語も出来てさ、湯原って多才なんだな?」
自分が多才?
そう言われて驚いてしまう、才能と呼べるものが自分にあるのだろうか?
努力しか自分には無いと思っていたのに?そんな途惑いと、けれど素直に嬉しくて周太は微笑んだ。
「そんなでも無いと思うけど、でもありがとう、」
「そんなでもあるよ、」
缶ビール片手に笑ってくれる、その気さくな笑顔が愉しくなる。
愉しい気持ちに微笑んで、けれど褒められた面映ゆさに困りながら、何げなく書棚の一冊を引き出してみる。
他より薄い写真集を手にとって、その表紙の意外さに周太は友達へと笑いかけた。
「手塚、木とか花がメインの写真集が多いのに、これは違うんだね?」
手にとった写真集を示した先、眼鏡の奥で目が大きくなる。
ちょっと驚いた、そんな貌をしてすぐ愉快に手塚は笑いだした。
「もしかして湯原、エロ本って初めて見た?」
それって何だろう?
あまり聞きなれない単語に首傾げながら訊いてみた。
「ん、こういう本は初めて見るけど、人体のデッサン用の本?」
何げなく広げたページ、美術の教科書で見た裸婦像が写真になっている。
こういう本を見てデッサンするんだろうな?そんな納得をした前で友達は笑いだした。
「ちょ、湯原、もしかして冗談言ってる?ははっ、」
「冗談を言ってるつもりはないんだけど、俺、なんか変なこと言ってる?」
どうして笑うのかな?
よく解らないけど、手塚の笑顔に愉しくなってくる。
なんだか可笑しくて愉しくて、一緒に笑いだした周太に手塚が尚更笑った。
「あははっ、なに湯原、笑っちゃってるけど、やっぱり冗談だった?」
「ううん、冗談とか言ってるつもり無いけど、なんか可笑しくって笑っちゃうね、」
なんだか解からないけれど、愉しいな?
ただ可笑しくて笑っていると、手塚がページをめくって訊いてきた。
「湯原ってさ、どんな娘がタイプ?」
「ん?…手塚は?」
タイプの女の子とか考えたことが無いな?
ちょっと困りながら訊いてみた先、悪戯っ子の笑顔がページを広げて指さした。
「この娘とか好きだな、俺、」
言われて見た先、服を着ないで女の子が鉛色の海辺にしどけなく横たわっている。
なんだか寒々しい空と格好に、気の毒になって周太は首を傾げた。
「なんか寒そうだね?砂も冷たそう…モデルって大変だね、風邪ひかないかな、」
知らない人だけれど心配になってしまう。
きっとプロとして当然のことなのだろう、でも人間なら裸で外は寒いだろうに?
…英二は服を着ているモデルだから良かったよね?
英二もモデルをしていた時がある、その写真はどれも振袖姿だから良かった。
いわゆる女装だから本人は恥ずかしがっている、けれど綺麗だから良いのにと自分は思う。
でも女の子の恰好はやっぱり困るかな?考えながら花の写真集を開いた周太に、愛嬌の貌が笑いだした。
「湯原ってさ、本当にピュアで良いよな?女の子にモテるだろ、今年のバレンタインは何個もらった?」
全部で幾つだったかな?
考えながら写真集のページをめくり、数を思い出す。
そんな手許に現われた冬薔薇に、ふっと惹きこまれて周太は微笑んだ。
「全部で9個かな?ね、俺、この子は好みだよ、」
クリアな印象の薄紅いろ、ほころびかけの冬薔薇のつぼみ。
寒空にも顔をあげた凛々しい姿が愛おしい、そんな冬の花に心惹かれる。
強く潔い冬の花と似た人は好きだな?そんな想い笑いかけた周太に友達は愉しげに笑ってくれた。
「うん、俺もこういう花は好きだな。こんな感じの女の子いたら、俺のストライクだな、」
「ね、凛としてるのに優しくて、綺麗だよね?」
友達も同じよう、好きだと言ってくれる。
それが嬉しくて笑った周太に、陽気な悪戯っ子が笑いかけた。
「で、女の子はどんな娘が好きなんだよ?」
「あ、…ん?」
訊かれて考え込んでしまう、どういう女性が自分は好きだろう?
そう考えて浮んだのは母の笑顔と美代だった。
…お母さんは大好きだけど、手塚が訊くのはそういう意味じゃないよね?美代さんも友達だから違うんだろうな?
たぶん「恋愛対象になる女性」を手塚は訊いている。
けれど自分の婚約者は女性ではない、何て答えて良いのか困っていると明朗な声は訊いてきた。
「小嶌さんは彼女じゃないんだよな?でも、かなり可愛いと思うけど。好みとは違うワケ?」
「ん、俺も可愛いと思うよ?でも好みって、れんあいたいしょうって意味なんでしょ?」
答えながらも感心してしまう、やっぱり美代は「かなり可愛い」と想われるんだな?
けれど美代は服装はきちんとしても、自身の容貌をそう気にしていない風で化粧も淡い。
むしろ自身の知識や能力を美代は気にする、そうした克己心が話していて楽しい。そう考え廻らす前で手塚が笑った。
「もちろん恋愛対象って意味だよ?小嶌さんは湯原にとって、そういう対象になり得ない?」
「そうだね、恋愛とは違うと思う…話していて本当に楽しいけど、どきどきとかしないし。美代さんも同じだと思うよ?」
思ったままを正直に答えて、缶に口付ける。
ふわり柑橘の爽やかな甘みが美味しい、すこし熱くなる喉の感じも楽しくなる。
あまり話した事のない話題もなんだか楽しいな?そう笑った周太に手塚も笑ってくれた。
「湯原、ドキドキとかって感覚は知ってるんだな?じゃあさ、ドキドキするのはどんなタイプなんだよ、」
さっき見ていた『CHLORIS』のひとです。
そう心裡で答えて、首筋が熱くなって鼓動が弾む。
けれど英二は男性だから、今の質問の答えにはならないだろう。
…それ以前の問題として、ね?男同士でっていうのは手塚、どう想うんだろう?
心の問いに、すこし怖くなる。
同性の恋愛は偏見も多いと自分でも調べて知っている、それが心を重くしてしまう。
けれど、このまま本当の友達になっていくのなら、いつか話さなくてはいけない日が来る。
…そのときには嫌われるかもしれない、でも嘘は吐きたくない。だから…お互いに親友だって想う日が来たら、話したい
いつか手塚と親友と呼びあえる日が来るかもしれない、そんな予兆は今日たくさん感じている。
それは美代と初めて会った時と似ていて、話すこと全てが楽しく、互いに気楽でいられる感覚が温かい。
この予兆が現実になれば英二の事を話す瞬間が訪れるだろう、そのとき正直な告白をして手塚の判断に委ねたい。
そんな覚悟を見つめて微笑んだ周太に、愛嬌の眼差しほころばせ手塚が笑いかけてくれた。
「俺がドキドキするタイプは、声と匂いが綺麗なひとなんだ。落着いて透明なカンジって好きでさ、冬のバラっぽいだろ?」
「ん、そういう人って素敵だよね?」
本当に素敵だと頷きながら想ってしまう。
自分が大好きな婚約者と幼馴染は、当にそんなタイプだろう?
…でもね、男の人は今は対象外なんだから…でも、女のひとで声と香が落着いて透明ってなんか…あ、
落着いて透明な雰囲気、声と香の綺麗な女性。
そんな女性をひとり知っている、冬薔薇のよう清雅で春薔薇みたいに優しいひと。
いつも想う憧れを見つめた心へと、優しいアルトの声が記憶から微笑んで周太は答えた。
「あのね、花の女神さまみたいな人に俺、どきどきするよ?…花屋さんのひとで、花を『この子』って呼ぶ人なんだ、」
雑踏の素っ気ない都心の駅、佇んだ一軒の優しい花屋。
あの灯のような花園に立ちたくて、どこか不思議な女主人に逢いたくて、時おり店を訪れる。
すらりと背の高い細身は香から優雅で、凛として優しい顔立ちの笑顔は綺麗で、いつも穏やかに温かい。
あの深いアルトの声が「あの子」と花を呼ぶ度に嬉しくなる、そんふうに嬉しいのは「タイプの女性」だからだろう?
…見ているだけで嬉しいんだ、あの店長さんのこと。異動になってからも花、買いに行きたいな
想い、微笑んで缶に口つける。その唇へとオレンジが甘く香った。
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第58話「双璧9」幕間です
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soliloquy 建申月act.7 Rose hivernale ―another,side story「陽はまた昇る」
落葉松の純林は、黄金色にページを彩らす。
渋みの金色あざやかに紙面を染めて、去年の秋を思い出さす。
この街から電車で2時間もかからない森、その場所での幸せな記憶に周太は微笑んだ。
「手塚、これって奥多摩の森でしょ?…雲取山の野陣尾根の落葉松だと思うんだけど、」
「どれ?58ページな、」
横から覗きこんで、日焼けした指が索引ページを開いていくれる。
そこに表記された地名へと、愛嬌の笑顔は明るくほころんだ。
「当たりだ、すごいな湯原?よく解ったな、」
「ん、だって行った事あるからね、」
なんでも無いことだと笑って、オレンジの缶酎ハイに口付ける。
ほろ酔い加減が気分いいな?楽しい気持ちに缶を傍らに置いた隣、缶ビール片手の友達は瞳ひとつ瞬いた。
「もしかして湯原って、一度行った事ある場所を正確に記憶するタイプ?」
「ん?タイプっていうか…みんなそうじゃないの?」
驚いたよう訊かれて、不思議になってしまう。
なんでそんなに驚くのかな?首傾げこんだ肩を、ポンと軽やかに叩くと手塚は笑ってくれた。
「すごいな、ソレって樹医になるには有利な才能だよな、もしかしてイラストにも描けたりする?」
「あんまり細かいとこは難しいけど、大体ならね?」
答えながら缶に口付けてオレンジの香を楽しむ。
酎ハイって初めて飲んだな?思いながらページをめくった前に、画用紙と鉛筆が差し出された。
「湯原、さっき見た白神山地のイラスト描いてみなよ、」
「ん、ブナの林だよね?」
答えながら軽く首傾げて、さっき見た森を思い出す。
大きなブナの木肌や梢が心に浮んで、その通りに画用紙へと線を引いていく。
ざっくりとしたタッチで形をとり、記憶の限りで幹の斑と葉を描いて友達に差し出した。
「大雑把だけど、ごめんね?」
「いや、大したモンだろ?へえ、ほんと同じだな?」
写真集のページと照合して、感心気に笑ってくれる。
こんなふう森の絵を誰かに見せることは、そう言えば何年振りだろう?
…お父さん亡くなってから、ずっと描いてなかったかも?
あらためて気がついて、幼い日に抱いた樹医の夢に申し訳ない気持ちにさせられる。
ずっと夢も置き去りにしていた記憶喪失に、今更ながら困った実感が込みあげて何だか可笑しい。
可笑しくてオレンジ酎ハイを片手に笑った周太へと、手塚も一緒に笑ってくれた。
「イラストも巧いし、フランス語も英語も出来てさ、湯原って多才なんだな?」
自分が多才?
そう言われて驚いてしまう、才能と呼べるものが自分にあるのだろうか?
努力しか自分には無いと思っていたのに?そんな途惑いと、けれど素直に嬉しくて周太は微笑んだ。
「そんなでも無いと思うけど、でもありがとう、」
「そんなでもあるよ、」
缶ビール片手に笑ってくれる、その気さくな笑顔が愉しくなる。
愉しい気持ちに微笑んで、けれど褒められた面映ゆさに困りながら、何げなく書棚の一冊を引き出してみる。
他より薄い写真集を手にとって、その表紙の意外さに周太は友達へと笑いかけた。
「手塚、木とか花がメインの写真集が多いのに、これは違うんだね?」
手にとった写真集を示した先、眼鏡の奥で目が大きくなる。
ちょっと驚いた、そんな貌をしてすぐ愉快に手塚は笑いだした。
「もしかして湯原、エロ本って初めて見た?」
それって何だろう?
あまり聞きなれない単語に首傾げながら訊いてみた。
「ん、こういう本は初めて見るけど、人体のデッサン用の本?」
何げなく広げたページ、美術の教科書で見た裸婦像が写真になっている。
こういう本を見てデッサンするんだろうな?そんな納得をした前で友達は笑いだした。
「ちょ、湯原、もしかして冗談言ってる?ははっ、」
「冗談を言ってるつもりはないんだけど、俺、なんか変なこと言ってる?」
どうして笑うのかな?
よく解らないけど、手塚の笑顔に愉しくなってくる。
なんだか可笑しくて愉しくて、一緒に笑いだした周太に手塚が尚更笑った。
「あははっ、なに湯原、笑っちゃってるけど、やっぱり冗談だった?」
「ううん、冗談とか言ってるつもり無いけど、なんか可笑しくって笑っちゃうね、」
なんだか解からないけれど、愉しいな?
ただ可笑しくて笑っていると、手塚がページをめくって訊いてきた。
「湯原ってさ、どんな娘がタイプ?」
「ん?…手塚は?」
タイプの女の子とか考えたことが無いな?
ちょっと困りながら訊いてみた先、悪戯っ子の笑顔がページを広げて指さした。
「この娘とか好きだな、俺、」
言われて見た先、服を着ないで女の子が鉛色の海辺にしどけなく横たわっている。
なんだか寒々しい空と格好に、気の毒になって周太は首を傾げた。
「なんか寒そうだね?砂も冷たそう…モデルって大変だね、風邪ひかないかな、」
知らない人だけれど心配になってしまう。
きっとプロとして当然のことなのだろう、でも人間なら裸で外は寒いだろうに?
…英二は服を着ているモデルだから良かったよね?
英二もモデルをしていた時がある、その写真はどれも振袖姿だから良かった。
いわゆる女装だから本人は恥ずかしがっている、けれど綺麗だから良いのにと自分は思う。
でも女の子の恰好はやっぱり困るかな?考えながら花の写真集を開いた周太に、愛嬌の貌が笑いだした。
「湯原ってさ、本当にピュアで良いよな?女の子にモテるだろ、今年のバレンタインは何個もらった?」
全部で幾つだったかな?
考えながら写真集のページをめくり、数を思い出す。
そんな手許に現われた冬薔薇に、ふっと惹きこまれて周太は微笑んだ。
「全部で9個かな?ね、俺、この子は好みだよ、」
クリアな印象の薄紅いろ、ほころびかけの冬薔薇のつぼみ。
寒空にも顔をあげた凛々しい姿が愛おしい、そんな冬の花に心惹かれる。
強く潔い冬の花と似た人は好きだな?そんな想い笑いかけた周太に友達は愉しげに笑ってくれた。
「うん、俺もこういう花は好きだな。こんな感じの女の子いたら、俺のストライクだな、」
「ね、凛としてるのに優しくて、綺麗だよね?」
友達も同じよう、好きだと言ってくれる。
それが嬉しくて笑った周太に、陽気な悪戯っ子が笑いかけた。
「で、女の子はどんな娘が好きなんだよ?」
「あ、…ん?」
訊かれて考え込んでしまう、どういう女性が自分は好きだろう?
そう考えて浮んだのは母の笑顔と美代だった。
…お母さんは大好きだけど、手塚が訊くのはそういう意味じゃないよね?美代さんも友達だから違うんだろうな?
たぶん「恋愛対象になる女性」を手塚は訊いている。
けれど自分の婚約者は女性ではない、何て答えて良いのか困っていると明朗な声は訊いてきた。
「小嶌さんは彼女じゃないんだよな?でも、かなり可愛いと思うけど。好みとは違うワケ?」
「ん、俺も可愛いと思うよ?でも好みって、れんあいたいしょうって意味なんでしょ?」
答えながらも感心してしまう、やっぱり美代は「かなり可愛い」と想われるんだな?
けれど美代は服装はきちんとしても、自身の容貌をそう気にしていない風で化粧も淡い。
むしろ自身の知識や能力を美代は気にする、そうした克己心が話していて楽しい。そう考え廻らす前で手塚が笑った。
「もちろん恋愛対象って意味だよ?小嶌さんは湯原にとって、そういう対象になり得ない?」
「そうだね、恋愛とは違うと思う…話していて本当に楽しいけど、どきどきとかしないし。美代さんも同じだと思うよ?」
思ったままを正直に答えて、缶に口付ける。
ふわり柑橘の爽やかな甘みが美味しい、すこし熱くなる喉の感じも楽しくなる。
あまり話した事のない話題もなんだか楽しいな?そう笑った周太に手塚も笑ってくれた。
「湯原、ドキドキとかって感覚は知ってるんだな?じゃあさ、ドキドキするのはどんなタイプなんだよ、」
さっき見ていた『CHLORIS』のひとです。
そう心裡で答えて、首筋が熱くなって鼓動が弾む。
けれど英二は男性だから、今の質問の答えにはならないだろう。
…それ以前の問題として、ね?男同士でっていうのは手塚、どう想うんだろう?
心の問いに、すこし怖くなる。
同性の恋愛は偏見も多いと自分でも調べて知っている、それが心を重くしてしまう。
けれど、このまま本当の友達になっていくのなら、いつか話さなくてはいけない日が来る。
…そのときには嫌われるかもしれない、でも嘘は吐きたくない。だから…お互いに親友だって想う日が来たら、話したい
いつか手塚と親友と呼びあえる日が来るかもしれない、そんな予兆は今日たくさん感じている。
それは美代と初めて会った時と似ていて、話すこと全てが楽しく、互いに気楽でいられる感覚が温かい。
この予兆が現実になれば英二の事を話す瞬間が訪れるだろう、そのとき正直な告白をして手塚の判断に委ねたい。
そんな覚悟を見つめて微笑んだ周太に、愛嬌の眼差しほころばせ手塚が笑いかけてくれた。
「俺がドキドキするタイプは、声と匂いが綺麗なひとなんだ。落着いて透明なカンジって好きでさ、冬のバラっぽいだろ?」
「ん、そういう人って素敵だよね?」
本当に素敵だと頷きながら想ってしまう。
自分が大好きな婚約者と幼馴染は、当にそんなタイプだろう?
…でもね、男の人は今は対象外なんだから…でも、女のひとで声と香が落着いて透明ってなんか…あ、
落着いて透明な雰囲気、声と香の綺麗な女性。
そんな女性をひとり知っている、冬薔薇のよう清雅で春薔薇みたいに優しいひと。
いつも想う憧れを見つめた心へと、優しいアルトの声が記憶から微笑んで周太は答えた。
「あのね、花の女神さまみたいな人に俺、どきどきするよ?…花屋さんのひとで、花を『この子』って呼ぶ人なんだ、」
雑踏の素っ気ない都心の駅、佇んだ一軒の優しい花屋。
あの灯のような花園に立ちたくて、どこか不思議な女主人に逢いたくて、時おり店を訪れる。
すらりと背の高い細身は香から優雅で、凛として優しい顔立ちの笑顔は綺麗で、いつも穏やかに温かい。
あの深いアルトの声が「あの子」と花を呼ぶ度に嬉しくなる、そんふうに嬉しいのは「タイプの女性」だからだろう?
…見ているだけで嬉しいんだ、あの店長さんのこと。異動になってからも花、買いに行きたいな
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